第15話【幕間】疑惑
グラントが新しい使命に燃えていた頃――エルダイン王国では多くの貴族や王家の人間が集まる王国議会が開かれていた。
年に数回行われる王国議会だが、それらはすべて事前に日程が決められており、定型化しているのだが、今回は緊急開催ということもあり、いつも以上に緊迫した空気が流れている。
「テイラー・ウォルバート、前へ」
「は、はい」
議長に促されて会場中央にある証言台へ呼ばれたのは魔剣養成所の責任者であるテイラーであった。
「貴殿がこの場へと導かれた理由については事前に通達済みなのだが……分かりますな?」
「も、もちろんでございます」
へつらうように笑ってみせるテイラーだが、内心は腸が煮えくりかえるほどの怒りで満ちていた。
すべてはグラントが持ちかけた不正を断ったところから始まっている。
あの場でヤツが大人しく首を縦に振って息子ジャレスの成績を改竄していればこんな大事にはならなかったのに――と、自身が不正をしているという件については一切悪びれることもなく、何もかもグラントに擦りつけていた。
テイラーにとっての大きな誤算は、国が注目する次代のヒロインことルネが想定以上にグラントを信頼していた点だろう。
何事もなく残り数ヵ月と迫った退所式を迎えて魔法兵団へと入っていたら、それからは適当に勤め、ある程度の年齢になったら名のある貴族の妻になればいい。それだけで将来安泰の勝ち組となるのだから。
テイラーはルネがこの常勝街道から外れるなど絶対にあり得ないと踏んでいた――が、実際はそれをあっさりと捨て去ってグラントのもとへと走ったのだ。
想定外の事態はまだ続く。
それはグラントへの魔法兵団や騎士団の評価であった。
所長であるテイラーや一部貴族たちの間ではただのステータス化が進んでいるが、中には国の防衛を任されているという使命感に燃える者も少なからずいた。
その大半はグラントに鍛えられた者。
彼らは以前から養成所の在り方に疑問を抱いていたが、今回の不自然な恩師の退所騒動がきっかけとなって独自の調査を始めていたのだ。
そんなことなど微塵も知らなかったテイラーは、まさかグラント追放がここまで反発を呼ぶ事態になるとはと焦り始めている。
「では、通達した内容に関して納得のいく説明をいただきたい」
「わ、分かりました」
額から流れ出る汗をハンカチで拭きながら、用意してきた回答を語っていくテイラー。
しかし、このような舞台などまったく想定していなかったため、回答は整合性のない穴だらけのものとなり、議会場のあちこちから矛盾などを指摘する声があがった。
結果として、王国議会はウォルバート家のやり方に対して不信感を募らせるものとなった。
「おのれ……これもすべてはグラントのせいだ……」
日に日に強まるグラントへの怒り。
それはやがて国を揺るがす大きな事件へとつながっていくのだった。
※明日は7時、12時、18時に投稿予定!
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