第32話 ロウリーからの情報
家の中へと案内されると、まず簡単な近況報告から始まった。
「どうだい、教官生活の方は。評判は上々だと聞いているが」
「それなんですけど……今はエルダインを出てアルテノア王国で魔法や剣術の教官をしているんです」
「何っ? アルテノア? ……聞いたことのない国だな」
腕を組んで考え込むロウリーさん。
無理もない。
正直、俺も深くかかわりを持つようになるまではこの国の存在に対してピンと来ていなかったからな。エルダインは不戦条約を結んでいる大国にしか目を向けていなかったし。
「なんだってまたそんな国へ移り住んだんだ? そもそも、おまえほど優秀な教官をエルダインが簡単に手放すとは思えんのだが」
「実は――」
俺はここへ至るまでの経緯をロウリーさんに説明していく。
最初は静かに聞いていたが、次第に顔つきが険しくなって最終的には大きなため息とともに肩を落とした。
「テイラー・ウォルバート……先代にはまるでなかった地位や名声への執着が凄まじかったからな。いつかやらかすのではないかと危惧していたが、よもやそこまでイカれていたとは驚きだ」
「ははは……」
辛辣な発言に思わず苦笑いが出てしまう。
まあ、俺も言葉を選ばずにテイラー所長のことを語れと言われたら似たような評価になるのだろうけど。
「おまえも苦労しているのだな」
「もともと順風満帆というわけではなく、紆余曲折を経て今の仕事に就いていますからね。こう言うと語弊があるかもしれませんが、慣れていますよ」
もともと魔法兵団に入ったのは教官職に就くためじゃなくてバリバリ一線で活躍することが目標だった。そこから挫折し、救われ、俺のような境遇の若い子に手を差し伸べられるような存在でありたいと願って教官となったのだ。
「それがおまえの選んだ道というならば、俺からあーだこーだ言うつもりはない。頑張れよ」
「ありがとうございます」
ロウリーさんからの言葉を受け、俺は深々と頭を下げる。
近況報告を終えたところで、早速本題へと移ろう。
「今日訪ねたのは最近アルテノアの領土内で発見されたとあるモンスターに関連することでお話しをうかがえればと思いまして」
「モンスター? そいつは興味深いな」
どうやらロウリーさんの好奇心を刺激したようで、彼はニコニコと笑みを浮かべながら次の言葉を待っていた。
そこで俺は例の魔法を使えるモンスターについて語っていくのだが、ここでもまたロウリーさんの表情がみるみる変わっていく。
だが、今回はさっきと違って真剣そのもの。
さらに言えばちょっと驚いているようにも映った。
「魔法を使うモンスター……まさか実在していたとはな」
「実在?」
俺はその言葉が気にかかった。
なぜなら、その言い方だと――
「もしかして、魔法を扱うモンスターを御存知なのですか?」
「書物の中でそういう記載を目にしたってだけだ。創作じゃないぞ? 今から数百年前にも似たようなことが起きたらしい」
「ど、どの書物ですか!?」
「探してくるからちょっと待ってろ」
これは思わぬ情報だぞ。
まったく手がかりがつかめなかったのに、まさかこうもあっさり見つかるなんて。
――と、浮かれていた俺だが、すぐに気持ちを引き締め直す。
それが事実かどうかはまだ分からないからな。
ロウリーさんは創作ではないと言っていたが、だからといって真実が書かれているとも限らない。
変な先入観を持たず、慎重かつ冷静に見定めなくては。
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