04第三次すすきの抗争

第三次すすきの抗争01

 時は秋を通り越し、年末の大騒動を経て年が明けた二月。二千二十四年の冬。夏の白黒、妖刀使い、チルドレンの話を経て第四話。年末手前の騒動は六話で話すから楽しみにしていてくれ。



 今回は少し大きな話になる。街の構図を再認識して理解する意味でも、重要な事件になった。そう、その始まりは雪の降りしきる夜だった。しんと静まった、静かな、すべての音を雪が飲み込む、白に染まった夜だった。



 男がその夜、ひとりで歩いていた。全身黒い服装にフードを被って雪がどっと、しんしんと降りしきる中歩いていた。



 横に一台の、緑の軽自動車が止まった。中から四人の男たちが出てきて、それからその男に殴りかかった。ひたすらに痛めつけるだけ痛めつけて殴ってそれから、その男を歩道上に放置して車で去った。



 それから犯行声明を出した。この暴行集団は自分たちが『氷永会』だと、そう名乗った。殴られたのは創成川リバーサイドボーイズのメンバーの一人の若者であった。これに対して両者が動き出し、牽制。一触即発の事態になってしまった。



「じゃあ、タカの方の誰かがやったわけじゃないんだな」



 俺は即日氷永会幹部の幼馴染み、同級生のタカに電話を掛けていた。彼も今回の騒動で内部にも外部にも対応をしなくてはいけないらしく、なかなか忙しい身分のようだった。襲撃事件から数日して、俺と話をする時間を作ってくれた。その間も事件はひとつでは終わらなかった。


「そんなの言うまでもない! うちの組は無関係。無実だ」


「そうか。つまりそうなると、どこかの赤の他人が、恐れ多くも市内随一の組の名前を使って暴れまわってると」


「ああ、似たような暴力事件が今日でもう四件だ。そして犯行声明はすべてうちの組の名前が使われている。うちの組も生業が生業だからな。あまり、コトを大きくしたくはないし、表沙汰にはしたくないんだが、当然警察も嗅ぎつける。最近はこれをいいことに近くをウロウロしてるよ」


「そうか。濡れ衣なのに、それが最悪の事態になりそうだと、そういうわけだ」


「ああ、組の存続に関わることにならなければいいんだが」


「わかったよ。俺の方でも、その犯人を探してみる」


「頼むぞ、オーガナイザー様」



 俺は電話を切った。



 それからしばらくテレビ塔を眺めながら大通公園で車が来るのを待った。その日は晴れた日だった。冷たく、冷え込んだ空気が、晴れて息を白くさせる。冷え切った空気が、優しくすっとどこまでも続いているような気がしてしまう。そんな天気だった。



 やがて目の前に一台の車が来た。こちらもキンキンに冷えたハイエース。しかし中は暖房のお陰で暖かであった。ありがたい。しかしその助手席にはクールに冷え切った王様がいらっしゃる。もう冬だと言うのに、どこまで冷えるのか。



「よう、茨戸創。元気にしていたか」


「やあ、雁来成哉。俺は相変わらず元気だぜ」


「出してくれ」



 俺は報告をする。



「本物の氷永会は無実。無関与らしい。手は一切出していないって、さっきタカが言っていた。ボーイズを殴ったのは、たぶん組とは無縁の別の奴らだ。半グレにすら該当しない、若者グループかな。友達の集まりか、ネットで集められた集まりの有象無象か。まあ、そんなところだろう」


「そうか。創が言うならば、そうなんだろう」


「犯人像は予想に過ぎないが、氷永会が手を出してないのはたぶん確かだろうよ。あいつの必死な声を、俺は久々に聞いた」


「それは良かったな。うちとしても、全面戦争は構えたくなかった。避けれるのなら、それはラッキーニュースだ」


「それで、どうするんだ? 成哉」


「そうだな。犯人は見つけられそうか」


「わからない」


「できないと言わないのは流石だな。そっちは任せた。氷永会とは話をつけておこう。人手が必要なら連絡しろ。いくらでも使って良い」



 社長兼会長兼リーダーのお言葉は違うぜ。クールで外気より冷え切ったその声は、その軽い笑みは人を殺してしまいそうなほどに鋭くて軽くてキレキレだった。たぶんキレてる。怒ってる意味で。



 車は俺を乗せた全く同じ場所に戻ってきて停まった。成哉が軽く手を上げて扉が閉まると、颯爽と走り去って行った。


 

 さてと。偉大なる新時代のリーダー様のため、仲間の意趣返しのために犯人探しを始めますかね。



 



 

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