第10話 不甲斐ない騎士たち

 なんとかリザードマンを退けることができたが……この国の防衛については大きな課題が露呈した格好となった。


 これまで争いとは無縁の小国だったし、例の不戦条約が結ばれてからは争いらしい争いのない平和な時代だったから無理ないのかもしれないが、今回のような不測の事態における防衛という観点からすると不安の残る結果となってしまったな。


 さすがに不甲斐ないと感じたのか、事件解決後には騎士団のトップが俺たちのもとへとやってきた。


「私はアルテノア騎士団で団長を務めるザネスという者だが……君たちがあのリザードマンを討伐してくれたと報告を受けた。感謝する」

「いえ、俺たちは当然のことをしたまでですよ」

「目の前で襲われている人を放っては置けませんからね」

「私も同じ理由です!」

「はっはっはっ、実に頼もしいな。……それに引き換え我が騎士団は実力不足を痛感したよ」


 そう語ったザネス騎士団長の視線は怪我の治療を受けている部下たちの方へと向けられる。

 

 あの様子だと、「部下たちが不甲斐ない!」というより、「自分の指導力が足らなかった」と責任を感じているようだ。


 ……正直、大国であるエルダインの騎士団や魔法兵団でさえ、近年はただの肩書き用組織と化している感が否めない。


 今回と同じようなトラブルが発生した時、ちゃんと対応できるかどうか……まだ実戦経験のあるベテランも多いからアルテノアと同じように慌てふためくほどではないのだろうが、あまり変わらないのかもな。


「今回の事件を反省材料にし、騎士団の在り方を一から見つめ直す必要がありそうだ」


 決意を口にすると、ザネス騎士団長の視線が俺とルネに向けられる。


「宿屋のヴァネッサは知っているが……君たちふたりは旅の者かね?」

「えぇ。エルダインから来ました。この子は先ほど合流したばかりですが、私の――」

「グラント教官の一番弟子でルネ・グレイブルと言います」


 会話途中で自己紹介を始めたルネ。

 特に一番弟子ってところを強調しているが、とりあえず弟子ではなく元生徒であることを告げると、ザネス騎士団長の顔色が変わった。


「ほぉ……あの大国エルダインの魔剣養成所で指導役を――ああ、もしかして昨日姫様を助けてくれたというのは君だったか」

「えぇ。ただ、今はそこを追い出されて放浪の身ですが」

「追い出された? 一体何をしたんだ?」

「教官は何もしていません。これまで多くの優秀な魔法使いや騎士をたくさん育ててきた立派な教官です。ただ不正に加担するよう強要され、それを突っぱねたから報復を受けただけです」

「ル、ルネ? どうしてそんなことを……」

「あのバカ息子が得意げに白状しましたから」


 バカ息子ってジャレスのことか?

 ……まあ、あいつならそういう行動を取ってもなんら不思議じゃないな。

 俺が学園を去る時もいろいろと言われたものだ。

 

 一方、俺が追放された理由を知ったザネス騎士団長は複雑な表情を浮かべていた。


「なるほど……大国にはさまざまなしがらみがあると聞いたが、君のような正義感ある有能な人材でさえその被害に遭うのか」

「いや、有能かどうかは分かりませんけど」

「グラント教官が有能じゃなかったら、養成所の教官たちは全員とんでもない無能ということに――いえ、保身のためにバカ息子の言いなりとなったあの人たちは無能と呼ぶに相応しいかもしれませんね」


 容赦がないなぁ。


「はっはっはっ! 清々しいほど真っ直ぐな子だな、君は」


 どうやらザネス騎士団長はルネを気に入ったらしい。

 豪快そうに見える彼とは確かに気が合うかもな。


 その後、今回の件の報告と礼も兼ねて城へと招待されることとなった。

 もともとここを出る前に立ち寄ろうとしていたからちょうどいい。


 ――と、その前に。


「ルネ、学園にはきちんとこちらへ来ると報告してきたのか?」

「その点はご心配には及びません。あの人へ伝えてきましたから」

「あの人? ……ああ、彼女か」


 たぶん、この場面でルネが頼る者といえばひとりしかいない。

 そしてきっと、彼女ならうまく立ち回っているはずだ。

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