brilliantly sun

雛形 絢尊

第1話

息を吸って、乱れた呼吸のまま走る、走る。

滴る汗は格子状に流れていく。

群れから逸れてしまった。

無事であろうか。などと考える余暇もなく

必死に走っていく。

そのまま足を進めていくが躓き、

斜面から滑り落ちる。

落ちていくままに落ちていく。

身体に泥を浴びてしまったが故、

呼吸のリズムはより一層上がっていく。

その泥濘を夢中に掻き分けていく、

まるで水で遊ぶ子供のように。

進むがままに進んでいく。

どんどん深くなっていく。

初めは腰の高さほどであったが

徐々に身体を覆っていく。

銃剣や最低限の持ち物で身体は重く、

のしかかるような気分だ。

泥を掻き分ける音に紛れてひとつ

銃声が聞こえた。

慌てていた我も正気に戻り、

音を立てないようにゆっくり動いていく。

少し遠い場所だ。

そう安堵していると声が聞こえてきた。

敵か味方か不明だ。

声を聞く限り2人。

銃口には泥が詰まっており、嫌な音がする。

滑り落ちる手元を探る。

銃はまだ手元に残っている。

あと数歩で陸地に上がる。

鎖のようなものが目の前に在るのだ。

声はよく聞こえなくなった。

泥濘による疲労もあり、鎖に手を伸ばし、

こちらに手繰り寄せた。

すると、力が抜けたかのように鎖は伸びていく。

思った以上に力が抜けたせいか

後ろに倒れていく。

同時に金属の擦れたような音が辺りに響いた。

気づかれた。

そう思い、決死の覚悟で泥濘に顔をうずめた。

嫌な思いとはこういうことだ。

思うように動けない、息苦しさに呑まれ

息を必死に止める。

もう1分か2分、息を潜めていたであろう。

恐る恐る水面に顔を上げようとした。

溜めていた分の呼吸が一気にでた。

泥で目元を拭うまで前は見えない。

見えないままの景色で、

銃声が近くから聞こえてくる。

まだ確認はできないが相当近くにいる。

視界が広がってくると

絶望的な状況にいることを悟った。

敵が2人、こちらに銃を向けている。

足元には鎖。

頭が真っ白になった。




泥が滴る音だけが場面を繋ぎ合わせていた。

咄嗟の判断で手元から約1メートルにあった鎖を思いっきり勢いよくこちらに引いた。

うまく確認できなかったが、

2、3メートルほどの櫓が

こちらに向かって倒れてくる。

慌てて泥を跳ね除け、敵から逃げる。

壊れた櫓は周りの地面をも崩させ、

1人の敵兵士の足元まで及んだ。

それが吉と出たのか、櫓は木造でいるにも関わらず頑丈でその兵士の右肩にぶつかり、同時に倒れ込み、沼地の方へと沈んでいく。

もう片方の兵士はそれを

無視するかのように発砲してくる。

距離は4メートルほど。

1メートルほど高い場所にいる。

銃剣を必死に構えて、狙いを定めようとした。

その瞬間、左腕に大きな音と衝撃が走った。

撃たれた。とは思いたくない。

2人の亀裂の合間には櫓が倒れた沼がある。

睨み合い、銃を構える音だけが周りにある。

引き金を引く、するとどうだ。

カチッ、カチッと音だけが聞こえる。

流れ込んだ泥が固まって

銃の機能は無くなってしまった。

死 という言葉が頭に浮かぶ。

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