自己責任チルドレン03
それからの日々は、でかいワゴン車やら黒いハイエースやらに乗って創成川リバーサイドボーイズ・ガールズのメンバーと張り込みの毎日であった。家を特定し、行動範囲を確認して行く。対象の女はよく出かけた。朝から、昼間も、夕方も、夜も。いつでも構わず外に居た。娘は子供会に預けっぱなしで、お迎えは雇いのお手伝いさんに任せて。父親も仕事で忙しいのか、家に帰ることが少なかった。そっちも行動範囲を調べてもらっている。両親ともに家を空けることの多い家庭。子供を放置して。他人に預けて。自分たちの自由ために、仕事や所要を優先させるためにこの家庭は子供を預けているのだ。貧困で仕事をせざるを得なくてギリギリでやっているところもある。親を亡くして、親がいなくて他に行くところがなくて通っている子供もいる。預けざるを得なくて預けているところは、家庭は多くある。それに比べると、比べてしまうと俺はなんかやるせない気持ちになった。しかし、自分自身も拾った子供、義娘とはいえ、もう少し構ってやるべきなのかもしれないと、そう自省もするのであった。
とある夕方。その日は情報があった。俺の予想が当たっていれば、悪い事がこれから起こる。だからセイヤもハイエースに乗り込んでいた。
対象の女が動いた。
家を出て街へ向かった。街ではウィンドウショッピングをして、適当に時間を潰して、そして自販機に寄った。情報通りだった。俺たちはシメたと思った。ここからはより一層慎重に尾行することが求められる。その女は駅に向かい、そして駅のコインロッカーを開けた。自動販売機の下に隠されていた鍵を使ったのだ。望遠カメラはその瞬間を捉える。自動販売機の下から鍵を取る瞬間。コインロッカーを開けて中の物をとる瞬間。それをカバンに入れる瞬間。違法薬物の取引現場だ。女は薬物に手を出していのだ。彼女が使用者か売人かは分からない。ここ二週間の張り込みで、その頻度から、手にしているのが全く同じ封筒であることから、売人じゃないかと踏んでいる。仲介人と言うやつだ。薬を実際に持っているのは外国人であることが多い。しかし、その外国人は日本語がうまくない。使えないのだ。だから、仲介人を雇う。特定のアプリで、痕跡やメッセージを消すことのできるアプリを使って。たとえばテ○グラムというアプリとかを使ってやり取りをする。購入者とやり取りするのは日本語のできる彼女、仲介人のあの母親だ。注文が入ると母親は薬物のバイヤーに英語で連絡し、バイヤーがモノを、野菜とか手押しとかアイスとか、種類で言えばブルーベリーとか。そんな隠語で取引されるモノをロッカーに入れて、鍵は自販機の下に。購入者が鍵を取って開けて、モノを取ってお金をロッカーに入れる。そして仲介人の女が最後にお金を取って、料金をバイヤーに支払う。そういう流れらしい。
ロッカーからお金を取った母親は、やがて、パチンコの中へと向かった。俺たちはパチンコ屋の近くの路地裏前に車を止めた。
入り口で、中に入る前に呼び止めた。
「奥さん、奥さん。ちょっといいかな。この人探してるんだけど、知ってる?」
ボーイズの一人が声を掛ける。
母親は怪訝そうな顔でこちらを見る。やがて大人数に囲まれていることが分かると、彼女は、困惑した。悲鳴すらあげられないでいた。そのまま連れられるように車へと乗り込んだ。彼女はおとなしかった。まるで全てをわかったかのように。悟ったかのように。
「奥さん、これさっき怪しかったから写真撮ったんだだけどさ、これ良くないことやってるよね」
車の助手席には、そこにはガキの王様、雁来成哉がいた。彼は、続けて声を掛ける。
「これ、メッセージアプリで消えたはずのやり取り。メッセージの証拠。それと買った相手の居場所と身分証。外国人の方も目星がついてる。俺達はこれからこいつを警察に証拠と共に提出しようと思う。警察に知り合いがいるんだわ、俺。だからその伝手でな」
「わ、私に、ど、どうしろと言うのよ」
「物分かりが良くて助かるな、バイヤーの奥さん。全てをバラされたくなければ、世間に公表されたくなければ、子供会への批難を全面撤回しろ。そして支援をしろ。地域には必要な事だって、子供達は大切だって言え」
「……あなたたち、何者なの?」
「子供の将来を想う、善良な市民団体さ。ついでに悪事も暴いている。いいか、俺たちのことを詮索しようとするなよ。結構これでもでかい組織だし、色んなところに繋がりがあるんだ。無駄に、あまり暴力沙汰にはしたくない。だから黙って頷いてろよ、PTAの会長さん」
雁来成哉は静かに、クールで冷たい声で言った。それは控えめに言ってとても恐ろしく、心と思考を凍らせて言葉を封じる言葉だと思った。
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