第50話 負傷した男の正体

 カザタム王都へ現れた傷だらけの男。

 彼はなぜあのような大怪我を負い、そしてなぜルクレンドへやってきたのか。


 多くの謎に包まれてはいるが、その服装からおおよその身元をゴルセン騎士団長が見抜く。


「あれはネルザス王国騎士団の制服ですな」

「ネルザス? そんな遠い場所から……」


 このルクレンドからネルザスまではかなり距離がある。あれほどの怪我を負いながらも、彼はなぜこのルクレンドを目指したのか。俺はその理由が知りたかった。


 なので、俺たちはもう少しの間、このルクレンドに滞在することとなった。

 判断したのは俺の考えだけじゃなく、負傷した若い男性は災竜絡みの情報を有している可能性があるので、ルクレンド王から直々に残ってくれないかと要請があったのだ。


 俺としても残りたいところではあるが、予定の帰還日を過ぎても戻らなければアルテノアの人たちが不安に感じるだろうからと、先にルネやアレックスたちを送り出し、事態を知らせてもらうことにした。


 ルネは不服のようだったが、あまり戦力を分散させたままというのはよろしくない。

 応用の利く魔法使いであるルネはさまざまな状況にも対応できるだろうし、そういう意味でも今のアルテノアには欠かせない存在だ。


 残ったヴァネッサを連れて、俺は診療所で治療中の男性のもとへと向かう。


 そこで医師から容態を聞かされた。


「怪我の治療は問題なくすべて終わりました。今は呼吸も落ち着いていますし、もう大丈夫でしょう」

「ならよかった」


 医者の話では衣服についていた血液の量に対して怪我の程度はそこまで重いものでなかったことから、恐らくともに戦っていた仲間の血だろうという。或いは敵を倒した際の返り血かもしれないが。


 ……ただ、俺としては彼が最後に口走った「ドラゴン」という単語がどうしても気がかりだった。


 災竜ではなく普通に巨大ドラゴンと出くわして戦闘になったという線も捨てきれないが、あまりにもタイミングが良すぎる。それに、ここから遠く離れたネルザスから助けを求めに来たというのも引っかかるんだよなぁ。


 いずれにせよ、彼の意識が戻らないことにはこれ以上探りようがない。


 ――と、その時だった。


「う、うぅ……」

「あっ! 目を覚ましたみたいですよ!」


 驚きに目を大きく見開きながら、ヴァネッサが叫ぶ。

 彼女の言うように、若い男性が横になっていたベッドが何やらもぞもぞと動いている。


 話を聞ける状態にあるかどうか……ともかく声をかけてみよう。


「君、大丈夫か?」

「こ、ここは……」

「ルクレンド王国だ」

「ル、ルクレンド……」


 どうやらある程度の会話はできそうだ。

 俺はヴァネッサにゴルセン騎士団長を呼んでくるよう伝える。


 これで情報を得られそうだ。

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