Sideティア②

『聞こえますか…ティア…』



『は、はい。聞こえてます』


 私は心の中で女神様に聞こえている旨を伝えて、お父様にもその事を伝えます。


「お父様!神託のスキルが発動しました」


「何っ!?では…!?これは女神様のお力…なのか…?」


「それは…まだ…」



『あなたにお願いがあります…』


『はい、なんでしょうか?』


『その者達はこことは異なる世界から来た者達です…』


『こことは異なる世界…ですか…』


『その者達に敵意はあり…ませ…ん…』


『女神様!?どうかされましたか!?』


『……っ……………ぁ………』



 女神様のお声が途切れ途切れになると同時に王の間が一気に騒がしくなりました。異なる世界の人達が目覚めたのはいいのですが、慌てふためく者が出始めています。仕方がない事でしょう。目覚めたら違う世界にいたのですから。兵士達は兵士達で念の為に武器を構えます。それを見た異世界の人達はもっと慌てふためきます。私は急ぎお父様に進言します。


「お父様!」


「女神様は何と言っておる?」


「あの者達は異なる世界の者達という事、敵意はないという事を女神様はおっしゃっいました!」


「分かった!」


 私からそう聞いたお父様が声を張りあげます。


「みなの者落ち着けっ!!」


 お父様は少しスキルの【威圧】を使われたみたいですが…なんとかそのお陰でみんな表面は落ち着いたみたいです。そこでようやく異なる世界の人達から直接事情を聞きました。あちらの世界で何かが起こり、気付いたらここにいたというのです。こちらの世界の事はお父様が代表して話します。そして…これが現実という事に喜んでいる者、悲しんでいる者、どうすればいいのか分からない者など人それぞれの反応を示します。私が同じ立場になったらどうすればいいのか分からず途方に暮れてしまっているやも知れません。



 そんななかでも話は進み彼等をどうするのかが話し合われました。女神様の遣いかも知れないという事で失礼な事はできないわけです。なので…彼等の意見を尊重しつつ…


「彼等を引き取りたい者は各々声を掛けよ。決して無理強いはしてはならんぞ?」


「「「「「はい」」」」」



 そういう事に決まりました。王城に残るも王城を出るも自由です。生活も保証する事を伝えます。ステータスの存在も知らないという事でステータスを確認してもらいます。ジョブが分からないとどう生きればいいのかも分かりませんしね。




『チッ……逃げられたわね…』


 い、今…女神様の舌打ちが聞こえたような…


 ふふふっ…き、気の所為ですよね…?



『あら…?悪神あくしんと殺りあってる間にこっちは結構話が進んじゃったみたいね?』


 あ、悪神と殺りあった!?悪神って悪い神様の事だよね!?そ、それに女神様の口調が先程とは違う事に戸惑いを隠せないのですが!?



『悪神に様はいらないわよ?ティア』


『は、はい!女神様!』



『それと…女神モードは疲れるのよね。ティアにはこういう喋り方でいくから宜しくね!つき合いが長くなりそうだしね!』


 わ、私だけ…な、何と恐れ多い…


『きょ、恐縮です…』


 私の心はすでにいっぱいいっぱいのようだ。


『きゃははははははっ…すでにいっぱいおっぱいって…ぷふっ…す、凄く面白いわね!ティア』


 言ってません!いっぱい…お、おっぱいだなんて…そんなハレンチなこと…


『それでこそ私が選んだだけの事はあるわ!』



『…そ、そういえば…女神様のお望みはなんだったのですか?』


 私は心を無にして女神様がおっしゃっていた事を訊ねる事にした。け、決して話を逸らそうとしたわけじゃありませんからね?


