05すすきのアウトサイドパーク
すすきのアウトサイドパーク01
すすきの交番をご存知かな。常時十人以上が交代で全四十数名が勤務する、日本で二番目に警察官の多い北の歓楽街すすきのの安全を守る交番のことだ。142年の歴史があるこの交番が、少し前から建て替え工事をやっていた。建て替えの工事期間は、仮交番を別の場所に立てていた。22年の3月には工事が終わり、完成。古びたコンクリートで、ローマ字で『Susukino Koban』と書かれていた看板は観光客から外国人観光客、地元の人までみんながお世話になったりならなかったりしていたであろう。
46年歴史を持つ、20年5月に閉店した大型商業施設、ラフィラも新しく生まれ変わるために解体された。狸小路商店街には23年に水族館ができた。街なかに水族館。平成が終わって新しい時代を向かえたぞお! なんてバカみたいに言っていたあの頃じゃ考えられないよな。古い建物は次々に解体されて、新しくなっていく。この街もどんどん変わっていく。全ては新幹線開通に合わせて変えているのだろうが、それもきっかけに過ぎない。すすきのも、大通も、駅周辺も変わるべくして変わっていくのだ。それは時代のせいでも、古い老朽化のせいでもない。きっと、人が変わったから、世代交代したに過ぎないのだ。ただそれだけ。残された人間が、残念に、さみしく思う事だけはどうしようもないんだけどな。そんな俺達は昔あった街の景色を忘れずに、新しくなったこの街を快く受け入れて行くしかないだろうさ。
そんな変わらない街の少し外れににぽつんと残された緑の区域がある。中島公園と呼ばれる、大きな池もある市民憩いの公園の一つである。洒落ている俺なんかはその位置から、すすきのアウトサイドパークなんて、そう呼んだりしている。俺しかそんな名前で呼んでいないけど。
この公園にはコンサートホールや、天文台やらがあるんだが、そんな市民が頻繁に訪れる場所で事件が起きた。すり、つまりひったくりの事件。一人の若者が話しかけ、スマホの地図アプリを開いて場所を聞いているうちに、もうひとりが荷物をかっさらうという犯行だ。卑劣極まりない、他人の善意に付け込んだ犯罪だが、実はこれが隣接している歓楽街、すすきのでも多発しているらしい。そう、ここでようやく先ほどのすすきの交番が出てくるわけだ。実のところ、アウトサイドパークでのひったくりは、公園の入り口付近のベンチだった。目の前に交番がある。大胆に挑発するような犯行だった。それはすすきの交番でも同じだった。新しくできたばかりの目の前で、通行人からひったくり。小さなものを含めると一ヶ月で二十ニ件だというから、もうやりたい放題だ。テレビの道内ニュース報道でも連日流れていた。夕方や夜の犯行が多いとのことで、警察は警戒を厳としているらしい。これ以上やられるわけにはいかないもんな。
「まあ、そういうわけだ。お前らもなにか知っていたら教えてくれ」
「ああ、わかったよ、おやっさん」
それはテレビ塔を目の前に眺めることのできる大通公園四丁目のベンチ。雪はまだ少し残っていて、ダウンジャケットは手放せない。少し暖かくなっては来たけど、まだ春というよりかは冬が残っているという表現が正しい。
隣りに座っている、ベージュのコートを着ている『おやっさん』と呼ぶのは知り合いの警察官。今日は非番だから私服。すすきの交番にずっと昔から勤務していて、高校生時代は成哉、タカと共にお世話になったこともあったりなかったり。俺の仕事を良く知る唯一の大人でもある。ガキの集団のトップである成哉の立場も理解しているし、もちろん、タカのことだって知っている。知らないのは魔法少女と、超能力者と、妖刀使いについてだけ。まだ、おとぎ話かなにかだと疑っている。まあ、そんなこと信じなくてもいいんだけど。ひったくり犯逮捕のほうがずっと大事だ。
「それじゃあ、ここ最近は忙しいんだ」
「ああ。署の刑事部三課っていうのが、窃盗に関する仕事してるんだが、彼らがしょっちゅうこっちに来てね。対応したりなんだりで、大変さ」
「ふーん。なあ、犯人像とか分かってないのか」
「なんだ、テレビ見ていないのか」
「あるけど、あまり見ないんだ。娘も外で遊ぶことが多いからあまり家にいないしな。本当にたまにしか見ない。一応新聞には目を通すけど」
新聞もテレビも変わらないだろう。取り上げている事実は同じだ。俺は小さなライターをやっているからな。文字を読むことは勉強になるんだよ。
「まあ、いい。お前ほどのネットワークを持つやつなら何か掴めるかもしれないからな。ちょっと待て」
メモ紙とボールペンを取り出すと、何やら書きづらそうに書いている。スマホで書いて送ってくれればいいのに。アナログな。
「ほら、公開されている情報と、それから少しおまけだ。あまり他人には見せびらかすなよ。ネットとか、駄目だぞ」
「ああ、分かってるよ」
話を聞いたところ、犯人は二人組。身長百七十プラスマイナス五センチと、百八十プラスマイナス五センチ。共に痩せ型。二人共黒のダウンジャケットに、青のジーンズ。片方は白のスニーカーと片方は黒と白の縞のスニーカーを履いている。基本的には徒歩で逃走。自転車の使用は不明。スマートフォンはアメリカ製の有名な安いなやつらしい。これは窃盗被害者が直接見た証言から特定したとか。
「ふーん、なるほどな」
どこにでもいそうな、どこかにいそうな。そんな汎用的な、平凡な男たち。これは見つけるのが大変だぞ。やはり、現行犯がいちばんか。
「防犯カメラとか、そういうので目星付いてないの」
「もちろんフル活用さ。だから身長が出てる。これが犯人と思われる二人の写真だ」
ぼやけている写真が、一枚あった。二人とも写っている。顔は不鮮明で、良くわからない。
「まあ、そうだよな」
警察が手こずるようなそんな相手、ガキ共のネットワークならなんとかなるのかな。俺は別れを告げてその場をあとにした。
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