第9話 天津姫
藤野瀬教官は姿勢を正したアキラから視線を外すと説明を始める。
「まず選考会は2週間後に行う」
2週間後。
序列戦が6月頭だとすると結構なハードスケジュールだ。
そう考えたのはアキラだけではなかったようだ。
クラスも若干のざわめきで包まれる。
「あー質問は後で聞くから今は待て」
教官は面倒くさそうに手に持った冊子を見ながら説明を続ける。
「ルールは時間制限60分、4人1組5チームでの
チーム戦か。
入学して間もないこの時期のチーム戦は予想外だ。
しかもToDルールとなるとメンバー選びも重要になる。
一定範囲内での遭遇戦、そこに一定時間ごとに出現する
このルールの特性上3大魔導競技、
1人で勝てるルール設計にはなっていないのだ。
ただ一人だけ、この学年にそれが出来そうなのが居るが、まあ……いいか。
アキラの場合はまずチームメンバー探しからになりそうだ。
クラスメイトとは打ち解けてきてはいるが、そもそも組めるような人探しからになるか。
「次は序列戦の説明だ。選考会での個人成績で12人づつの個人戦トーナメントを行う。これは1位から12位までをAグループ、13位から24位までをBグループという具合に別ける。要するに選考会段階でAグループに入れたら上位12位は確定ということだ」
素晴らしい、最高だ。
勝てば勝つ程戦う機会が増えるということにアキラはこの学園に入って良かったと改めて実感する。
「何か質問はあるか?」
藤野瀬教官は冊子から顔を上げクラスを見渡す。
クラスメイトは内容を反芻しているのか隣の人とコソコソと会話をしたりしている。
そんな中一人の生徒が手を上げる。
「教官よろしいでしょうか?」
ライカだ。
流石に委員長らしく質問の先陣を切る。
「いいぞ、桐坂」
「ありがとうございます。まずはポイントについてなのですが、本戦のグループ分けは個人成績ということは選考会でのToDのポイントはチームでは無く個人に入るということで良いですか?」
ライカが質問したのはアキラも気になっていた点だった。
「ふむ、まず選考会でのポイント配分についてだな。他チームのメンバーを戦闘不能にした場合は戦闘不能に直接的な攻撃を行った者に2ポイントそしてチームメンバーに各1ポイント、戦闘不能になった場合はその時点で保有しているポイントから2ポイントが引かれる」
教官は冊子のポイントについて書かれているであろう箇所を見ながら答えると「ここまではいいか?」と確認をする。
この教官事前に確認してないな、とアキラは少し呆れながらも説明に耳を傾ける。
「はい」
「よし、で宝のポイント、出現する時間、個数については当日発表することになっている。そして最後は生存ポイントだ。生存点は60分終了時に戦闘不能になっていないチームメンバーの人数分が各々に配られる。全員生存でチーム全員が5ポイント貰えるってことだな……選考会のポイントについてはこんなもんか?」
「ありがとうございます」
これは意地の悪い者が考えたルールだなとアキラは思う。
完全に個人成績で順位が出ると明言されている以上、戦闘不能でのポイントが大きいのは言うまでもないだろう。
チームメンバーとの連携も重要になるルールでこれは明らかに学園側の考えがあるのだろう。
「他に質問のある者は?」
アキラは教室を見渡すが
「はーい。教官2つ質問があるのですが」
「……八咫か。いいぞ」
明らかにいいぞって感じではないが気にせず質問する。
「ありがとうございます。まず1つ目、個人成績のポイントが同数の場合はどうなるんですか?」
「その場合は学園側が貢献度などによって順位を付ける。基本同順位はないと思ってくれ」
そうでもしないとトーナメントが組めないから仕方ない。
同率で12位とかになった時には一悶着置きそうではあるが学園側の決定に逆らえる者は少ないだろう。
「なるほど、ありがとうございます。じゃあ2つ目」
2つ目これが、これこそがアキラにとって最も重要な事項だ。
生徒会長、獅子堂司にも言われた上位の者に序列戦を挑むことが出来る条件の一つ。
「序列上位になった場合、全体序列の上位陣に挑戦が出来ると聞いたのですが?」
「ちょっアキラ君!」
驚いた声を出したのはライカだ。
それ以外のクラスメイトもアキラを凝視するがアキラは真っ直ぐに藤野瀬教官を見つめる。
「誰から聞いた」
「生徒会長から」
数秒間見つめあっただろうか、
教官が観念したように溜息をつき「あいつ……」と呟く。
「本来このことは当日に発表されるものだが、まあどこかしらで耳にするとは思うが今アキラが質問した内容は事実だ。学年序列3位以上の者は全体序列で10位の者に挑戦する権利が与えられる」
きた! これを待っていたんだ。
序列10位への挑戦権。アキラの目的への近道。
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ、じゃあ質問ももうなさそうだな。朝礼は終わりだ訓練に遅れないようにしろよ」
藤野瀬教官はクラスを見渡し質問がないのを確認すると教室から出ていこうとするところで「あ、そうだ」と立ち止まる。
「すまん。チーム編成について言い忘れてた。4人1組とは言ったが必ず2クラス以上の混成じゃないと駄目だからな」
教官は「それだけ言い忘れてたわ」と手ですまんとジェスチャーをすると今度こそ教室を出ていく。
一瞬教室は静まり返る。
「「「「「えええええええーーーーーーーーーーーー」」」」」
あの教官最後に爆弾置いていきやがった。
クラス内でのチームならアキラでもなんとかなったかも知れないというのに。さらにチームメンバー探しに苦労しそうだ。
「あっそうか。4人チームで一クラス30人だから2人余る。考えれば最初からわかる話か」
そう考えが至ると意外と冷静になれた。
アキラは気持ちを落ち着かせるため脱力し机にもたれかかっていると頭上から声を掛けられる。
「いやーチーム戦か。大変なことになったね」
「全然そう思っているようには見えないけどな」
ハジメは何時もと同じ笑みを浮かべている。
「あーチームどうするかなー」
アキラは頭を抱えながら唸り声を上げる。
「え? 俺と組むんじゃないの?」
「いいの!?」
ハジメの言葉にアキラは身体を勢いよく起こすと食い気味に返す。
「当たり前だろ」
「ありがとうハジメ」
アキラが心の底から礼を言うと「いいって。さ、移動しようか」と席を立つ。
教室を見てみるといつもより人の減りが早い気がする。移動があるにしてももう少し残っているのだが現在はクラスの4分の1程の人数しか残っていない。
「皆移動が速いねー」
アキラとハジメは演習塔へ移動しながら話を続ける。
「たぶん、みんなさっきのアキラと同じ感じになってたんだと思うよ」
さっきの感じというと……
「チームメンバー?」
「そうだよ。他クラスとも組まないといけないからね。早めに声をかけておこうって算段だろうね。ほら……」
移動の最中、一つの教室の前に人だかりが出来ている。
あれはAクラスか?
「チームメンバーが強ければ勝ち残れる確率はあがるからね。停学も明けて今日から登校してるみたいだからさ」
ハジメが「餌に集まる魚みたいだね、あれじゃ」とどこか冷めた目で集まる人を見ている。
なるほどね。あいつAクラスだったのか。
アキラの視線の先、人だかりの奥から立ち昇り漏れ出る魔素の色は赤紫。
相変わらず感情が色に表れやすいようだ。
入学式当日に決闘騒ぎを起こしアキラが停学処分を受ける原因となった少女。
岩戸家長女にして世間、3年前の特級外敵ジャバウォックを撃退し次世代の英雄として
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます