第7話 関係修復のために◆レイモンド視点

 元婚約相手であるエレノアに会いに行き、俺は頭を下げて婚約を元通りにしてくれと頼んだ。だが、あの女は拒否しやがった。


「だから、何度頭を下げても無駄よ。私には、どうすることも出来ない」


 冷たい視線を向けてくるエレノア。どうすることも出来ない。きっと、その言葉は嘘だろう。おそらく、俺に従いたくないだけ。あの時のことを、やり返された。


 浮気を止めろと何度も言っていたけれど、俺が言うことを聞かなかった。向こうも同じようにしたんだろう。あの時に、従ったフリでもしておくべきだった。




 どうにかして、ブラックウェル家との関係を元通りにしないと、ラザフォード家は大変なことになる。父上から、財政状況が悪化しているとの報告を聞いた。使用人の数も減らされ、食事も質素になった。このままでは、貴族の地位まで失ってしまう。


 話し合いで認めさせるのは無理だった。穏便に済ませようと思ったのに、彼女から拒否された。ならば、少し過激な方法も考えるべきか。脅してでも、エレノアを従わせるべきだ。金で解決する方法もあるかもしれない。今ならまだ、余裕はあるはず。


 ラザフォード家は、数年前から領地が順調で蓄えがあった。まだまだ出来ることがあるはずだから、諦めるべきじゃない。




 どうにかする方法を模索しながら、俺はいつものように学園に通う。


 学園内では、エレノアに警戒されて近づくことも出来ない。彼女は常に誰かと一緒に行動しているので、一対一で話し合うことも出来ないか。ラザフォード家の現状を他家に知られたくないし、学園で話し合うのは諦めたほうが良さそうだ。


 それなら、俺は学園でいつものように過ごす。だけど、懐が寂しくなったせいで、しばらく女たちと遊ぶのは控えるべきかと思った。


 とはいえ、俺の性分では我慢できるはずもなく。我慢するのも体に悪いだろうし。これから先、大変かもしれないが、今のうちに楽しんでおくべきだろう。




 そう考えて、いつものように、女たちに会いに行った。まずは一番気に入っているリリアンの教室へ。だが、彼女の姿が見当たらない。


「おい。リリアンはどこだ?」

「えっと、彼女は休みですよ」

「休み?」


 近くに立っていたクラスメートの男子に聞くと、意外な答えが返ってきた。


「はい。学園には来ていません」


 リリアンが学園を休むなんて、珍しいことだ。病気にでもなったのだろうか。


 仕方ない、二番目に親しいフローラに会いに行こう。三番目のハンナにも会えるかもしれない。


 だが、彼女たちの教室に行っても、二人の姿はない。男子生徒に尋ねても、学園に来ていないという。その後も、何人かの女友達のもとへ行ってみたけど、会うことは出来なかった。


 一体、どういうことだ。親しくしている女たちが、同時に学園を休むなんて。


 急に姿を消した彼女たち。嫌な予感がするな。エレノアが何かしたのか。それとも別の誰かが、裏で何か仕組んでいる?


 俺が親しくしている女たちに学園を休ませて、どういう目的があるのか。俺には、そんなことをする理由がわからない。だから、偶然だろう。




 仕方ない。適当に声をかけて別の子と遊ぼうとも考えたけれど、金もないし今日は遊ぶのを諦めて、家に帰るか。


「はぁ、つまらんな」


 実家に戻った俺は、エレノアとの関係を再構築する方法を考えた。どうするべきか計画を立てる。



「ううむ」


 ラザフォード家が存続するために、俺がどうにかしないといけない。あれから父は弱腰で、ブラックウェル家との関係修復を諦めているようだ。だけど、彼らと協力は必要不可欠だと俺は考える。エレノアと彼女の実家を上手く利用する。


 そのためにもまず、エレノアに言うことを聞かせないと。婚約破棄を取り消して、前までの関係に戻す。そのために、どうするべきか。


 彼女を脅すか、金で解決するか。いや、もっと良い方法があるはずだ。考えてみるけれど、残念ながら良いアイデアは思い浮かばない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る