第三次すすきの抗争02

 氷永会は市内最大のヤクザ組合である。65年設立の老舗。裏稼業やら何やらで稼いでいるのは言うまでもない。噂によると最近はコンカフェの経営などで稼いでいるらしいが、さて。魔法少女がいることが売りのコンセプトカフェらしいが、さて。



 これまでも揉め事とはお友達で、大小含めるといくつもあるが、大きな事は過去に二回ほど。一度目は96年に若者と衝突し、もう一つは02年に警察と衝突している。それ以降は比較的大人しくなり、夜の街との関係も概ね良好であった。しかし、ヤクザはヤクザなので、多少暴力的であったり違法的であったりする。人の見ていないところで行われたそれらは、威厳を保つための武勇伝として使われ、語られた。



 16年に入会したタカはその喧嘩の強さ、右のストレート一発で次々に意識を奪い去っていく鮮やかさから一気に幹部にまで登りつめた。



 そして今年の二月一日。氷永会部員による暴力事件という濡れ衣が組を襲った。その名前が出ただけで、警察も動いた。暴力団は徹底排除。存在すら許さず、犯罪行為はすべて断罪すべきというその正義に縮小されつつあったその存在も、不祥事ひとつで消滅の危機にまで追い込まれてしまったのだ。



 タカは組長、氷永正の命により犯人を探しにひた走っていた。探すしか無かった。俺と話す時間を作ったのもそのためだろう。ガキ共のためにも、二人の友のためにも働かなければいけない。







 





 ※ ※ ※














 俺は聞き込みをした。街にたむろしている若者たちにだ。この時期は、地下歩行空間にたむろしている事が多い。コロナ明けに起きた事件なんかは、若者たちがとにかく揶揄されてとにかく話題になった。若者が邪魔者扱いされて、街から居場所を失うのは何も今の時代から始まったことではない。他人事なんだよ、当事者じゃないヒトはみんな。



 聞き込みの結果、収穫があった。それはガキ共からは聞けなかった貴重な情報だった。なんでも喧嘩の強い四人組がいると。リバーサイドボーイズもヤクザも倒したことがあると吹聴しているらしい。まあ、奴らがやっているのは四人で一人をタコ殴りにする卑劣な暴力以外の何ものでもないんどけどね。



 目撃された車の特徴はいずれも緑の軽自動車。ぼやけてはいるがナンバーが写った写真も手に入った。俺はすぐに電話を掛けた。相手は……迷ったが、成哉に掛けた。まだ相手を確保できたわけじゃない。取次の秘書が電話に出て、名前を名乗って成哉に繋ぐように頼む。



 これまでの成果を話した俺は、成哉から人を寄越すからそいつを使えと言われた。それだけの情報があればあとは、ガキ共の精鋭部隊がバックアップしてくれるという。サイバーとか、ネットには疎いんだよね。助かるわー。



 時間は今日深夜を勝負の時にすると宣言した。それまでに準備しろとのことだった。相手が見つかるかまだわからないのに決めちゃう社長。うーん、信頼というか失敗を許さない態度はさすがですね。



 氷永会には成哉から直接連絡をするそうだ。まあ、間に俺が入ることも出来たが、直接連絡が行くならそれに越したことがない。そこはトップに任せるのみ。下々は、相手と直接勝負するための舞台を整えるためいそいそと準備を進めるだけである。



 俺はそれから成哉の寄越したリバーサイドのメンバーに待ち合わせて会った。地下の喫茶店で待ち合わせだ。暖かいコーヒーでも飲んでね。やって来たそいつは、それにしても大男だった。ラグビー選手みたいにガタイがいい。



「キエン・マツシマと言います」


「これはご丁寧にどうも」



 名刺をもらった。そこには超能力者と書かれていた。俺が疑問に思う前に、彼は手のひらに炎の玉を作り上げて、それから握りつぶして消して見せた。にこおっと、仰々しく笑う彼は、なるほど、超能力者らしい。どこかで見たことがあるような気もする。まあ、リバーサイドボーイズの人間なら、出会っていてもおかしくはない。妖刀使いや魔法少女がいるくらいだ。超能力者がいてもおかしくない。



「それで、どうやって探すの?」


「これです」



 カバンから取り出したのはノートパソコンだった。まさかお前がサイバー担当か? ラガーマンみたいな超能力者は、ノートパソコンパカリと広げると、カタカタとキーボードを打ち始めた。そんな薄いやつで大丈夫だろうか。



「見てください。犯人グループのネットへの書き込みです。リーダーから共有された情報を元に見つけました。とある掲示板を住処にしてよく書き込んでいるようです。武勇伝とか、依頼と称して次の相手を募集しています」


「狂ってるな。それより、そんなのよく見つけたな」


「今の時代、ネットで自己承認欲求を満たそうとする若者は多いです。目立つことをやるならばなおさら。自分を話題にしたいと思う。そう考えると、見つけるのは簡単なものですよ。素人でもなんとかなります」

  

 素人以下でごめんね。見るからに肉体脳筋派なのに実は頭脳派でネットにも強い超能力者。俺はオーガナイザーなのに足を動かすだけ。時代錯誤か。せめてものと、写真の画像を見せた。



「移動に使用していると思われる車の特徴とナンバーだ。聞き込みをして手に入れため。成哉に教えたからお前らももう知っているだろうけどな」


「おお、流石ですね。茨戸さん。どれどれ……なるほど、これなら特定できそうですね」


「なにを?」


「走行している範囲を」



 え、車を特定とかじゃなくて? 走ってる範囲?



「……これは、ビンゴだな。見事に暴力事件が起きている四箇所を通っている。なあ、こいつらって呼び出せるか?」


「わかりませんが、言葉次第ではできるかと思います」


「どこに入力すれば良い?」


「ここです」


「了解」



 俺は扇動するような、それでいて相手が動かざるを得ないような言葉を羅列した。小さなウェブライターをやっているので、そういうのは得意だった。まさに十八番である。あとは氷永会の言葉を無断使用すれば完了っと。



「ありがとう。成哉に連絡してくれ。今夜すべてを終わらせようって」


 

 そう言って、キエンに成哉へ電話してもらい、俺はタカに電話した。犯人が見つかった。今夜、賭場理場で会おう。


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