第3話 拒絶と友人

 アキラは教室の自分の席で藤野瀬教官の朝礼を静かに聞いていた。

 教官から教室への道すがら聞いたのだが一学年はAからDクラスまであり一クラス三十人で構成されているらしい。

 

 Dクラスはアキラが入ることで三十人がやっと揃った形となる。周囲からは若干煙たがられている雰囲気もあるが、どちらかと言うとアキラに対する興味の視線が多いように感じる。

 

 席が窓際で良かった。

 停学処分を受けることになった入学式でのことは粗方広まってしまっているようだ。

 

 アキラは諦めて大人しくしておこう、といった具合にボケッと窓の外を眺めながら教官の話に耳を傾けていた所に急に名前を呼ばれる。


「八咫、こいつは入学式から2週間の停学処分を受けていたが本日よりDクラスの一員となる。簡単で良い自己紹介をしろ」


「……はい」

 

 転校生でもないのだから、恒例の自己紹介は回避できると思っていたがそうもいかないようだ。

 先ほどまでは一対一であったため藤野瀬教官も比較フレンドリーではあったが今は教官然としており、有無を言える状況ではない。


「八咫晶です。諸事情で今日からにはなってしまいましたが、よろしくお願いします」

 

 アキラはこんなモノだろうと無難な挨拶をして座る。周囲からは諸事情という謹慎だろ、という突っ込みは無いが視線が痛い。

 簡単な挨拶過ぎたのかクラスは若干騒然としている。

 クラスメイトの中には隣の者と囁き声で話しているものも少なくない。


「あの人だよね?例の」「八咫って」「てか、可愛くない?」「子犬みたーい」

 

 藤野瀬教官は騒ぎの原因に気付いたのか手を叩き注意を惹く。


「言っておくが八咫は男子だ」

 

 クラスの騒めきはスッと消え去り静寂が訪れる。


「……嘘だろ」

 

 誰かが零した驚愕の声が静まり返った教室に響く。

 

 アキラは自分の性別を疑う声にこの日一番の衝撃で固まってしまう。


「ということで、今日は戦闘演習だ。演習塔に集合しておけ。あと八咫は誰かに案内してもらえ。更衣室もな」

 

 静寂。

 誰一人言葉を放つことはない。

 藤野瀬教官は「はあ……」とため息をつくと教室を出て行く。扉がぴしゃりと締められるとアキラはクラスメイトに囲まれていた。

 

 入学式の件もあり、浮くこと間違いなしの状態を気に掛けてくれたのか教官のおかげで馴染めそうではある。ただしアキラの心に傷をつくるという代償もあった。

 教官の気遣いということで自分を納得させクラスメイトに向き直ると人だかりが出来ていた。


「ホントに男の子なの?」「入学式の日あの岩戸とやり合ったってマジ?」「リアルオトコの娘キタコレ」

 

 変な奴混じってないか?

 にしてもこの勢いは――


「ちょちょっと待って……」


「皆それぐらいにしときなさい」


 アキラがクラスメイトから一斉に話しかけられ目を回していると、一つの声がそれらを止めた。


「そんなに一気に話しかけても答えられるわけないでしょ。あと移動なんだから、質問は後からにしなさい」

 

 眼鏡を掛けたおさげが特徴のわかりやすく委員長といった風貌の少女。

 そんな少女の制止にクラスメイトは「はーい」と引き上げていく。

 

 アキラの居ぬ間に一つのクラスとして形ができ上っているのであろう。


「止めてくれてありがとう。正直話しかけられることを想定していなかったから助かったよ」

 

 アキラは素直に礼を言う。


「辞めてくれる?私は始業が遅れるのが嫌なだけ。あと私は貴方がクラスメイトであることを認めてないから」


「えっ」

 

 アキラが言葉を返す間もなく少女は教室を出て行く。最初から好印象を持たれると思ってはいなかった。入学式の日の出来事を起きたことだけ知っているなら、間違いなく問題児であり経緯などは考慮されるものではないとアキラ自身も思っているからだ。


「しかし、こうもはっきり言われるとなー」

 

 演習塔の場所を聞こうにもクラスメイトは殆ど教室から出て行ってしまっている。

 どうしたものか。アキラが途方に暮れていると後ろから肩に衝撃がかかる。


「災難だったな。委員長も言い方きついから。入学式のだって八咫は絡まれただけだろ?」

 

 アキラが振り返ると軽薄そうに笑う男子生徒が一人。確かアキラの前の席に座っており、早々に教室から出ていたはずだ。そして、この男の言葉から先ほどの少女はやはり、このクラスの委員長であるらしいことは分る。


「入学式でのことを知っているのか?」

 

 アキラが起こした騒動の原因も詳しく知っているような口ぶりだ。


「まあね。耳が良いもので、自然と聞こえてくるのさ」


 男は噂なんて出どころ探れば割かしなんてことないことが多いからな。と作った笑みを張り付けながら手を差し出してくる。


「俺は風魔かざまはじめよろしく」


「よろしく風魔」

 

 そう言ってアキラが握手を返すと、風魔は「ハジメで良いよ。クラスメイトなんだし」と笑う。

 こいつ良いやつだな。

 アキラは単純ながらも疎外感を感じていたこともあり、気軽に話が出来そうな相手が現れたことに安堵する。


「じゃあボクもアキラって呼んでよ」

 

 こうしてアキラに学園で初めての友人が出来た。


□■


Tips

外界侵略型敵性生物がいかいしんりゃくがたてきせいせいぶつ】通称【外敵アウター

多次元宇宙と繋がるゲートから現れる生命体。

形態としては不定形なモノから動物、果てには二足歩行を行う人型、そして地球上では空想上とされている生物の形を持つモノまで確認されている。


形態は門を通る際に多次元に適応するために固定されているのではないかというのが現在の通説。


脅威度が高いモノからABCD

単一の個体で人類を崩壊させられる可能性があるモノを特級オーバーとランクが付けられている。

現在確認されている特級は4種である。


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