第37話 成果
国民の大移動は三日という想定を遥かに上回る日数で達成となった。
これもすべては国王陛下の人望の厚さと国民の行動力のおかげだ。
しかし、この状況を長く続かせるわけにはいかない。
みんなそれぞれの故郷から離れてこの王都へと集まってくれたが、それは決して望んでやったことではない。迫りくる脅威から助かるための手段として一時的な移住に踏み切ったのだ。
――そして、その効果は早くも現れることとなる。
「大変です!」
城内の円卓の間にて、今後の方針をみんなで確認している最中だった。
ひとりの騎士が汗だくになり、息を切らせながら入ってきたのだ。
「落ち着け。何をそんなに慌てている。魔法を使うモンスターが出たか?」
ザネス騎士団長が騎士のもとへ歩み寄ると、彼は呼吸を整えてから自身が見てきた情報を伝えた。
「領土南方の警戒にあたっていた騎士たちから突然雪が降り始め、土地が凍り始めたという報告がありました!」
「土地が凍り始めただと!?」
円卓の間は一瞬にして騒然となった。
領土南方といえば、アルテノア内でも一番温暖な気候になる。そこが真冬でもないのに雪が降って凍りつくなんて。
「これが書物に記されていた異常気象……どうやら災竜が飛来する日は刻一刻と迫りつつあるようだな」
ここまで一致すると、もう疑いようがないか。
倒されていたはずの災竜デルガゼルドは復活している――というか、そもそも架空の存在という説すら出ていたので、この場合は実在していたという方がしっくりくるか。
……いや、それはこの際どうでもいい。
とにかく、今は今後の対策に力を注がなくては。
「しかし、そうなると早めに国民を王都へ集めて正解でしたな。この調子で大雪となったら身動きが取れなくなる」
「えぇ。その点についてはホッとしていますよ」
あと少しでも判断が遅れていたら、近くにある村の人たちはどうなっていたか……小さいとはいえ住人の数は五十人を超えている。そう考えるとゾッとするな。
「彼らには使い魔を送り、こちらへ帰還するよう伝えます」
「そうしてください。次に何が起きるか分かりませんからね」
とりあえず、あの書物の信憑性がグッと高まったところので……いよいよ本格的に災竜に関する対策を練るとするか。
しかし、これはなかなか難しいな。
何せ肝心の災竜に関する情報が何もない。
とにかくドラゴンであるのは間違いないさそうなのでそれをベースに考えていくしかないか――と、結論を出した直後だった。
「きょ、教官!」
「なんだか大きな鳥がこっちに近づいてきてます!」
「えっ? 鳥?」
ルネとヴァネッサの声に反応して空を見上げると、確かに巨大な鳥が王都目指して突っ込んできていた。
すぐさま警戒態勢を取るが、しばらくしてそれがモンスターの類ではなく使い魔であると判明。おまけに乗っていたのは――
「よぉ、また会ったな」
「ロ、ロウリーさん!?」
つい先日会ったばかりのロウリーさんだった。
彼が王都に用事があるなんて……一体何だろうか。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます