第12話 依頼

 リザードマンの急襲から姫様を守り、次の日には王都へと集まったその仲間たちもすべて撃破した。


 お礼も兼ねて、ザネス騎士団長は俺とルネ、そしてヴァネッサの三人を城へと招待してくれるという。

 移動中の馬車の中では俺の前職場についての話題が中心となった。


「養成所ではどちらの担当を?」

「俺は剣術も魔法も両方教えていましたよ」

「グラント教官はその的確な指導力で多くの優秀な魔法使いや騎士を育ててきた名教官なのです!」


 俺以上に熱量を持って語るルネ。

 というか、その説明はさっきやっただろうに。


 ……確かに俺が指導した者から多くの幹部クラスが育ってはいるが、それについては彼らがもとから持っていた素質が素晴らしかったという点もあるし、みんなしっかり努力を積み重ねていた。

なので、俺だけの功績というわけじゃない。


 ――という追加情報を加えるが、ザネス騎士団長は「謙遜を」と笑った後でこう語った。


「君を慕ってあれだけの実力を持ったルネ嬢は養成所から飛び出してここまで追ってきてくれたのだ。この事実だけで君が教官としてどれだけ優秀だったかが分かる」

「そう言われると嬉しいですが、少し照れますね」


 そういえば、エルダインにいた頃はこんな風に真っ直ぐ褒められたことってなかったかもしれない。


「しかし、それほどの指導力を持った人物が実力を発揮できずにいるというのは少々歯がゆいな」

「そうなんですよ……私としては以前のように迷える若者を導いてくれる存在であってほしいと思うのですが……」

「ならここで教官をするのは?」

「「っ!?」」


 ボソッとヴァネッサが呟いた瞬間、さっきまで喋っていたふたりがまったく同じタイミングで「その手があったか!」みたいな表情になった。


「どうだろうか、グラントくん! ここで若者たちを鍛えてくれないか!」

「えっ? い、いや、俺は……」


 正直、まだ何をするかまったく決めていなかったので急にそう言われても返答に困るというのが本音だ。


「あ、ああ、すまない。興奮してつい先走ってしまったが……ただ、さっきの言葉に偽りはない。真剣に考えてはくれないか?」

「……分かりました」


 さすがに暴走しすぎたかと声の勢いを下げてそう語ったザネス騎士団長。

まあ、教官になるかどうかはさておいて、この国自体はとてもいいところだと思うし、気に入っている。


ザネス騎士団長の言葉を聞いたからというわけじゃないが、本当にここでのんびり暮らせたらなぁとはぼんやりと思っていた。


 アルテノアでの教官生活、か。


 ちょっと真面目に考えてみるか。

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