第20話 異様なゴブリン
俺たちの前に姿を現したゴブリン。
ケビン、アレックス、ジェイソンの三人は剣を構えて戦闘に備えているが……問題はゴブリンの全身から漂う魔力だ。
おかしい。
先日のリザードマンもそうだが、本来モンスターは魔法を使えるだけの魔力を有してはいないはず。
これまで俺が見てきたゴブリンも単体では力も頭脳も大きく劣るため、武器を手に集団戦法を用いる戦い方をしてきた。
しかし、あのゴブリンは単体。
いや、探せば近くに潜んでいる可能性もあるが……それにしたって珍しい。昨日の件もあるし、ここは彼らにだけ任せておくのは危険か。
「ルネ、俺たちも加勢するぞ」
「……やはりそうした方がよさそうですね」
どうやらルネも薄々勘づいていたようだな。
「みんな、ここは共闘だ」
「えっ?」
「な、なぜです?」
「非力なゴブリンくらい、俺たちだけでも倒せますよ」
「残念ながら、ヤツは俺たちの知っているゴブリンでは――っ!?」
俺は咄嗟に駆け出し、三人の前に出て防御魔法を展開する。
魔力によって生み出された大きな円形のシールドを前方に構え、敵の攻撃を防いだ。
敵の攻撃――もちろんそれはゴブリンによるもの。
だが、ヤツはそれまでいた場所から一歩も動いておらず、こちらに向けて手をかざしているだけだった。
……間違いない。
さっき俺が防いだのはあのゴブリンが放った炎魔法だ。
「なんてことだ……昨日のリザードマンに続いて、今度はゴブリンが魔法を使うなんて」
おまけにこいつの場合は攻撃魔法だ。
昨日のリザードマンは結界を打ち破ってくるだけだったが、こいつは攻撃手段として魔法を用いている。
そんなモンスターなんて、大国エルダインの騎士や魔法使いだって相手にしたことはないはず。俺だって初めて見るんだからな。
件のゴブリンは立て続けに炎魔法を使って攻撃を仕掛けようとしてきたため、俺はすぐさま風魔法で応戦。目に見えない鋭い風の刃がゴブリンの細い首を跳ね飛ばした。
「うおっ!?」
「い、一瞬で!?」
「凄い……」
若手騎士三人組は何が起きたのか把握しきれていなかったようだが、同じ魔法使いであるルネは状況をしっかり理解しており、俺に向かって拍手を送っている。
とりあえずこれにて一件落着――と、いう考えは甘かったようだ。
ここへ来てゴブリンがその特徴を発揮したのである。
「やはり……仲間が潜んでいたか」
わらわらとあちこちから姿を見せるゴブリン。
一体どこに潜んでいたのか、次から次へと底なしのごとく湧き出てくる。
その数は軽く見積もっても百体はいるぞ。
「グラント教官……どうします?」
「あまり時間をかけてもいられない。――広域魔法で一掃する」
「了解。森の中なので、召喚魔法でアレを呼び出します」
「なるほど。いい選択だ」
ルネとはもう何度も一緒に戦っている。
それこそ、養成所に入る前からいろいろと指導していたからな。
なので、彼女がこの場面で召喚魔法を使い、何を呼び出そうとしているのか手に取るように分かる。
ゴブリンたちは一斉に俺たちへと飛びかかってくるが、彼らの魔の手が直接こちらへ届くことはなかった。
「薄汚いゴブリンども――消え失せなさい」
冷たくルネが言い放つと、巨大な植物の根が地面を突き破ってゴブリンたちへと絡みつく。そしてそのまま地中へと引きずり込んでいった。
「な、なんだ!?」
「地下に新手!?」
「ど、どうしましょう、グラント教官!」
「落ち着け。あれは味方だよ。ルネが契約している肉食の植物型使い魔さ」
魔法使いはルネのように使い魔と契約をしているケースが多い。
俺も数体の使い魔と契約を結んでおり、召喚魔法でいつでも呼び出せるようになってはいるが、ルネのようにバリバリの戦闘タイプは少ないんだよな。
今後、あのゴブリンのように魔法を使うようなモンスターが頻繁に現れるようなら対策として数を増やしておくのもいいだろう。
そうこうしているうちにゴブリンたちは全滅。
ルネからお礼の言葉を贈られた使い魔は満足そうに去っていった。
思わぬトラブルで急遽中断となってしまった鍛錬だが……この短期間のうちに魔法を使えるモンスターが二度も出現するとは。
どうやら何かよからぬ事態が起きようとしているらしい。
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