第7話一応の解決
「ただいま戻りました」
ティアさんの屋敷にネネさんとともに戻った時にはすでに夕暮れ時だった。この世界には時計等の時間を刻むものがないので詳しい時間は分からない。地球の時間でいうと夕方の五時か六時くらいじゃあないだろうか?地球では当たり前だったものがないというのはホント不憫に感じてしまうな。
「「「「「おかえりなさいませハヤブサ様!
」」」」」
屋敷の中へ入ると侍女さん達が出迎えてくれる。全員メイド服を着用しているのでなんだかメイドカフェに足を踏み入れてしまったような感じがする。メイドカフェなんて行った事ないんだけどな。
『──メイドカフェを経営してはいかがですか?収入も見込めるでしょうし、なによりメイド服が好きでしょう?』
『…メイド服が好きなのは…否定はしない』
メイド服が嫌いな男性はいないだろうよ。探せばいるかも知れないけど…。
「ハヤブサ様。お食事の準備ができておりますので食堂へどうぞ。お嬢様もお待ちです」
「分かりました。すぐに向かいますね!ただその前に『──お待ちをっ!マスター!』」
『どうしたサチ?』
『──手洗いとうがいをされようとしてましたよね?』
『そうだけど?』
『──確かに手洗いは手の汚れを落とすことにより、細菌やウイルスがはがれやすくする効果がある事や、うがいは喉からの菌の侵入を防ぐためにするという事は地球では一般的です』
『…丁寧な手洗いとうがいの効果の説明をありがとうなサチ。でもなんで今更そんな説明を?』
『──普通に【クリーニング】の魔法を使えば手洗いの効果しかありませんが、内側から綺麗になるように【クリーニング】の魔法を使えばうがいの効果も得られます。普通に使えば外側だけ、イメージして使えば内側からも綺麗にできます』
『ああ…よく物語で目や耳にするけど魔法はイメージが大事ってやつか…?』
『──その通りです!』
『じゃあ…病気になったら【クリーニング】の魔法を使えば治るのか』
『──治りません』
『治らないのかよっ!?えっ!?はぁっ!?そこは治るんじゃないのっ!?菌なんかもそれで消えるんだろ!?』
『──病気になったら【メディスン】の魔法で治して下さい』
『病気を洗い落とすイメージか病気が綺麗さっぱりなくなるよなイメージで【クリーニング】の魔法を使っても治らないのか!?』
『──治りません。【クリーニング】の魔法を使えば手洗いうがいと同じ効果も得られる。それ以上はありません。そう割り切って下さい。そうなってます。女神様がそう決めてますので』
『…りょ、了解』
と、とりあえずクリーニングの魔法を使えば手洗いうがいはしなくていいという事だな?じゃあネネさんに…
『──頼まなくても【クリーニング】の魔法はすでにマスターは覚えてますよ』
『いつの間にっ!?』
『──しいていうなら…最初に使ってもらった時ですね』
『早く言ってくれよな?』
『──まだあの時はマスターの魔力が1しかありませんでしたし、少しでもネネさんに話掛ける機会が多い方がいいと思いまして』
なるほど…気を遣われてたわけか。とりあえず【クリーニング】の魔法を使ってから食堂へと向かう。メイドさんが言った通りすでにティアさんが席についていた。あの人もいるな。ティアさんは俺の姿に気がつくと慌てて駆け寄って来る。
「まずはおかえりなさいハヤブサ様。帰りが遅かったので何かあったのではないかと心配してました。ネネがついていたので大丈夫だとは思っていたんですけど…」
「…お嬢様に余計なご心配お掛けしました」
ネネさんが頭を下げる。俺も慌てて頭を下げながら口を開く。遅くなったのは元を辿れば俺のせいだしね。まあら色々してたからなんだけども…。
「すいません。遅くなったのは俺のせいなんです。冒険者ギルドで冒険者登録した後、その足で錬金ギルドにも足を運んだのですがちょっと色々ありまして…」
そう言いながらチラッとあの人にも視線を向ける。あの人は澄ました表情のまま。あの人からすれば別に伝わっても構わないみたいだし表情は変わらないか。
「…何かあったんですね?」
「はい。その…錬金ギルドで問題が起こってまして…」
「問題っ!?どんな問題なのですか!?」
「錬金ギルドに勤めていた人達が一斉に辞めて…そのうえギルドマスターのゼンさんもその分も一人でカバーしようと無理をして倒れたそうです」
「っ!? そんな…ゼンさんはっ!?ゼンさんは大丈夫なんですか!?」
「落ち着いて下さいティアさん。ゼンさんは今はゆっくり休んでまして、体調にも問題ありません」
「そ、そうですか…ゼンさんの体調に問題なくて良かったです…」
「はい」
ケイトさんの父親でもあるゼンさんが体調に問題がなかったのを聞いてホッとするティアさん。サチもゼンさんの体調に問題ないと言ってくれたのでゆっくり休めば元通りだろう。
