第25話 グラントの実力

 オークの生み出した魔法陣から出てきたのは――巨大なカマキリ型の召喚魔獣だった。

 あいつは……エルダインにいた頃、資料で見たことがある。


 サイズは三メートル近くあり、鋭い鎌を武器とする下級召喚魔獣。

 倒すこと自体は難しくない。

 戦闘経験の少ないアレックスたちでも十分太刀打ちできる。


 それより問題は……本当にオークが召喚魔獣を呼び出したっていう点だ。

 今はまだ下級魔獣しか召喚できないようだが、そのうち倒すのが厄介な上級召喚魔獣を呼び出せるようになるかもしれない。


 そもそも、ちょっと前までは魔法どころか魔力さえまともに持ち合わせていなかったようなモンスターたちだ。


 伸び代はかなりのものだろう。

 連中が人間か、或いは人間に匹敵する知性があってこちらとしっかり会話ができるようなら教え子としていろいろと教えてやりたいところだが……さすがにそれは難しいか。


「ブオオオッ!」


 ボス格のオークが雄叫びをあげると、それに応えて召喚魔獣は大きな鎌を振り上げて襲いかかってくる。


「あ、危ない!」

「大丈夫ですよ。むしろあのカマキリが気の毒でなりません」


 少し離れた位置で戦っていたヴァネッサが叫ぶも、パートナーを務めるルネは半ば呆れたように呟く。

 さすがは俺の元教え子。

 しっかりと両者の実力を把握できているな。


「その程度の攻撃――避けるまでもない」


 魔獣の鎌は俺の体に触れるよりも先にバラバラとなった。


「っ!?!?」


 人語を発しないので何を言っているかは分からないが、あえてセリフをつけるなら「信じられない!」、「なぜだ!」ってところか。オークたちも何が起きたか分かっていないようで動揺している。


 攻撃手段の正体は風魔法。

 威力を凝縮し、体の周囲に風の刃をまとう。


 迂闊に手を触れようものなら、さっきのカマキリの腕のように吹っ飛ばされる。

 いい感じに相手の虚をつけているな――こうなればあとひと息だ。


「ルネ」

「分かりました。私たちは少し離れています」

「えっ? て、敵はどうするの?」

「残りは教官がまとめて始末するそうなので、巻き込まれないよう距離を取りましょう」

「???」


 すべてを察したルネと、いまひとつ状況を掴み切れていないヴァネッサ。

 ルネが手を引いてヴァネッサとともにその場を離れてくれたおかげで――ここからは全力の風魔法を披露できる。


 ――現役時代はろくな戦果をあげられなかったが、教官になってから少しずつみんなに手伝ってもらいながらやったリハビリの成果は見せるか。


「オークども……切り刻まれる覚悟はできたか?」


 俺を除けば、周囲にいるのはオークと召喚魔獣だけ。

 これで思う存分、力を発揮できる。


「いくぞ!」


 魔力の質を上げ、全身にまとう風の刃がその範囲を一気に広げる。

 結果、周囲にいたオークや召喚獣は一瞬にして強風に巻き込まれて上空へと舞い上がり、そのままズタズタに引き裂かれて地面に激突。


「とりあえず、こんなところか」


 村の中にモンスターの気配はもうない。

 念のため、周辺を探知魔法で調べてみたが――異常なし。


 あとは状況を把握するため外へ出てきた村人たちに事情を説明しないとな。

 まずは村長と話をしないと。

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