第5話 戦闘狂が哂う時

 桐坂の叫びにも似た主張が演習場に響き渡る。

 

 欠陥保有者か。

 久しぶりに聞いたな。

 幼い頃には毎日の様に言われていたが今では言う人もいないため、アキラ自身気にすることも減っていた。


 そして桐坂の発言に一番驚いているのは、周囲で聞いていたクラスメイトである。

 

 欠陥保有者。

 文字にするとわかりやすいが、人に対して欠陥と呼称する行為は現代においては炎上必死の爆弾発言である。そも欠陥保有者という単語自体、一世紀前の大戦時に徴兵対象外を比喩する際に言われていたため殆ど死語と化している面もある。


「桐坂その発言は見過ごせないぞ。最悪処分もありえる」


「構いません。これは、これだけは私が言わなけばいけないんです。外敵との戦闘ではチームを組んで戦います。そんな時に欠陥があるものに背中は預けれません」


 現場では一人から五人を一個分隊として行動する。

 これは防衛隊予備群である学園でも同様。いずれチームを組むことになる。桐坂はアキラと言う不穏分子によって生じる不安要素を懸念しているようである。

 

 しかしなかなか、頑固というか。教官に対してここまでの態度を取れること自体凄いことだとアキラは舌を巻く。


「お前の主張は魔素放出量の足りない者は足手纏いであり、共に戦場に立つには不安だという事だな」


「そういうことです」

 

 この問答は桐坂が折れない限り平行線である。藤野瀬教官は桐坂の眼が真っ直ぐと強い信念の元、開かれているのを見てこれは折れないと感じたのだろう「はあ」とため息を吐く。


「魔素についての授業の最後にしっかりと言い含めたはずなんだがな」


 教官困ってるなーとアキラは当事者ではあるもののどこか他人事のように事の顛末を眺めている中で、ふと思いついた。


 この状況はある意味チャンスじゃないか?

 委員長はアキラの素行と欠陥保有者であることを問題視しているわけだ。


 要するにこの学園に相応しくないのではないか。


 この帝国の防衛に従事する者として一緒に戦場に立つことが出来るか。


 アキラに必要なのは――証明だ。

 戦えると。この学園に入学が許された生徒だという証明を。


 ではどうする?


 対話だ。

 アキラボクの力を示すための対話決闘をしよう。


「教官」


 アキラは委員長をどうやって委員長を諫めるか若干困っている様子の藤野瀬教官に対して声をかけ、その顔を真っ直ぐに見つめる。


「八咫?お前まさか……」


 ただ声をかけただけのアキラの表情から教官は察したのだろう。

 

「はあ仕方ないか……桐坂、戦闘訓練の相手は八咫だ」


「教官っ!本当によろしいのですか!私は手加減などしませんよ」

 

 桐坂は教官の提案に正気かとでも言いたそうに反応する。しかし藤野瀬教官はその発言を手で制しながらアキラにも声を掛けてくる。


「八咫もそれでいいな」


 アキラは教官からの提案に頷き口元が緩みそうになるのを我慢しながら前に出る。このままでは授業が始まらないのは明白で結局、終着点として自身が使われることは目に見えていた。

 

 であれば賭けるモノのある真剣勝負をしたい。


 この展開はアキラが求めて作り出した流れだ。


「構いませんよ。その方がわかりやすいでしょう」


「っ!あなたね。まあいいわ。怪我はするかもしれないけれど、覚悟はしていなさい」

 

 まるで自分の方が強いというアキラの物言いに桐坂は詰め寄ろうとするが、自制が効いたのかそのまま演習場中央へ向かっていった。


「では、二人は演習場中央へ。他の者は見学だ。桐坂と同様の意見の者もいるように見えたからな。見て学べ」

 

 アキラは武装を確認する様にグローブ型魔導器装に触れながら中央へ向かう。その表情はとても、先ほどまで糾弾の的にされ今から晒し物になる人間のものではなかった。

 

 生徒会長と戦えなかったのもあり、今のアキラはいつも以上に戦闘に飢えていた。

 久しぶりの戦闘だ。そう考えただけで口角が上がりそうになり、我慢する。

 だが体温は上昇し頬は若干、朱色に染まる。

 

 そんなアキラに少数のクラスメイトは緊迫した状況にも関わらず見とれていた。何もしなければ美少女なのである。


 桐坂は委員長と言う肩書を持つ以上、クラスの実力で言えば平均以上であると見るのが妥当だろう。同年代と競うという経験がほとんどないアキラはそういう点でも楽しみしていた。

 

 アキラと桐坂。二人が配置についたのを確認すると藤野瀬教官の声がスピーカーから聞こえる。


「では説明を始める。ステージはスタンダードAを使用。ルールは一対一でのタワーオブシージ。勝利条件は相手目標の破壊もしくは相手のマナシールドの全損とする。また訓練であるため致命傷となり得る攻撃が見られたらその場で失格とする。いいな」

「「はい」」

 

 二人が返事をするとステージ見晴らしの良い平野に切り替わり背後にフラッグが出現する。

 これが目標であり、防衛対象か。


『十秒後に戦闘訓練を開始します』

 

 機械音声のアナウンスと共にカウントが始まる。


「「マナシールド展開。魔導器装マギア起動アクティベート」」

 

 カウントが5を数えると同時にアキラと桐坂は魔導器装を起動する。

 正面からカウント開始での場合は、情報を限界まで与えないよう起動を遅らせるのは、対人戦での盤外戦術であり学園に来る人間であれば当然に行う作法のようなものだ。

 

 残りのカウントで両者互いに起動された魔導器装を視認する。

 桐坂は右手に獅子堂と同型の直剣型魔導器装を左手に同メーカー製の小盾という近接戦を想定したバランスの取れた武装をしている。


 対してアキラに目立った変化は見られない。それを見た桐坂は何か言いたげに顔を顰めるが、そこは帝国に三つしかない学園に入学許された者である。こと戦闘が始まろうとしている時に不用意な行動は取らない様だ。


 楽しみだ。

 この学園に入学が許されたエリートとの戦闘訓練。


 まさか初日からクラスメイトと戦えるとは考えていなかったこともありアキラの興奮は最高潮になっていた。


「委員長さんなりの主張があるみたいだけど、ボクは楽しむだけだから」


 緩まないように我慢していた口元も緩み、口角が弧を描く。


 アキラの顔には満面の笑みが咲いていた。

 

□■

Tips

魔導器装マギア

魔素マナを動力にする武装

魔導器装開発の原型となったのは神器と呼ばれる太古及び神代から存在する人智を凌駕する代物である。

魔導器装には性能を十分に発揮するための魔素放出推奨量という数値が設定されている。


魔導器装・直剣型Ⅰ式Ver.3.2

セントライア魔導機構が開発、販売をしている量産型魔導器装

基本的な直剣型で魔素伝導率、放出力はバランスが良く特殊機構も無いため汎用性に重きを置いた作りになっている。

魔素放出推奨量:3.0 魔素伝導率:B 特殊機構:―


汎用マナシールド

帝国魔装士協会推奨の基本マナシールド

魔素放出推奨量:1 魔素伝導率:― 特殊機構:―


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る