妖刀物語03
男をひとり処理した。
そうすると今度はその男を、私が倒してしまった男どもから逃げる男を追いかけている男たちと遭遇した。私はそれらも倒した。
また近くにスーツの男が居たので、通り過ぎざまに斬った。彼はこの国の人間ではないようであった。質の違う負の感情を背負っていたから、おそらくそうであろう。彼も安らかな日々を取り戻せるといいのだが。
夜風の温かい夜であった。
そしてすぐに先ほどの異国の者を追いかけてきたであろうスーツの男に出会った。彼は心正しい人間だと、その魂を見て思った。
「ったく……何なんだよ、今日は」
なにやら先ほど切り落とした異国の者のことが気になるようだ。何か急ぎの用事があったのかもしれない。もしもそうなら、申し訳ないことをした。どうやらこの人間も私の噂を知っているようだった。きっと私に出逢ったことは不幸なのだろう。不合なのだ。
私に遭遇した人間は、大抵逃げる。化け物だ、妖刀だと言って逃げる。しかしその男は違った。この男も追いかける側の男なのだろうが、しかし向かってきたのだ。
「くっそ…………」
その男は拳銃を抜き、そして威嚇射撃を一発放った。私は面白い男だと思い、相手をすることにした。
「くそっ。こんなところで噂の妖刀使いに出くわすとはな。遂にツケが回ったのかよ」
「やはり、噂を知っていたか」
私は空を切り裂き、斬撃を彼に放った。それは彼の魂を切り裂くはずだったのだが、二人の間で静止した。刃を受け止めたのは、そこに新たに姿を見せた、また別の人間だった。その人間は大柄で上半身が筋肉でできていた。
「誰だよ、お前」
「我はキエン。超能力者だ。雁来成哉の命でここにいる。お前の味方だ」
「そうか。それは助かる」
「行け。俺が相手をする。それと、スーツを着た人間が何人か気を失っていたが、あれは仲間か」
「ほとんどがうちに関係ある奴らだ。それはこっちでなんとかする」
「そうか、それならいい」
続けた。
「妖刀使いは、その刀の刃を折らぬ限り、奴は止まらん」
「お前は?」
「超能力者だ。戦うために色々できる」
と、そこへくるくると回りながら何かが飛んできた。キエンの後ろ、拳銃の人間の前、その間だ。それは水道管に刺さり破裂させ、水を噴き出した。注意をそらすには十分だった。刺さった金属は薔薇の花のようにみえた。それで誰が投げたのか、一瞬で理解した。
「こっちだ」
「創! おい、これはいったいどうなってる」
「いいから。あれは俺達では相手にならない」
直後、自称超能力者が火を吹いた。火はみるみるうちに炎となって妖刀使いを襲った。その男が最後に見ることができたのはそこまでだった。氷永会幹部のタカはこうして街のオーガナイザーに手を引かれながら戦線を離脱した。黒服たちは最終的にボーイズが駆り出され、回収した。
さて、残ったのは妖刀使いと超能力者・キエン。
「キエン・万丈、参る! ……うおお、ファイア!」
男がまた火を吹いた。そしてその日はみるみる増大し、再び炎の渦となり、さらに勢いを増して龍とり襲ってきた。さすがに私は後退した。距離を取らされた。刀が届かなければ私は不利だ。いくら路地裏とはいえ、あれだけの炎を使われたら私とて無事では済まない。燃えて、灰になるだろう。
私は逃げた。路地裏から大通りへ出た。そして走った。信号を曲がり、商店街に入った。そのアーケードの中を駆けた。超能力者は、キエンという男は追ってこなかった。代わりに、今度は女の子がついてきた。メイド服というのだろうか、商店街に入った辺りから、後ろからわたしめがけて走って追いかけてくるのがわかった。尾行にしては下手くそすぎる。まさか私のファンということはないだろう。久瑠美を見ている怪しい男たちを追っていただけなのに、結局はいつもの戦いの夜になってしまった。
私は振り向く。構え直して向き合い、叫んだ。
「そこの者、何者だ。私の名前は桜木坂。そなたはなんという」
「私は魔法少女、ルルシュシュ・リラ・ルシエ! 勝負よ妖刀使い! 行きます……変身!」
商店街のど真ん中で、二人は会敵した。
メイド服は『変身!』の一言で喫茶店のフリフリから別の魔法少女よフリフリに衣装チェンジ。手には伸縮するペンライトのような、ビームソードのような、ライトソードのような、そんなモノを手にしていた。ちなみに先端には星がついている。
「何者だ。なぜわたしを狙う」
「もう一度言うわ! 私は魔法少女! 魔法少女、ルルシュシュ・リラ・ルシエ。妖刀使い、私はあなたを倒さなければいけない。目的はその刀の鞘にある魔の珠。それを手に入れて魔法少女を辞めて普通に戻る!」
魔の珠? この埋め込まれている球のことか? 確かにこれは小さいが、それなりに妖気が詰まっている。私の気力と妖気を増幅させる。また、斬り捨ててきた鬼を筆頭とする妖怪の妖気もここに秘められている。私にとって大切なものだ。
私は相手の格好を見るなり小物であると判断すると、ここで戦う意味はないと思い逃げることにした。今宵は戦いすぎた。時間を使いすぎた。主の元へ戻ろう。あの少女の元へ戻ろう。そう思った。
大きく一振りして空に可視できるほどの斬撃が魔法少女を襲った。さらに妖気の輝炎を込め、気焔を放って相手に処理させるように追い打ちをかけた。このくらいでいいだろう。私その隙に逃げた。
しばらく走っていると今度は光の線が飛んできた。地面と並行に。私はやむを得ず振り返り、刀でそれを受け流す。魔法少女は追いかけてきて飛び、空中に円陣を複数書いた。そこから放たれた光線が襲ってきた。魔法の類か。あれだけの魔力があれば、何でもできるだろうにと、そう思った。それこそ魔法少女を辞めることもできるはずだと。
私はこれ以上戦う必要を感じていなかったので攻撃を適当にいなし、隙を見て、再び地面に妖炎を。青白い炎の壁を作って防壁とした。これなら光線を撃たれてもしばらく防いでくれるだろう。
そう思って走り出そうとしたその次。今度は私の真上に魔法陣が現れた。極めて面倒だった。直撃をため息で処理すると、やむを得ず気を入れ直して彼女に向き合うことにした。妖刀が魔法にどこまで通用するか分からないが、相手をしてやろう。我、推して参る。
しかし、魔法少女と言い、超能力者と言い、この街には何でもいることを実感した。なんでもありだな。妖刀の私が言えた立場ではないが、素直にそう思った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます