妖刀物語04
「それで、どうなったんだ」
「なんてことはない。やり過ごして逃げ切った。そして久瑠美の元へ帰った。久瑠美は寝ていたから、私は倉庫の外に
「そうか。ただの、遊び相手なんだな、お前は」
「お主はあまり遊んでくれなかったと久瑠美から聞いている。様子を見に来るだけだったと」
それは間違いない。金を出すだけの、相手をしない碌でもない親が、俺だった。俺はそういうやつだった。親代わりも務められない碌でもない親。そういうやつだったのは、認めめざるを得ない。
「お前はどうして久瑠美を選んだ。刀なら誰でも見つける可能性はあっただろう。現代の人間が見つけたのはこれが最初じゃないんだろ? これまでもあったのにどうして久瑠美なんだ」
「それは、久瑠美が特別だからでしょう。何がどう特別なのかは、私でもわからないですが。しかし、人間がこの刀を見つけることはおろか、手にするのさえ容易ではなかったあの姿に、成り果てていた私をなんの躊躇いもなく手にした。彼女は私に人間の魂ではなく刀としての魂を宿すことを許した。何百年ぶりだった。それは並の人間にできることではない。主に仕えるのは家臣の務め。主命。他意はない」
俺は、いくらそんな話を聞かされたところで、久瑠美に特別な何かを、特殊な感じがするとはどうしても思えなかった。引き取ってからずっと面倒を見てきたが久瑠美は普通の女の子だった。それは今でも変わらない。
まあ、楽しそうならなんでもいいけど。
「誓い、守れよ」
「無論。たとえ反故ににしたくても私にはできないでしょう。人間よりも契約に縛られる存在ですから。これは悪魔の契約、土地神に立てる誓いと何も変わりません。絶対遵守。契約破棄は己の存在消滅と同義。守ります、誓って」
こうして俺は自分の娘を、義理の娘を妖刀使いに少し預けることになった。もちろん、俺が久瑠美の面倒を全て放棄したわけじゃない。いつものように様子は見に行く。だけど、親代わりがひとり増えるくらいなら、それくらいなら別に良いかもしれないと思った。彼女の為になるのであれば。久瑠美の為であれば。
彼女は刀ではあったが、本が好きだったようだ。夜な夜な仮の人の姿で現れては、何か読み耽っていたのだろう。俺も本は好きだ。文章を書く仕事をしているからな。言葉との対話、己との対峙の時間は人生の貴重な時間だ。孤独になることができるから好きだ。最後に、最期の時に本を読んでいた、時代を生き抜いた妖刀使いはその時何を思ったのだろうか。自分自身と対話して得た答えは何だったろうか。死の間際の孤独、孤高に。結果として一時だったとしても、その魂の終わりの時に何を思ったのか。賢く作られた刀だ。きっと正面からその死を受け入れたのだろう。
俺はそれだけは間違いなくリスペクトした。彼女のことを人間以上に尊敬すべきかもしれないと、そう思った。
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