Sideティア①

「醤油なるものは本当に凄いんですね…初めてだったかも知れません。心からあんなに美味しくてまだ食べたいと思える料理は…こんな事を言ったらいつも料理を作ってくれる侍女には悪いんだけどね…」



 ユウショウ兎のタレ串焼きとユウショウ兎の肉を使った親子丼という名の食べ物をハヤブサ様から作っていただいて食べたその日の夜…私は口から自然とそんな事をこぼしていました。だって本当に美味しかったんですよ!?タレ串焼きは香ばしい匂いと甘いタレがユウショウ兎の肉に絶妙なバランスで構成されていましたし、親子丼なるものは親子丼でふわとろの卵とこれまた醤油が絶妙なハーモニーを醸し出していていくらでも食べられる気がしました。うぅ…思い出しただけでまた食べたくなってきました。


 これはいけませんね。別の事を考えないと。



「そういえば…ハヤブサ様がこの世界に来られてから、早いものでもう一週間が経ってしまったのですね…」


 

 色々とお話を聞きました。あっちの世界では7日間の事を一週間と言うそうです。こっちの世界では一日の始まりは明るくなるとともに。一日の終わりは暗くなって明るくなるまでと非常に曖昧ですからね。一日が三十回終わると月が変わるというのはほぼ同じような感じですが。時間というものの概念もあるんだとか…。それに一年もあっちでは約365日、こっちでは360日という違いがあるという事でもっと詳しく教えてもらってそれらも広めていけたらいいですね。


 


「あの日…女神様からお言葉を頂戴していなければ今はなかった筈ですので…女神様には心から感謝しないといけませんね」



 女神様ありがとうございます…。女神様からの神託をいただいていなければ…私は今ごろあの貴族の言うがままになっていたかも知れません。ずっと私を狙っていた事には気がついていましたがまさかセーブルがあの者の手先だったとは思ってもいませんでした。この領地の開拓を命じられた時から付き従ってくれていただけに残念でなりませんけどね…。



「…思えばこの領地も大きくなったものですが、これからもっと…どんどん大きくなるのではないでしょうか…」





 私がここに領主として来た時は本当に小さな小さな集落でした。私が十三の誕生日を迎えたその日の夜、陛下から…お父様から話があると言われこう命じられたのです。



「ティアよ」


「はい、陛下」


「そなたは優秀だ。それこそ第一王女のリリアとも引けを取らぬ」


「わたくしなどリリアお姉様に比べるとまだまだでございます」


「いや…謙遜しなくてよい。本当にそう思ってるのじゃからな」


「ありがとうございます。もっと精進致します」


「そこでじゃ…」


「はい」


「北にカシオペアと呼ばれる領地があるのは知っておるか?」


「はい、開拓されてない土地が多いと聞いた事があります」


「知っておったか。流石じゃな…」


「私は何をすればいいのです?」


「そういうところが優れておると言っておる。もう察したのじゃろう?」


「…開拓ですか?」


「…そうだ」


「分かりました。陛下のご期待に応えてみせます」


「すまんな。本当はそなたをまだ離しとうないんのだが…以前派遣した者では成果を全くあげられなかったのだ」


「なるほど…」


「それでそなたの名が挙がったのだ」


「承知しました。ご期待に応えられるように力を尽くします」


「頼んだぞ…ティアよ。これよりカシオペア領を治め、カシオペアの領主となるそなたにティア・カシオペアの名を与える。爵位は公爵を叙爵する」


「はい、陛下」


「…ただ…無理はしなくてもいいぞ?今までできなかったのだからできなくても誰も文句は言うまいて…」


「…分かりました。ところで…本音はどうなのです?」


「…ぬっ?本音?」


「溺愛している娘達を嫁にやりたくないだけではありませんか?まあ、私もまだ嫁に行きたくないので引き受けますけど…」


「そりゃあやりたくないに決まっておるだろ?やるわけにはいかんわ!」


「お父様…リリアお姉様がお父様のせいでなんと言われておられるのかご存知ですよね?」


「十六は行き遅れではないだろぉぉぉ」


「今の世の中ではそう言われるに決まってるじゃないですか!?主にお父様のせいですよね!?縁談もあんなにたくさん来ていたのに全て勝手に断るから…最近ではめっきりそんな話もなくなってしまい…」


「まだ早いのだから仕方なかろうが!?」


「お姉様がボヤいてましたよ!?『私は結婚できるのっ!?』って…」


「言わせておけばいい!とにかく結婚はまだ早いじゃろ!!」


「…お姉様に刺されても知りませんからね?」


「なぬっ!?そ、そんな事は流石にせんだろ?フハハハハハハッ…ティアも面白い冗談を言うようになったな…ハハハッ……せんよな?」


「さぁ…お姉様にお聞き下さいませ…」







 そして…私は側仕えのネネと侍女達と一緒ににカシオペア領へと来てくれる者達とともに私が治める事になる領地へと向かった。ネネは冒険者時代にカシオペア領地に訪れた事もそこを拠点にしていた事もあり頼もしく感じたんだよね。実際頼もしかったしね。


 本当に本当に小さな集落だった場所を…魔物を倒して…土地を切り拓いて切り拓いて…みんなの力を合わせて短期間で街と呼べるものにしたんだよね。本当に大変だった。すでに一年と半年が経過していて、私はセーブルにも勧められて一度王都に戻り、それらを全て直に報告する事になった。セーブルは私がいない間に色々と手を回しておきたかったんだと今は思う。


 まあ、セーブルの事は置いておくとして書状でお父様とやり取りはしていたものの報告の必要があると思ったのは私自身も同じだった。


 とにかくそんなわけで王都に戻った私は、陛下と王妃様、それに第一王女のリリア様、そして宰相を始めとしたお城の人達や貴族の人達にカシオペアの現状を報告。領地を発展させたということでよくやったと褒められ、褒美をいただける話になった…そのタイミングで王の間が突如光に包まれた──




 ──そして…その瞬間私に神託が降りた。


 神託のスキルを所持している者は稀に女神様から直接お言葉をいただける事がある事は聞いていた。主に聖女や僧侶、賢者のジョブを授かった者の一部の人が所持しているスキルで有名だ。私のジョブは双剣姫そうけんき。何故か生まれた時から神託のスキルを所持していたの。お父様のお話では先祖に聖女のジョブを授かった者もいるのでスキルが先祖返りしたようなものじゃないかということだった。発動はすまいとおっしゃっていたのだけど…発動してしまった。



 そしてそれが発動したという事は…女神様の声が聞こえるという事で…



『聞こえますか…ティア…』



 透き通るように綺麗な女性の声…でも…明らかに人ではない…言うなれば人知を越えた存在だと分かる声が私の心に直接語りかけてきたの。








 







 



 

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