第4話 烙印
アキラはハジメに連れられ演習塔へと向かっていた。
訓練服に着替える更衣室ではクラスの男子から「ホントに男なんだ」とヒソヒソと話され居心地悪い中、着替え終えると「さっさと行かないと委員長に怒られる」とハジメに案内されていた。
「委員長は真面目だからさ、きっちりかっちり。防衛隊家系だから規則第一主義?みたいな。アキラは停学処分受けてるから、たぶん不穏因子扱いしてるんじゃないかと思うんだ」
認めない発言の理由は大体掴めてきた。
「悪い奴じゃないんだよ。ほらクラスメイトは言うこと聞くぐらいには信頼を得ているから」
これはハジメなりのフォローなのだろう。
「大丈夫だよ。気にしてないから。それにここは実力が全てなんでしょ」
「はは、先のことを考えると委員長が少し可哀そうになって来たな」
風魔一こいつは、入学式での騒動を聞いただけではなく全てを知っているのだとアキラは確信した。少なくともあの場にはそれ程多くの人はいなかった。教室からここまで、少し話した程度だが気の許せる良い奴ではあるが、どこまで信用してよいか決めあぐねていた。
そんなことを考えながら足を進めていると目的地、演習塔に着いていた。
「さ、ここが演習塔だ。塔と言っても演習場が幾つも入っているからそう呼ばれているみたいだけどな」
入り口で認証機器に端末を翳すと扉が開く。中に入り演習部屋の一つに1Dと書かれているのを見つける。
ハジメに「ここ?」と確認をすると「そうだよ」と先に入って行く。
アキラも続いて入ると演習場の中心にクラスメイトが集まっているのが見えた。
そしてクラスメイトの前には藤野瀬教官が立っている。
「来たか。遅刻ではないから良しとしよう。だが次からは時間に余裕を持って集まれ」
「「はい。すいません」」
二人は揃って謝罪する。
「では本日の訓練は対人戦だ」
教官がそう言うとクラスの3分の1程がざわつく。
「防衛隊に入った際には外敵との戦闘が主ではあるが外敵の中には人型も存在する。また他国からの防衛もまた防衛隊の職務である。よって対人戦闘はこの先避けようのないものであることをしっかりと頭に刻め」
防衛隊としての世間からの認識は外敵に対する組織といったものが強い。
そしてその認識は基本的に間違っていないが正解でもない。正しくは帝国を脅かす魔素を用いた敵からの防衛である。
人間相手にどれだけ覚悟を持って戦うことができるか。
これはこの学園に入ってきて最初に直面する精神的な課題であるとアキラはシズノ姉さんから聞いていた。そして「アキ君には関係ないだろうけど」と苦笑い付きで言われもした。
藤野瀬教官は「だが」と少し言い淀みながら続ける。
「……始める前に八咫の魔素放出量測定を行う」
教官が言い淀んだのは結果を知っているからだ。そして結果を知っていながらも測定を行うのは生徒への公表を目的としているからだろう。
今後のチームを組む上での戦力評価へ活かすことを目的としているだろうか。
気は進まないが仕方がない。アキラもこうなることは最初からわかっていた。
今日は人生で最初の測定に続く二番目に注目される日になりそうだ。
「この機器に手を翳して魔素を放出し十秒待て」
「わかりました」
アキラは藤野瀬教官に言われた通り壁際に備え付けられた機器の前に立ち手を翳す。そして身体の内にある血液とはまた違う力の流れに意識を向ける。
機器は数秒の点滅の後モニターに数字が浮き上がり、同時にクラスメイト達から驚きの声が聞こえてくる。
「2.1……」「これって……」「どうして魔装士科に入学できたんだ?」
モニターには『2.1』と表示されていた。
測定機器は放出量を一から十で表示することが可能であり、凡そ人類の平均値は4に設定されている。
「だよな……」
確か最後の測定が一月前だったよな。姉さんが気にするから。
「もういいですかね?」
「ああ、ご苦労だった。では」
「教官!」
アキラがもういいかと、踵を返し元の位置に戻り藤野瀬教官も訓練を進めようとした所に声を上げるものが一人。
先ほど教室でアキラに対して認めない発言をしてきた委員長と呼ばれていた少女が教官に食って掛かる。
「
委員長。桐坂という名前の様だが藤野瀬教官は少し面倒そうに聞き返す。
「彼、本当に魔装士科に合格したのですか?その魔素放出量ではとても、正規の試験で入学できるとは思えません」
学園の入学試験では筆記試験、魔素放出量測定試験が魔装士科、魔導工学科共に共通で行われそれぞれ、戦闘試験、課題提出試験が実施される。
「桐坂。それは我学園の不正を疑うという事か?」
「そ、それは彼の放出量はあまりにも低い……しかもあの八咫家出身で副会長の弟というのはあまりにも出来て過ぎています」
桐坂は藤野瀬教官の圧に押されながらも食い下がることなく言い切る。
確かに第三者視点、出来過ぎではある。アキラ自身八咫家というモノに特別な感情はないが、一応御三家から連なる一家ではあるのは間違いない。
アキラは自身のことであるにも関わらず他人事の様にそう考えながら。周りのクラスメイトを見渡すと、桐坂と同様の疑問を持っているのは一目でわかる。
桐坂は感情面で話している様にも見えるが、クラスの代表としての主張というのもあるのだろうか。
「なるほどな、桐坂、お前の言わんとすることは理解した。桐坂、最初の授業で魔素についてやったな。簡単で良い。説明してみろ」
「なっ……わかりました」
「何故」と桐坂は喰いつこうとするが、教官の鋭い視線を受けこれ以上はまずいと理解したのか説明を始める。
「魔素とは人類であれば当然に保有しているエネルギーです。また空気中や鉱石までありとあらゆる場所に存在します。そして、放出量とは一度に放出することの出来る限界値の事です」
「その通りだ。我々は魔素を用いて魔導器装を扱う」
「そうです。そうなんです。そして基本装備である汎用マナシールドは放出量1を必要とします。放出量2.1では半分。それでは他の魔導器装を扱うことが出来ない……つまり」
魔導器装にはそれぞれ、推奨放出量があり、自身の放出量に合わせて武装を選ぶ。
特段普通の生活だけで言えば何ら問題はない。しかし魔導器装によって戦闘を行う魔装士にとって、魔素放出量と言うのは必要な素養である。
即ちその素養を持ちえない者。こと戦闘という面で放出量3以下という数値は……
「欠陥保有者ではないですか!?」
――欠陥保有者
御三家に連なり護国を是とする家に生まれたアキラが最初に押された烙印である。
□■
Tips
【
存在する全てのモノに含まれる物質。
人体に生成する臓器や血管のようなモノは確認されていないが訓練により流れを感覚的に掴むことが可能。
魔素をエネルギーとして用いることが出来るようになったのは外敵が持つ核を発見したことが発端である。
魔素活用の具体例である【
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