03自己責任チルドレン

自己責任チルドレン01

 子供会の補助金が行政から打ち切られた。理由は近隣住民から非行少年少女のたまり場だと非難を浴びていること。行政の立場として、やむなく対応した結果だった。そして久瑠美もそこに通っていた。それは致命的な問題だった。



 子供会とは、学童、学童保育、放課後児童クラブとも言い、学校の時間以外の時間に子供を預かる施設の事だ。遊んだり、おやつの時間があったり、時には夕飯を食べたりする。イベント事や地域活動を行ったりもする。久瑠美が通っていた子供会は、基本無料。夕飯代とか若干の利用料は掛かるが、他の学童と違って市の補助金のお陰で基本利用料は無料だった。今後は利用料を取るなど、有料での施設利用を考えているという。


 そこで、情を寄せた施設の従業員から地域のガキ共のボス、セイヤに連絡があった。雁来成哉の連絡先はいろんな人が知っている。非公開のようで公開情報。まあ、そのほとんどが使い捨てで、取り次ぎを突破しないと彼と言葉を交わすことなんて夢のまた夢なんだけど。創成川リバーサイドボーイズ・ガールズはそのような少年少女たちの間でも有名だった。その施設職員は子どもたちからその話を聞いたのだろう。どうにか成哉へ話をつけていた。


 セイヤからその一報を受けた俺はこの件で動くこととなった。自分の娘の明日にも関わることだからな。全力で行こう。



 軽く調べたところ、子供会に通う子供の親は自己破産、ホームレス、豪遊、ネグレクト等、子育てがまともに出来ない家庭環境、もしくは放棄しているような親ばかりであった。それに比べて、子どもたちは夢を見ていた。俺は子供会に頻繁に顔を出す。娘がいるからだ。そして時々、そこの子どもたちと話をする。子供たちの言葉は単純で、そこ願いは全て当たり前のように叶えてやるべきことばかりだった。少年少女は普通の生活を夢見る。きちんと勉強したい。学校に行きたい。でも、家にはお金がない。耳に痛い話だ。大人たちは何をしているのだろうか。自分を優先して子供は二の次なんて、そんな当たり前ではないことを当たり前にしている人がゼロではないことを事実として知らないといけない。まあ、斯くいう俺も他人のことは言えない。娘を妖刀使いに任せている俺だって、本当に他人のこと言えないのだから。





 ※ ※ ※




 子供の家庭環境はそれぞれ異なり、あまりにも散々だが、しかしそれをどうにかしたところで解決する問題でない。家庭環境が悪化している子供はたくさんいる。とても多くの数がいる。しかし、それを全て解決するなど、それこそ不可能なのだ。オーガナイザーとしては個々の家庭問題を問題として取り上げたほうが問題解決屋らしくて良いのかもしれないが、それは件数という側面から見てあまりにも現実的ではなさすぎる。それに家庭崩壊した過程を救うことをしても、救われる子供はひとりだけ。子供会が救われるわけでは無い。今回救うべきは子供会だ。目標は無料復帰、そして存続。それを目指していく。



 さて、子供会の支援が打ち切られた理由は、地域の評判だ。市が運営している以上、公的機関がやっている以上納税者の声は無視できない。地域の施設ならなおさら、地域の声を無視できない。では地域活動を、地域に貢献できる活動をしてみてはどうだろうか。そうすれば心象が、印象が良くなるかもしれない。そう思ったが、実はそれはもう既にやっていた。ゴミ拾いとか、地域祭とか。そういうのは当たり前のように、それこそ前から地域を巻き込んでこその子供会であった。子供会は地域との繋がりを通して子供たちの社会性を養ったりすることができる場所だ。地域の存在なくしては成し得ない。



「今どき無料というのが無理だったんです」



 俺は雁来成哉の使いとして、彼の名前で施設職員の高橋に会っていた。依頼人に直接会って話を聞く。基本中の基本である。娘の名前は出さなかった。茨戸久瑠美の父親だとは名乗らなかった。立場が変わってしまう。



「有料にしたら問題は解決すのでしょうか」


「一定数の子どもたちは、有り体に言ってお金のない子どもたちは居られなくなるかもしれません。いなくなってしまうかもしれない。素行の悪い子は特に。お金ないですから。素行の悪さは貧困の悪化、酷さに比例していますから」



 でも、と彼は言う。



「お金のない子ども達を追い出すことになるなんて、ここは一体誰のための場所なんでしょうか。歯がゆい思いです」



 それは本当にその通りだった。俺はここが有料になったところで、支払いをするつもりはあるから久瑠美が出ていくことにはならない。でも、久瑠美のここでできた友達が居なくなるかもしれない。場所とは、ただそこにあればよいのでなく、そこに存在する人間関係こそが一番大切だったりする。たとえば、年の離れた小学生と高校生の友達とか。俺はできればそれを守りたい。そこでしか作られなかった人間関係があるなら、それを悪意によって壊されようとしているなら、俺は守りたいと思った。



「色々と動いてみます。伊達にこの街の問題を解決していませんよ」



 いくつか候補を考えていた。まずはそれを試すことから始めようと思う。








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