『あっ、そうそう。それね!お願いと言うのは他でもないわ。あなたの右斜め前方に一人城の天井を見上げながら寂しそうな表情を時折している男の子が居るのが分かるかしら?』


 私の右斜め前方…あっ…


『そうそう。その子よ。その子をあなたのところで面倒を見てあげてくれないかしら?』


『と、殿方をですか!?』


『大丈夫よ。そんな心配はしなくても…。それにあなたにとって悪い事じゃないのよ?』


『えっ?』


『あなたの助けにもなってくれるし、あなたが知らない事を教えてもらえるわよ?私の名前のアルセレネに誓うわ』


 ……………あ、アルセレネ…様…?


『そうよ!私の名前よ!』


 今まで誰にも分からなかった世界を司る女神様の名前を私が知る事になるとは思っていませんでしたっ!!?


『時とともに忘れられてしまっただけよ?ダンジョンには私の名前が刻まれた石碑かなにかが残っていた筈よ?』


 す、すぐに女神様のお名前を普及して…

 

『しなくていいわ。忙しくなっちゃうから』


 あ、はい……


『それで…お願いできるかしら?ティアの周りではもうすでに引き取る話をしている者達がいるのだけれど…』


『も、勿論です!と、殿方と話すのは緊張しますが行ってまいります!』


『…お願いね? むっ!?悪神の気配!?ティア!ま、また後でね!そこかぁぁぁぁ───』




 あ、はい…。お、お気をつけて…


 女神様の声が聞こえなくなった。同時に私は彼に向かって歩き出す。




「あっ、あのっ…」


 そして彼の前に立ち声をかける。


「は、はじめまして。私はティア・カシオペアと申します」


 







 女神様の言った通りだった。ハヤブサ様は領地についてすぐに問題を解決してくれて、私をあの貴族の魔の手から助けてくれた。セーブルの事は女神様が教えてくださったので本当の事を知っているんだけれど、ハヤブサ様は私が知ったら傷つくと思われているみたいでわざわざ嘘までついてくれている。優しい嘘という事ですよね。ですので…私はハヤブサ様を嘘つきにしないようにしないといけませんね…。




 まあ、ハヤブサ様を御世話する事を決めた時の話ですが一点だけ問題があったとすれば…娘を溺愛するお父様を説得するのが一番大変でしたね…。それはその日の夜の事でしたね…。



「──ならん!?ならんぞ!?いくら女神様からのお言葉だろうと…へぶしっ!?」


 お父様の言葉を遮るようにお母様の右の正拳突きがお父様の顔に的確に突き刺さる…。


「ティアが決めた事です。あなたは黙っていなさい。いいですか?私ももう我慢の限界です!リリア達が嫁にいつまでも行けないのはあなたのせいなんですよ?いい機会です。あなたは少し娘離れをしなさいな!それにティアが女神様からそう神託を受けたのです!それをまさか断らせるおつもりですか!?娘を逆徒にでもしたいのですか!?」



「い、いや…女神様のお言葉なのは分かっておる…じゃが…私の気持ちも汲んで…」


「…ふっ!!」


「がはっ──」



 お母様のパンチでも倒れなかったお父様が、今度はリリアお姉様のボディへの重いパンチを受けて…ついにその膝を地面へとついてしまっている…。流石リリアお姉様だ。サッと相手の懐に入り込み、閃光のようにその拳をねじ込んでいる。アレを受けたら立っていられないわね…。


「…お父様」


「り、リリア…な、何を…」 


「私もお母様と同じ意見です。これ以上私への、娘への干渉はお控えください」


「わ、私はそなた達を…」


「「次はありませんよ?」」


「…わ、分かった」



 あの時のお姉様は本気でしたね。お父様が了承しなかったら…血の海ができていたかも知れません。それと…女神様からお聞きしましたが…なにやらハヤブサ様と同じ故郷の方がそんなお姉様に惚れているだとか…。ジョブは勇者でしたか…?勇気ある者に最大の敬意を持つ事に致しましょう…。




 さて…そろそろ思い返しているうちに眠気がやってきてしまいましたね…


 明日はどんな事が起こるのでしょうか?



 楽しみですね…





 




 



 

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