さて…ここからだろう。
「…それにしても…どうして一人でそんな無茶な事を…いえ、そもそも領主として私が気掛けていないといけなかった…」
「ティアさんのせいではないですよ」
「ですがっ!?」
「ティアさんが王都に向かった後にそうなったそうですし…一応の話ですが、そうなった時にゼンさん達は領主であるティアさんの耳にその旨だけでもと入れておかないとと思い連絡はしてたそうです」
「!? セーブルっ!問題はなかったと聞きましたっ!どうしてそんな事になっているのか…私に今の今までその連絡が来てないのは何故ですっ!」
その瞬間年配の男性執事がガバっと頭を下げる。
「申し訳ありません!お嬢様のお手を煩わせまいとした次第で…」
「…っ…まずは…今すぐ近くの街の錬金ギルドへ通達を──」
「いえ!お嬢様!それには及びません。その件につきましてはすぐに解決できる策があるのです!その為の準備も──」
「ああ、ティアさんすいません。その件についてはもう解決してまして」
「「…!?」」
「錬金ギルドが受注していた仕事はすでに終わってますし、領地に足りていなかったポーションも問題はありません。多めに錬金しておきましたので」
いやぁ…多かった多かった。溜まっていた錬金の仕事の多い事多い事…。辞めた人間は辞める前にかなりの仕事を受注してたんだよね。仕事がこなせないようにね。まあ詰めが甘いよな。材料が領地内で手に入る分で補えたのは幸いだったし。ケイトさんには助手みたいな形で材料を錬金部屋に次から次に持ってきたり色々動いてもらってネネさんには冒険者ギルドに走ってもらって足りない材料を用意してもらったり…。
何と言ってもサチのチートじみた力がなかったらそもそも全てこんな短時間でこなせなかったけどな。
ホント有能過ぎるわこのスキル。
『──テヘペロっ』
『今…それを使うところじゃなかったよな?』
『──使いたかっただけです』
でしょうねっ…。
「もしかして…ハヤブサ様が…?」
「はい」
「ありがとうございます!ゆっくり過ごしてもらう予定でしたのに…お手を煩わせてしまい申し訳ありません」
「いえいえ、御世話になってるんですからこれくらいは」
「本当にありがとうございます…」
そう言って俺の手を取り、その手を自身の両手で包み込むティアさん。近いです。正直かなり近いと思いますです。喜んでいただけるのは嬉しいですが戸惑ってしまいます。
『──タジタジですね、マスター♪何か変な言葉遣いになってますし、なにより言葉に出せていませんが…ぷふっ…』
何笑ってるんだよ…。女性から手を包み込むように握られたら誰でもそうなるわい。まあ、そんななか混乱しながらも執事のセーブルさんが口を開いた。俺も若干混乱してるけどな。
「…どうやって…そんな…いえ…こ、これからの事も考えてお嬢様の耳に入れていただきたいお話が…」
「あっ、その話はしなくてもいいですよ?女神様の召喚によって俺がこの世界に来た事はすでに聞いていると思います…」
俺はセーブルさんの話を遮り、そう口にしながらセーブルさんに近づいて行く。そしてセーブルさんにだけ聞こえるように小声で告げた。
「女神様からの神託です。今すぐセーブルさんの本当の主であるキンバリーさんの元に帰るようにとの事です」
「…なっ!?」
「そしてこの領地とティアさんに二度と手を出さないようにと神託を受けた事をキンバリーさんに伝えてもらえますか?」
そんな風にサチに言うように言われたのでそうセーブルさんに伝えると顔を青く染めながら何かを言いたそうにしつつも食堂を後にした。いや、屋敷を後にした。荷物はいつでもこの領地を出ていけるように元々纏めてたそうだ。それにセーブルさんをどうせ裁けないしね。貴族によっては姑息というかそういうの普通にする者もいるそうだし…。
まあ、ティアさんには今は本当の事を伝えないでいいだろうとサチに言われたのでそうする事にした。ネネさんもお嬢様に悲しい思いはさせたくないと言ってたし…それで良かったのだと思う。急にセーブルさんが姿を消したんだから勿論ティアさんは何があったのかと騒いでいたけどな。そこら辺は女神様からの言付けという事で押し通した形だ。
そして…色んな事を任されていたセーブルさんがいなくなるという事は誰かがその代わりをしないといけないということだ。んで…しばらく俺がその代わりをする事もその日のうちに話した。ぶっちゃけるとサチのお陰でそんな風にできるんだけどな。
とにかく…後々の為に…スローライフの為に今頑張るって感じだ。
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