第13話 人生の分岐点
馬車は城へとたどり着き、俺たちは王の間へと案内される――と、思いきや、たどり着いた場所はまったく別の場所であった。
そこはなんと王の寝室であった。
なぜそこへ連れてこられたのか。
その理由はすぐに分かった。
「おぉ、君が王都を救ってくれた者か」
大きなベッドで横になっているのがアルテノア国王のようだが……どうも体調がすぐれないらしく、すぐ横にはイリアム様と白衣をまとった医者と思われる男性が立っており、周りを囲むように従者たちも非常時に備えて待機している。
「こんな格好ですまないな。少し前からちょっと体調を崩していてね」
「い、いえ、とんでもない」
「君にはつい先日娘を救ってもらったばかりだというのに、今日は民まで……一度会ってきちんと礼を言いたいと思っていたのだよ」
病気で心身が弱っているとはいえ国王陛下という割には腰が低いというか、あまり偉ぶった態度ではないのでちょっと驚いたな。
少なくともエルダインの国王とはまるで違うタイプだ。
挨拶を終えると、ザネス騎士団長が町の被害など詳細な情報を国王陛下へと伝える。
もちろんその中には俺とルネとヴァネッサの戦いぶりも含まれていた。
「我が国に君のような若い実力者が出てきてくれたか。直接この目でその勇姿を見られなかったのは残念だが、このたびの活躍は見事であった」
「あ、ありがとうございます!」
ヴァネッサは声をかけられたことで背筋がピンと伸び、声も裏返りまくっていた。
彼女くらいの年頃の女の子が自分の住んでいる国の王様にそう言われたらそりゃあ緊張するよな。
続いて、国王陛下は俺とルネへと視線を移す。
他国からやってきたこちら側の素性について話すと、ザネス騎士団長と同様に俺の元職場に関心を持たれたようだ。
「ほぉ、君は元魔剣養成所の教官なのか」
「えぇ……とはいっても、今は気ままな旅人ですが」
「ふむ。ではここで若い騎士たちを指導してはもらえないか?」
「わ、私が、ですか?」
ついさっきザネス騎士団長からも誘われたばかりだというのに、まさか国王陛下から直々に依頼を受けるとは。
だが、これは単なる思いつきというわけではないようだ。
「実は昨日、娘から君のことを聞いていてね。これも何かの縁だと私は考えているのだが……どうだろうか。もちろん、断ってくれても構わない。急な話だったからな」
「陛下……」
俺の中で心が大きく揺らいでいた。
人生における第三の分岐点。
それを目の前にした俺の決断は――
「喜んで受けさせていただきます」
このアルテノアで再び魔剣教官となる。
そう心に決めたのだった。
何よりの決め手は「必要とされている」ということだった。
国王陛下だけでなく、イリアム様やザネス騎士団長も喜んでくれているし、そんな光景を目の当たりにしたらこっちまで嬉しくなってしまう。
もちろん、そこにはルネも加わる。
この国には魔法兵団がいないらしいので、彼女が史上初の王国公認魔法使いであり、初代魔法兵団長へと就任する――って、いきなり肩書きが増えすぎだろうに。
荷が重いかなと心配をしていたが、本人は「グラント教官ともども頑張ってまいります」と高らかに宣言した後、ヴァネッサと手を取り合って喜んでいた。
こうして、俺の人生は今大きく動き出そうとしている。
どこまでやれるかは分からないが、とにかく悔いのないよう一生懸命務めるとしよう。
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