第14話専属依頼

「…大切な話は終わったみたいね?ちょうどあんたに話があったのよ…」


「…私もある…」


 ティアさんやドレインさんとの話を終えた俺はリーンさんとリカさんの元へ向かったんだ。二人は冒険者ギルド内のテーブルの席に着いていて


「ちょうど俺もお二人に話があったんです。席に着いてもいいですか?」


「待って?席に着く前に一言いいかしら?」

「…一言だけ…」


「あ、はい」


 二人は席を立つと同時に頭を下げた。


「ありがとう。お陰で奴隷落ちしなくてすんだわ」

「…ありがとう…」


「ああ…お礼はいいですよ?なんか照れくさくなってしまうので…」


「本当は頭を下げるだけじゃあ足りないんだろうけどね…」


「…ホントリーンが迷惑掛けた…お礼はリーンが体で払う…」


「アンタ本当に何言ってるのっ!?いい加減親友辞めるからね!?」


「…じゃあ…私が体で払う…?」


「そこから離れなさいよ!?しかもなんで疑問系なのよ!?」


「本当に二人は仲がいいみたいですね?息もピッタリなようで…」


「…相棒…」


「幼馴染だしね…。ただ…リカは奴隷落ちしようとした時もそうだけど、自分だけ助かろうとしたのによくもまあ相棒だなんて言えるわね?」


「…照れる…」


「照れる要素なんてどこにもないわよ!リカに構ってたら話が進まないわね…席に着きましょうか」


 リーンさんのその言葉に丸テーブルを囲むように座る俺達。


「それで…話があるのよね?」


「…私にも…?」


「ええ。先に言っておきますが嫌なら断ってもらって全然構いませんので」


「…嫌なら…?…やっぱり体…?」


「違います!」

「あんたはそこから離れなさいよ!」


 俺とリーンさんの言葉が重なる。こりゃあ早く本題に入った方がいいかな…。


「リーンさんとリカさんにしばらくでも構いませんので専属で依頼を受けていただけないかなと思いまして」


「「…依頼…?」…」


「はい、依頼内容は定期的にユウショウ兎の討伐、及びその肉と血を手に入れてもらう事になります」


「ユウショウ兎…ゴクッ…」


「…美味だった…」


 二人はユウショウ兎と聞いて先程のユウショウ兎のタレ串焼きの味を思い出したみたいだ。俺も一本食べたんだけどジューシーで美味かった。


「定期的にって言ったのはユウショウ兎の血が醤油の材料になるからですね!」


「ちょっ!?あんたっ…!?」


「…っっっ!?…」


「んっ?どうしたんです二人とも?」


「それあたし達に言ったら駄目なやつじゃあないの!?」


「…(こくこく)…」


 リーンさんの言葉にリカさんが同意してこくこく頷いている。なんでだ?


『──錬金の材料は一般的に伝わっているものと伝わってないものがあります。今回の場合ですと後者ですね。二人は醤油の魅力と価値をすでに知っています。ですので、その醤油の材料となるものをそんな簡単に教えられるとは予想していなかったのでしょうね。要は知識は財産というやつですね。言葉通りそういう筋にそういう情報を持っていけばお金にもなりますしね』


 なるほどね。それで二人は驚いているのか。まあ、いずれは他の人に作ってもらう予定だし、二人なら大丈夫だろ?それにどうやって作るのかは知らないだろ?


『──ええ。お二人なら大丈夫ですし、マスターの言う通り作り方を知られても問題はありませんね』



「別によ」

 

「そ、そうなの…ね…」

「……………ズ…」


 んっ?心なしか二人とも頬が赤いような…


『──マスターが気にする事はありませんよ!それよりも話を進めちゃって下さい』


 サチがそういうなら了解。


「先程の話に戻りますが、専属で定期的な依頼になりますけど…どうですかね?」


「っ!?それで…専属なのね…」

「…言った事あながち間違いなし…」


 

 二人が話しあう。良い答えをもらえるといいんだけどな。


「か、勘違いしないでよね!?せ、専属で定期的に依頼をもらえるから食いっぱぐれがなくなるから…それで…し、仕方がないから受けてあげるだけなんだからね!?」


「…勝ち組…」


「ありがとうございます!受けていただいて。それで早速なんですが今からってどうですかね?」


「今から…?」


「…リーンに任せる…」


「何あたし一人に任せようとしてんのよ!」


「…ユウショウ兎くらいリーン一人で十分…」


「あんたさっき相棒って言ったでしょっ!」


「…解消する…」


「いい加減本気で怒るわよ?」



 今日は色々あったし、本当はゆっくりしたいところを頼む訳だから特別手当くらい出さないとな。何かいい案あるかサチ?



『──そうですねぇ…醤油を使ったユウショウ兎の肉を使った親子丼なんていかがでしょうか?運動した後は冒険者ならガッツリ食べたいでしょうしね』


 なるほど…分かった。ありがとうな!サチ!あっ…その時は作り方宜しくな?


『──イエス!マイロード!』



「無理を承知で頼むのでそのお詫びというわけではないんですけど、醤油を使った料理を…」

「やるわ」

「…ヤる…」


 即答!?まだ話し終えてないんだけどっ!?


「…私一人で十分…」


「あんた何を抜けがけして、一人でいい思いをしようとしてんのよ!」


「…食い扶持が減る…」


「食い維持だけは張ってるんだから…」


「…リーンよりも胸も張ってる…」


「…よ~く…分かったわ…あんたは死にたいわけね?」


 ギルド内に殺気が漂い始める。リーンさんは本気のようだ。


「…ほ、ほんの…冗談…そ、それよりも早く行く…」


「次はないからね?」


 本当に仲がいい二人だ。


「話は聞かせてもらったわ!」 


「「「!?」」」


 ギルド内に突如響く声に俺達はビクッとなる。


「私も行くわ!」


 そう言って俺達の前に姿を現したのは受け付け嬢の格好のまま、剣を手にしたグレースさんだ。


「私も手伝ってあげる!なので私にも…」


「何をやっとるかぁぁぁぁぁぁぁぁ!」



 “ゴツン!”と響く鈍い音。うわぁ…痛そうだな。グレースさんが話し終える前にギルドマスターのグレンさんの拳骨が頭に落ちたのだ。こういう時は雷が落ちたって感じか?そのままグレンさんの手によってグレースさんは引きずられながら持ち場へと戻される。「私も食べたいのぅ~」とか「私も冒険者に戻るのぅ~」とかはあえて聞かなかった事に…何もなかった事にして話を進める事に…。


「…えっ…と…じゃあ…ギルドから収納の魔法具を借りてくるわ…」


『──マスター』


 どうした?



『──リーンさんを止めて下さい』


『なんだか分かんないけど分かった』


「リーンさん。ちょっと待って下さい」


「? どうしたの?」


『──リーンさんの腰元にあるウエストポーチを借りて下さい』


「リーンさんすいません!その腰元のウエストポーチを借りても?」


「えっ?ええと…まあ、いいけど…ポーションが2個入ってるだけよ?」 


 リーンさんから取り外したウエストポーチを受け取り…

 


『──ウエストポーチに付与をかけます』


『付与?』


『──イエスマスター!彼女達は専属ですからね。ギルドの魔法具を毎回借りるのも手間でしょうし、特別に収納の魔法を付与する事に致しましょう!今日も錬金してたお陰で錬金術レベルがあがり付与するスキルをマスターは覚えてますので』


『そうなんだな…了解。で、どうやんの?』


『──そのまま口にしてもらえば大丈夫ですよ!収納付与と』


 了解。


「【収納付与】!」


「「!?」」


 ウエストポーチが一瞬だけ光ったように見えた。それをリーンさんへと返す。


「収納の魔法を付与しておきましたので、コレに収納して下さい。コレで毎回ギルドに魔法具を借りなくてもすみますよ」


「…はっ?」


「…凄っ…じゃなくて…リーンだけズルい…」


「リカさんの鞄にも勿論付与をかけますよ」


「…むふっ…」


「ほ、ホント…あんたは色々とその…凄いわね?」



 まあ、そんなわけでリーンさんとリカさんは俺の依頼を受けてくれて日暮れまでには帰ってきてくれた。たくさんのユウショウ兎と血を手にして。正確に言うと鞄に収納してだけどな。まあ、当然ふわとろの親子丼を作ってご馳走したのは言うまでもないだろう。ここぞとばかりにおかわりして本当に美味しそうにに食べてくれた。ついでに言うとグレースさんの分も作った形だ。グレースさんも本当に美味しそうに食べてくれた。


 余談にはなるのだが、それをどこからか聞きつけたティアさんとネネさんにユウショウ兎の親子丼をご馳走するハメになる事を俺はまだ知らない…。頑張って作りましたけどね…。










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