第35話 対策

 俺が提案したプランは国王陛下に認められ、早速次の日から実行へと移された。

 どうやら陛下も同じことを考えていたようだが、現実味がないとあきらめていたらしい。


 ――だが、そこは不可能を可能とする魔法使いの腕の見せどころ。


 俺とルネが協力することで諸々の問題は万事解決した。

 その提案とは――


「しかし驚きましたなぁ。まさかすべての国民を王都へ集めるとは」


 ひと段落ついたタイミングで現場の指揮を執っていたザネス騎士団長がやってくる。その横には彼の手伝いをしていたルネとヴァネッサの姿もあった。


「お疲れ様です、ザネス騎士団長」

「なんのこれしき」

「ふたりもお疲れ様」

「モンスターとの戦いに比べたらなんともありませんよ」

「ですね。もっと動けます!」


 ルネもヴァネッサも実に頼もしい返事をくれる。


 とりあえず、王都から一番近い村の住人たちを王都へ移送し終えた。

 すでに夕暮れとなっているし、今日はここまでだろう。


「明日からは俺とルネの使い魔を残りの村へ送り、住人をこちらへ連れてきます」

「よろしく頼みますぞ」


 俺とザネス騎士団長の視線の先には、避難所として開放されている宿屋へ荷物を運び込む村の人たちの姿があった。


 あの書物に記されていたような自然災害がいつ発生するかは不明だが、起きてから救出に向かうのは大変だと俺は判断し、国王にもそれを伝えていた。その上で王都を一時の避難場所にしてはどうかと話したのだ。


 国王陛下は即決し、ザネス騎士団長にも協力を命じて村人たちの大移動が始まった。


 その判断の速さにも驚かされたが、さらに信じられなかったのが住人たちの反応だ。

 当初、俺はかなりの反発があるだろうと予測していた。


 そりゃそうだ。


 いきなり王都からの使者が「期間付きだが王都で暮らせ」なんて言ってきたら混乱するに決まっている。自然災害の件だって確証があるわけではないので信用されるかどうか分からなかったからな。


 ところが、そんな俺の懸念はあっさりと吹き飛んだ。 

 最初に訪れた住人たちはすぐに支度を開始。

 あっという間に準備を整え、円滑に移動が進められたのである。


 正直、二、三日は説得に時間を要すると考慮していたため、これは嬉しい誤算となった。

 おかげで他の村からの移動もスムーズに行えるだろう。


 要因となっているのは国王への信頼だった。


 前にクラトスの村で村長とのやりとりを間近で見ていたからこそ、非常に説得力がある。

 アルテノア国王は本当に民を大事に想い、それが国民にもしっかり伝わっていた。


 だから、「陛下の言うことならば」と迅速に行動してくれたのである。


 ちなみに、王都内の宿屋を開放するだけでは住居が足りないため、仮設の住宅づくりが急ピッチで進められていた。


 親兄弟、或いは親戚が王都内にいる場合はそちらへ避難してもらうことを推奨しているが、それでも住居の数は足りない。


 今日移住してきた者たちは全員が宿屋の部屋をキープできるが、一部の若者はアイテム屋から冒険者用のテントを借りて王都の広場にそれを設置していた。


 理由を尋ねると、これから来る村の人たちの中には高齢者やもしかしたら妊婦など安静にしていなければならない人もいると思うので、そういう人たちが優先的に部屋を使用できるようにしたいとのこと。


 まさに助け合いの精神。


 産業の少ない小国だからこそこの考えが根付いているのかもしれないな。

 

「この調子なら三日以内にすべての国民を王都へ集められますな」

「えぇ。問題はその間に例の自然災害が発生しないことを祈るばかりです」


 魔法を使えるモンスターたちの成長度合いを見る限り、恐らく災竜デルガゼルドの影響は段階的に襲ってくると推察される。


 第一弾が魔法を使えるモンスターの出現。

 そして第二弾が自然災害の多発といったところか。


 小国のアルテノアにとって、王家の力だけでこの窮地を脱するのは難しい。

 事前の入念な準備と明確な方針を固めていかなければ、足元から崩れ落ちる可能性が高いからな。


「教官」


 今後について考えを巡らせていたら、ルネが声をかけてきた。


「どうかしたのか? 何か不備でもあったか?」

「いえ、こちらの守りは完璧だと思うのですが……エルダインは大丈夫でしょうか」


 ルネはエルダインのことを心配していた。

 ウォルバート親子や彼らに協力する者たちへは思うところがあるのだろうが、彼女にとってエルダインは故郷。お世話になった人たちもいるし、不安を感じるのは当然だろう。


「大丈夫だよ、ルネ。あそこは大陸でも屈指の大国。戦力も経済力も充実しているからいくらでも対応できるさ」

「そ、そうですよね!」


 安堵するルネだが……あくまでもその潤沢な戦力と経済力を適切に運用できればという条件がつく。

 何せ俺が出てくる直前の騎士団や魔法兵団はお飾り状態だったからな。


 とはいえ、さすがに俺よりもその手の分野に精通した専門家がいるだろうし、問題なくやれるだろう。

 とにかく今はアルテノアに及ぶ被害を少なくする方法を考えないとな。

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