すすきのアウトサイドパーク02

 夕が沈みきって暮れて。夜になると街外れの空き地に人が集まっていた。創成川リバーサイドボーイズガールズの集まりだ。



 今日は俺も参加が許された。集合場所と時間はスマホでは知らされない。必ず口頭でのみ伝言される。電子でも紙でも証拠が残れば悪用されかねないと、トップは考えているんだろう。用心深い社長様。俺のところにも昼間、ボーイズが三人来た。余計なことを喋らないようにひとりにさせなかったのだろう。いつも入念だ。この組織は遊びで集まったガキ共の溜まり場でないことがわかる。軍隊に近い。



 ガキは全部で三十人少しが集まった。男と女と半分ずつぐらいだろうか。俺はさっそく行動を始めた。聞き込み調査だ。しかし、俺がメンバーの近くに行くと彼ら彼女らは俺に必ず一礼した。上下関係がしっかりしているというか、なんというか。このグループでは俺のような人間でも、名前も顔もよく知られていることがわかる。偉くなった覚えはないんだけど。



「なあ、こいつらしってる? 二人組らしいんだけど」



 俺は犯人像を元にスケッチをした、二人組をノートに書いたものを見せた。画像よりはずっとマシだろ。おやっさんからもらった情報と一緒に、何人かに聞いて回ったが駄目だった。やはり情報が曖昧というか、決定打に欠ける情報しか無いのが駄目だ。



「どうした」



 そこに冬の終わりにも関わらず、冷え冷えのクールな冷気のような声が掛かった。成哉である。お前が顔出すなんて珍しい。ヤクザのボスみたいに引き籠もって、



「ああ、実はおやっさんに連続ひったくり犯を探してくれないかと頼まれてな。GBの誰かなら知ってるかと思って。俺もお前ももう若くないけど、ほら、ここにいる若い子たちのネットワークってすごいものがあるだろ?」



 冷えた。さらに冷えた。社長が自分は若くないとでも言いたいのかと言わんばかりに、冷えた。お言葉には気をつけよ。



「あ、せ、セイヤさん」


「なんだ?」


「二人は知らないですけど、一人なら知ってるかもしれないっす」


「本当か?」



 俺が驚いて声をかける。その若者は頷いた。



「その靴です。黒と白の縞のスニーカー。それ、こないだのバイト先で見ました」


「身長は? 百七十八くらいか?」


「そうっすね。少し高めだったから、そのくらいかと」


「どうだ、創」


「ああ、そうだな。俺の持っている情報もどこまで信用できるかわからないが、成哉の手下が言うならもしかしたらもしかするかもしれない。でも、確認するまでわからないぞ」


「なら、二人ぐらいうちのを連れて行け。足の速いやつをな」


「それで捕まえるのか?」


「そのつもりで声をかけて回っていたんだろ? おやっさんにはいつも世話になっているからな。待機させておいて、シロなら解散。クロなら走って捕まえる。あとは交番の前に転がせ。それでいいだろ」 


「わかった。作戦を練りたい。そのバイト先の店はどこだ?」


「それでいい。おやっさんによろしくな」


「ああ。もちろん」









 ※ ※ ※













 翌日。ボーイズが二人待機する中、俺は教わったファストフード店へ。



「いらっしゃいませー」



 中に入って、商品メニューを眺めるふりして店員を見る。居た。奥に少し背の高い男がいる。調理担当か。履いている靴、スニーカーは……さすがに勤務中は店のやつを使用しているか。ならば。



「すみません……奥の男の人、この人ですかね?」


「はい?」



 レジの店員が不思議そうに、俺の差し出した写真を見た。左半分の画像はマスコミにも出回っている、不鮮明な犯人を映した画像だったが、右半分の画像は顔を拡大して鮮明にした画像だった。うちのグループにはそういう専門家もいるのだ。裏社会の裏を生きる組織のトップの人脈は、時として震え上がるレベルでいるからマジであいつだけは敵にできない。死より恐ろしい。



 レジの店員さんは、その画像を判別して「奥寺くん?」と呼んだ。呼ばれた彼は調理の手を止め、なぜ呼ばれたのかわからない様子でこちらへやってきた。おそるおそる窺う彼が、俺の持つ写真をよく見せたその時だった。



 彼は走った。エプロンから帽子まですべてを投げ捨てて。靴も投げ捨てていたから、靴下で逃走。俺も飛び出す。



「逃げた! 行け!」



 待機していたボーイズ二人が飛び出した。それは距離にして十メートル少しのおにごっこ。男はあっという間に取り押さえられた。手慣れたものだった。さすがリバーサイドボーイズである。



「なんだよ! なんなんだよ、おまえら! おい!」



 俺は遅れて合流し、しゃがんで一言教えてあげた。



「リバーサイドボーイズだ。聞いたこと、ないかな?」



 男はおとなしくなった。抵抗をやめた。拘束する必要もなくなった。諦めたのだろう。



 俺は電話を掛けた。



「あっ、おやっさん。いまさ、たぶんひったくりの犯人を捕まえたんだけどさ」



 警察はすぐに来た。おやっさんはすぐに犯人に駆け寄ってきて、それから俺の肩を叩いた。警察官は男に声を掛けて、いくつか質問をしていた。しばらくは周りが騒然となっていた。その後到着したパトカーに乗って、交番じゃないでかいところに送られた。ファストフード店にはすすきの交番の警察官が入っていって、店の人から話を聞いていた。すぐに見たことがない電話番号から電話が来た。



「お手柄だ、オーガナイザー」


 

 王様社長だった。どこかで見ていたのだろうか。



「ああ、おかげさまで事件解決だ。おやっさんもほっとしていたよ。もう一人もすぐに捕まるだろ。それにしてもお前の部下は足が速いな。経験者か」


「ああ。彼らの名誉のために詳細は伏せるが、非公式の陸上大会で世界記録を出したらしい」



 え、まじで? 冗談も真顔でいうからな、お前は。友人でも判断に困るぜ。



 俺は電話を切って、それからボーイズ二人を集めて労った。ハイタッチをして解散した。



 俺はひと仕事成功させた達成感に浸っていた。しかし俺は事件の表面しか見えていなかった。少ない情報しかないにも関わらず、あまりにもスムーズに事が運びすぎていることを注視すべきだった。すべてが順調であることを疑うべきだった。



 俺はひったくり事件のひとり目の犯人を捕まえた翌日に捕まった。



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