第48話【幕間】一方その頃、エルダインでは

 グラントが着実に他国との連携を整えてく中、エルダインではアルテノアから帰還したモニカによって新たな情報が伝えられていた。


「なんと! アルテノアはもうそこまで情報を掴んでいたのか!」


 最初に話を聞いたバルガスは驚愕に目を丸くする。

 大国エルダインとは比べ物にならないほど規模の小さな国であるアルテノアが、すでに有力な情報をキャッチするだけでなくその対策についても二歩、三歩先を行っていたのだ。


 だが、すぐにバルガスはその要因に気づく。


「やはりグラント教官が周りの者たちに的確な指示を与えた効果か……」

「間違いありません。私は対策会議の場に参加させてもらいましたが、教官は常に先を読んで他の兵たちに指示を出していました」

「うぅむ……やはりエルダインはとんでもない人材を放出してしまったようだな」


 とはいえ、仮にグラントがエルダインに残ったままだったとしても、これほどの才能が十分に発揮できる環境にあったとは言えないため、かえって自由に動ける他国にいた方がよかったのではないかとも思えた。


「グラント教官は新たな戦力を求めています。私はこれに応じるべきだと考えますが……」

「まず上が許さんだろうな」


 モニカもバルガスも喜んで手を貸し、災竜襲来に備えたいところであったが、この期に及んで未だに保身のための行動を繰り返す幹部たちが許可を出すはずがないと踏んでいた。


 大国であるエルダインが小国のアルテノアと手を組む。

 これでは同盟国に示しがつかないと反発されるのは火を見るより明らかだった。


「情けない限りだが……それでも、やはり民を見捨てるようなマネはできない」

「なら!」

「もちろん協力する。上の意見など聞いていられるか」

「し、しかし、それだとバルガス隊長の立場が……」

「構わん。立場を気にして民を守れないというならそんなものは捨ててやる。仮にグラント教官が今の俺と同じ状況だったなら、きっとそうしたはずだ」

「ですね」


 上の顔色をうかがっていては何も守れない。

 バルガスは大都市防衛に全戦力を注ぐ幹部たちの愚行を目の当たりにしてそれを痛感していたのだ。


「だが、バレると実力行使で止めに入ってくるかもしれん。極秘裏に進めてくれ」

「分かりました。では、グラント教官の教え子たちを中心に声をかけていきましょう」

「あと、あまり時間は残されていないだろうから、とりあえず一週間の期限を設ける。まずはそこで集められる戦力をアルテノアへと派遣しよう」


 こうして、大国エルダイン内部でも独自の動きが出てくるようになった。


 すべては民を守るため。

 モニカが声をかけた者たちは騎士としての矜持を守るため、ありったけの武器を馬車の荷台へと積み込んで一路アルテノアを目指す。



 ――そして。



 ついに災竜デルガゼルドが地上へと舞い降りた。

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