自己責任チルドレン02

 たとえば、たとえば貧困が自己責任だと言うならば。



 もしも、それが自己責任だと言うなら。




 もしもその貧困が自己責任だと言うなら、そんな社会はあってはいけないと思う。なんのための社会だと、なんのために大人たちが居るのだと。大人たちは何をしているのだと、俺はそう思うね。




「それは出来ない。そんなこと始めたら、全ての施設に支援しないといけなくなる。一つの場所に依怙贔屓は立場上できないからな」


「そうか、まあ、そうだよな」



 俺はまず、依頼を受けた張本人、雁来成哉に相談していた。彼は実力者だし、お金持ちだし、ガキ共のトップだし。そういうのにも理解があって、一番支援できそうに思える。しかし、その手の施設は市内でも二十箇所以上ある。ひとつに支援すると、うちもうちもと手が上がることを懸念しているのだ。幾らお金持ちでも、底なしの金ではない。そしてその金は基本的に自分のグループのために使われる。他所に構っている余裕など、どこにもないのだ。



「なんだ、オーガナイザーはもうお手上げなのか」


「いや、ダメ元で聞いてみただけさ。候補はまだある」


「期待している。人手が必要なら連絡しろ。BG (ボーイズ&ガールズ)を手配する」


「分かった、ありがとう。まあ、頑張るよ。娘のためだし」



 俺は通話を切った。さて、次なる相手はPTA会長のおばさまだ。地域の声、つまり子供会にクレームを入れた張本人がPTAのトップというわけであった。セイヤに調べてもらったらすぐに分かった。俺の娘は正規の学校に通っていない。特別学校に通っている。だから俺はその手のグループに疎いというか、伝手つてがない。だから紹介してもらうことにした。



 久瑠美の友人に白井明美という女の子が居て、彼女の母親がその会長なのだ。何たる偶然。何たる巡り合わせ。



「さて、行くか」



 俺は自分の娘のところへと向かった。








 ※ ※ ※







「創くん。久しぶりだね」


「ああ、そうだな久瑠美」


「……こんにちは」


「こんにちは、君が白井明美さんだね。よろしく。茨戸創と言います」



 俺は名刺を渡した。そこには肩書としてオーガナイザーと書かれている。



「おーが……おーがないざー?」


「何年生なんだ、明美さんは」


「小学生一年生。私の二つ下」



 そうか。それでは、あまり多くは期待できないかもしれないな。まあ、一応始めるか。



「なあ、お母さんについて教えてくれないか。どんな人なのかとか」


「どんな人? やさしいよ、お母さん」



 うーん、まあ娘には優しいだろうな。厳しい家庭もあるにはあるだろうが、それこそ優しい家庭はどこにでもある。娘には優しくしたい気持ちは誰でも持っているはずだ。



「でも怒ると怖い。何に怒っているのか分からない」


「どんなふうに怒るんだ? 物に当たるとか、物を投げるとか、大声を出すとか、そういうことか?」


「そう。ぜんぶそう」


「そうか。わかった、ありがとう」



 大人が怒る姿って怖いよな。恐怖しか無いよな。無意味に怒るとか、子供にとっては理不尽でしか無い。



「お母さんの姿……体型とかわかるかな。太ってる? 痩せている?」


「太ってる」


「身長は、背の高さは高い? 低い?」


「そんなに高くない……かな?」


「普段は出掛けることが多い?」


「わかんない。でも、お家にいないこと多い」


「なるほど、ありがとう」


「創くんわかった? なんとかなりそう?」


「ん? ああ、まあ、なんとかするよ久瑠美。傾向は掴めた。あとは対策だ」



 傾向と対策。受験の基本である。今回は受験じゃなくて追尾と尾行。やることは粗探しでしかないんだけどな。




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