第8話 緊急事態

 辺境の小国――アルテノア王国の王都に現れた十体のリザードマン。


 本来であれば結界魔法の影響で侵入できないはずなのだが、ヤツらはそれをまったく意に介さず堂々と門を突き破ってきた。


 最初にあの群れを目撃した男性によれば、なんとあのリザードマンたちは魔法を使えるらしい。

 人間のように属性魔法をバンバン使ってくるというわけではないようだが、それでも結界を突破してくるくらいには魔力を扱えるようになっている。


 大国であれば緊急事態に備えて二重三重に防衛網を敷いているはずだから、この程度で動じることない――が、このアルテノアではそうも言っていられないようだ。


 人間を標的とし、散っていくリザードマン。


 このままではとんでもない被害が出てしまうと察知した俺は、すぐに攻撃魔法を使用する。


 幸い、昨日うまくいったのはまぐれでなかったようで、魔力は安定していた。

 ためらっている時間はない。

 すぐにでも迎撃しなくては。

 

雷槍サンダー・スピア!」


 こちらへ向かって走ってくるリザードマンに対し、昨日と同じ魔法で対抗。

 雷の槍は全身を貫き、一瞬にして行動不能にまで追いやった。


 魔法を使えるようになっているらしいが、耐久力という面に関しては通常種と変わらないようだ。


「よし! 次だ!」


 一体倒したからといって安堵はできない。


 敵は残り九体。

 すぐに王都の警備兵が対応するのだろうが、昨日の護衛騎士の様子を見る限り、戦力としては期待薄だ。


 実力はあるのかもしれないけど、とにかく実戦不足感が否めない。


 こういった非常事態に対して、普段からどこまで意識しているのか……王都などの大都市に比べて不足しているのが透けて見えるな。


 とにかく、防げるうちに防いでおかなくては。


 そう思った直後、目の前で若い女性がリザードマンに襲われかけている。

 すぐに助けに向かおうとするも、今度はその反対側から助けを求める男性の声が。


「くそっ!」


 俺ひとりでは対応にも限界がある。

 だが、迷う時間が長いほど助けられる可能性は減っていくのだ。


 ――と、この絶望的な状況を切り裂くように、聞き覚えのある雄叫びが轟いた。


「やああああああああああっ!」


 その声の主がヴァネッサだと気づいた直後、女性を襲っていたリザードマンの首が跳ね飛んだ。


 なんと、彼女はさっきまでの模造剣ではなく、本物の剣を手にしてリザードマンに襲いかかり女性を助けたのだ。


 それを見た俺はすぐに男性側へと走り、彼を襲っていたリザードマンを魔法で撃破。

 

「ヴァネッサ!」

「グラントさん!」


 互いの存在に気づき、これから町の人たちを守るために戦うぞと声をかけようとした――直後、彼女の背後に黒い影が。


「危ない! 後ろだ!」


 慌てて叫ぶも、すでに背後へと回っていたリザードマンは鋭い爪でヴァネッサを攻撃しようとしていた。


 ――しかし、その攻撃が彼女に届くことはなかった。


 次の瞬間、なんとリザードマンは一瞬にして凍りついてしまったのだ。


「なっ!?」


 あまりにも一瞬の出来事だったので、思わず叫んでしまった。


 なんて強力な氷魔法だ。

 あれほどの威力を出せる魔法使いはそうそういないぞ。


 俺が知る限りだとルネくらいか。


「ま、まさか……」


 可能性としては十分あり得るのだが、本来なら彼女はまだエルダインの養成所にいるはず。

 しかし、凍りついたリザードマンを蹴り飛ばして現れた少女はどう見ても……


「捜しましたよ、グラント教官!」


 やっぱりルネだった。

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