第11話【幕間】元同僚との接触

 ルネがグラントと合流する数週間前――彼女がエルダインを出ると決意した日。


 すぐに追いかけようと養成所を飛び出したルネだったが、さすがにあの親子をこのままのさばらせておくのはよくないと判断し、とある場所へと向かっていた。


 それはグラントの教え子であり、現在も魔法兵団に所属する若手女性魔法使いモニカ・フェンダーソンが自主鍛錬をしている鍛錬場。まだ養成所に入る前はよくここでグラントやモニカに魔法習得の稽古をつけてもらっていたのだ。


 モニカは先日北方遠征から戻って来たばかりで休暇中だと教わっていたルネだが、グラント曰く「三度の飯より鍛錬が好き」という彼女の性格を考えればジッとはしていられずここへ顔を出すだろうと予測しており――それは見事に的中した。


「お久しぶりです、モニカさん」

「えっ? ルネ? あなた養成所はどうしたの?」


 近くにあった大きめの岩に腰を下ろし、タオルで汗を拭いていたモニカは突然現れたルネに驚きつつも真面目な彼女が養成所の鍛錬を抜け出して自分へ会いに来たという行動の裏に隠された事態の重さをすぐに察知する。


「……何かあったのね?」

「話せば長くなるのですが、養成所をやめてきました」

「なるほ――はあっ!?」


 予想の遥か斜め上を突っ切るルネの言葉に思わず声を荒げるモニカ。

 そんな彼女を尻目に、ルネは淡々と語っていく。


「ウォルバート所長はグラント教官に不正を持ちかけましたが、これを断ったために養成所を追い出されてしまいました。私はこれから教官のあとを追いかけようと思います」

「ちょっと待って! 情報量が多すぎる!」


 不正だの追い出されるだの、穏やかなじゃない単語が飛び交ったためすぐには冷静に対処できなかったモニカだが、深呼吸を挟んで落ち着きを取り戻してからようやくすべてを把握できた。


「養成所の不正問題……あなたはそれがどんなものか詳しい内容を知っている?」

「所長の息子――失礼しました。訂正します。クソバカ息子の入団試験結果を改竄するように迫ったようです」

「……よほど頭に来ているようね」


 いつもはあまり感情を表に出さないため、何を考えているのか掴みどころのないルネなのだが、今回はかなり怒っているというのが容易に伝わってくる。


 一方、モニカとしてもかつて所属していた養成所の不正を聞かされては黙っていらない。

 そもそも、彼女はこの案件に対して思うところがあったのだ。


「この件については魔法兵団をあげて調査させてもらうわ」

「魔法兵団が?」

「まあ、黒い裏側を見た後だと信用はできないかもしれないけど……魔法兵団の中にはあなたの言うクソバカ息子みたいなヤツを許せない人がいるのよ」

「モニカさん……」


 ルネはモニカに相談してよかったと心から安堵する――と、そう思った矢先、彼女の表情は一変した。


「問題はグラントさんよ……なんでひと言も相談しないまま出ていくようなマネを……」

「えっ?」

「確かにあの人に教えてもらっていた頃の私は頼りなかったかもしれないけど、魔法兵団に入ってからも鍛錬を積んで分団長就任の最年少記録を更新したし、着々と戦果をあげていったっていうのにいつまでも子ども扱いで――」

「あの、モニカさん?」

「――っ! ご、ごめんなさい……取り乱したわ」


 誤魔化すようにファサっと髪をかき上げながら語るモニカ。


「とにかく、こちらは私に任せて。……これを機に養成所や魔法兵団、騎士団に蔓延る闇を炙りだしてやろうって躍起になっているから安心して」

「は、はあ……」

「ほら、早くグラントさんのもとへ行きなさい」

「っ! わ、分かりました!」


 元気に駆け出したルネを見送ったモニカは、ゆっくりと岩から立ち上がる。


「さて、あっちは若い子に任せて……この件はすぐにあの方へ報告しないと」


 静かにそう呟くと、ルネとは逆の方向へと歩きだすのだった。

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