第2話
そう思った束の間、
左首筋に銃弾が掠り抜けた。
慌てる暇はない。しかし、このままだと死ぬ。
隠れる場所もない。
頼れるのは銃の先にある剣だけ。
そう思っていると、
痺れを切らした兵士は胸ポケットから
何かを取り出す様子が窺える。
丸いもの、
確かに手榴弾だ。
ピンを引き、
こちらに投げようとする素振りと同時に
沼地の方へ飛び込んだ。
またこの感覚、ミュートされたような聴覚で
自分の鼓動だけが聞こえる。
その直後、耳が張り裂けそうな音がした。
案外影響はなく、助かったような気がした。
このままこの方角で、
少しの高さ跳ねることができたら。
そう思いつつ、身体は自然と動いた。
陸地がかすかに見えてきた途端、
安心しきった兵士の顔を見ることができた。
伸ばした右腕は確かに彼の身体に当たった。
驚く表情と裏腹に、殺気は変わらず送られる。
体が逸れた、それと同時に銃剣は勢いよく、
彼の脇腹あたりに刺さった。
嫌な感触がしたが、それどころではない。
殺される。そう思ったのか、
彼の目は血走っていた。
勢いよく胸を突かれ、
よろけた我が身に対して
彼は覆い被さってきた。
左肩をギュッと握るように。
言語がわからないが何かを言っている。
そう思う暇もなく、
彼は右手で自分の頬を強く殴る。
繰り返し繰り返し。口の中で血の味がする。
負けてたまるかと、
彼の右手を両の腕で引っ張る。
引っ張るように見せかけて、
左肘で彼の首元を強く殴った。
力が抜けたかのように彼は後ろへ倒れる。
彼に銃を向け続ける。
形勢逆転と、思ったのも束の間。
彼は慌てて手持ちの水筒を見せてきた。
首にぶら下げていた黒色の水筒。
キャップを急いで開け、中から何かを取り出す。
中身を出すように水筒を振る。
安心している暇はない。
何が出てきたか、小さく折り畳まれた何かが。
写真だろうか、こちらに見せてくる。
そう思っていたが、
急に先程撃たれた痛みが激しくなる。
子供のような少年、10歳ほどだろうか、
その写真をひらりと落とし、彼は手を挙げた。
降参するつもりなのか、
ここは敵の陣地なのに。
彼は右手を首の方に持っていき、息もつかぬ速さで服の裏に忍ばせた鎖を急いで出した。
その拍子に体の右側が痛み出した。
錆びた鎖は思いもよらない重さで、
激痛を引き起こす。
身体は何も考えずに彼の元へ向かった。
必死の抵抗であるが、
彼を押し倒すことしか浮かばなかった。
押し倒された彼は頭を何かで強く打ち、
その拍子に両手は彼の首元を強く握っていた。
生涯使うことのないほどの強さで
息苦しさに痙攣を起こしているのか、
手元の鎖や、武器として忍ばせておいた拳銃が
露わになった。
片手を彼の左脇腹のあたりに持っていき、
拳銃を手にする。
思い手取りで彼の眉間に銃口を構える。
指に引き金がかかっている。
何故だか自分でもよくわからないまま、
大きな声で叫んだ。
声を枯らすほどの勢いで。
何故だか面白くなってきた。
笑いながら叫んでいた。
鼓動が桁違いに速くなる。
一途の刹那、銃声が鳴り響いた。
それが最後の記憶。
兵士が叫びながら銃口を向ける。
brilliantly sun 雛形 絢尊 @kensonhina
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