第28話 夜の一幕
魔法を使えるモンスターの出現により、アルテノアは防衛政策の見直しを迫られていた。
とはいえ、これまでに遭遇したことのない事態だ。
見直すと簡単に言っても、実行するのは難しいだろう。
それは大国エルダインも同じはず。
まあ、向こうは戦力豊富だし、いくらでも対策は講じられるだろう。近年はいろいろな事情が絡み合って残念な人材となっているが、モニカやバルガス隊長など頼りになる人たちはいるからな。
しかし、アルテノアではそうもいかない。
限られた戦力でいかに窮地を脱するか。
そのカギを握るのは……モンスターの正体だろう。
魔法を使えるモンスターが自然発生したとは思えない。仮に突然変異種だとしても、リザードマンやゴブリンやオークなどが一斉に使えるようになるというのもおかしい。
だとすれば、何者かによる策略?
……だが、モンスターに魔法を教えるなんて人間の手で可能なのか?
「うん? 人間……?」
ふと、ある疑問がよぎった。
そもそもモンスターに魔法を習得させるという行為をやろうっていう発想がない気がする。
だったら言葉の分かる人間に魔法を教える方がずっと楽だし、上達レベルも違うだろうからな。
やはり、狙って習得したというよりも自然発生的に会得していったということか。
「教官? どうかされましたか?」
「お腹痛いんですか?」
いろいろと考え込んでいると、ルネとヴァネッサが心配そうに声をかけてきた。
……そうだった。
今日は急遽野宿をしようとテントを準備し、調達してきた食料を調理中なのだ。
ちなみにテントで寝るのは当然ルネとヴァネッサのふたり。
俺は見張りも兼ねて外で寝る。
今は暖かい季節とはいえ、夜の冷え込みはかなりのものだ。
そのため、毛布にくるまって焚火の近くに座り、これで暖を取ることに。
ルネには猛反対されたが、さすがに年頃の女の子と同じテントで寝泊まりをするというのはなぁ。騎士団や魔法兵団に所属している時だって緊急事態でもなければ基本別々だし。
不満そうにはしていたが、最終的にこちらの指示に従ってくれた。
「なんでもない。それより、スープがそろそろいい感じに煮えてきたから、そろそろ夕食にしようか」
「「はい!」」
ふたりは目を輝かせながら返事をする。
どうやらかなり空腹だったようだな。
まあ、これくらいの反応をしてくれた方が年相応って感じで安心する。
特にルネは養成所時代からどこか冷めたところが見られた。
もっと強くなりたいという願望がありすぎて周囲と温度差を感じていたのが原因だと俺は分析していた。いつも真面目に鍛錬を積むルネを冷やかすような連中もいたからな。
彼らは騎士としてのルネというより、その美しさを目当てに近寄ってきていた。
養成所で一番の美人で、おまけに実力もトップ。そんな子を口説ければそれだけでステータスになるという考えを持っていたのだろう。
何もかもステータス基準になっているんだよなぁ。
本来はもっと別のところに目を向けなくちゃいけないのに。
特製のスープに舌鼓を打った後は、ふたり揃ってテントで就寝。
ルネは慣れているのでまだまだ動けそうだったが、これが初遠征となるヴァネッサは疲労困憊らしく、横になるとすぐに寝息を立てていた。
最初はそんなヴァネッサを「まだまだですねぇ」と先輩風を吹かせながら笑っていたルネだが、ほんの数分で彼女と同じようにぐっすり眠っている。
慣れない環境ということもあり、疲れていたんだろうな。
「ゆっくり休めよ、ふたりとも」
俺はテントに向かって静かにそう告げるのだった。
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