第49話 予兆
ルクレンドとの協力関係を取りつけ俺たちは、この吉報を届けるためアルテノアへと帰還するための準備を進めていた。
国王陛下は一泊してから戻られてはどうかと提案してくれたが、こうしている間にも災竜の脅威は迫っている。守りを固めつつ、さらに協力体制を取れるように他国にも呼びかけていくつもりなので、そっちの用意も進めていかなければならない。
「またいつでも来てください」
「ありがとうございます」
ルクレンドのゴルセン騎士団長と別れの挨拶をしていた時だった。
「きゃああああああっ!」
王都の中央通りから悲鳴が聞こえてきた。
咄嗟に駆け出した俺とゴルセン騎士団長が目の当たりにしたのは――血だらけとなり、おぼつかない足取りでふらつく若い男の姿であった。どうやら王都へ入り込んできたところを町の人が目撃して叫んだのだろう。
危険な事件というわけではなさそうだが、男性はかなり負傷しているようなのですぐに手当てが必要だ。
ゴルセン騎士団長は近くにいた兵士たちへ的確な指示を出し、男性を王都にある診療所へと運ぶことに。
事態を知ったルネたちも合流して男性の手当てにあたるが、その際、彼は何かを訴えるように口をパクパクと動かしていた。
「あまり喋らない方がいい。安心しろ、すぐに診療所へ運ぶから」
「ダ、ダメだ……」
消え入りそうな声で、男性はそう呟いた。
「弱気になるな。致命傷になるほど深い傷はない。出血は多いが、安静にしていれば助かるはずだ。最後まで希望を捨てるんじゃない」
「違う……無駄だという意味だ……ヤツからは逃れられない……」
「ヤツ? 君をこんな風にした犯人か?」
「そうだ……恐ろしいドラゴンだった……」
そこまで語ると、彼は意識を失った。
息はあるので死んだわけではなく、気絶したのだろう。
「ドラゴン……まさか!」
俺は男性をルネたちに任せると、彼が歩いてきた方向へと駆け出す。
やがて、俺はある異変に気がついて足を止めた。
「なんだ……あれは……」
若い男性が歩いてきたのは南西――その方向の空にどす黒い雲がかかっていた。
雨雲とは明らかに違う。
もっとこう……禍々しいものだ。
「あそこに――災竜がいる?」
ふとそんな考えが脳裏をよぎった。
確証があるわけではないが、そいつがいてもおかしくはないくらい異様な空だ。周りにも何人か空の異常さに気づいており、足を止めて何事かとざわついている。
「いよいよ現れた……そう考えた方がよさそうだな」
すべてはあの男性が持っている情報次第。
こうなったら、治癒魔法を使って早めに意識を取り戻してもらうしかなさそうだ。
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