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家に帰っても、やはり気分は晴れなかった。あの時話していた先輩が、すでにこの世にいない存在だとは思ってもいなかったからだ。一応、赤本をペラペラとめくっているのだけれど――やる気がない。
ベッドの上で色々と考え事をしているうちに、母親から「ご飯ができた」と言われたので、私はリビングへと向かった。
*
その日の晩ごはんは、チーズハンバーグだった。私はハンバーグを食べながら、母親と話す。
「――なるほど。先輩が幽霊だったのね」
「そうなの。この2日間話してた子は、もうこの世にいない子だったのよ」
「確かに、『貫抜雪衣』という女子高生が交通事故で亡くなったってニュースは、私も目にしたわ。でも、まさか豊岡商業高校の子だとは思ってもいなかったわよ」
「そうね。お母さんの言う通りだと思う」
「ところで、梓――あなた、最近勉強の方はどうなの?」
「そんなこと言われても……答えに困るわ。でも、立志館目指して頑張ってるのは確かだから」
「それなら良いのよ。――最近、幽霊騒ぎを追っていて勉強がおろそかになっていないか心配だったからさ」
「私のことは心配しなくてもいいのよ。――立志館に行ったら、将来は明るいし」
私は強がってみせたけど、実際は――弱気だ。どうせ、こんな私が立志館大学に行けるなんて思ってもいないし。
母親と会話をしているうちに、父親も帰ってきたらしい。
「お疲れ様。今日はハンバーグよ」
「ああ、ありがとう。――そういえば、梓と話がしたい」
「梓と話? ――まあ、良いでしょう。どうせ、私に聞かれたらマズい話でしょうし」
「話と言っても、後でいいんだ。今は――目の前のハンバーグを頂こう」
そう言って、父親は手を洗って椅子に座った。
*
数時間後。私は――部屋で勉強をしていた。
そんな中で、コンコンとノックをする音が聞こえた。
「――梓、入っても良いか」
どうやら、父親が話をしたいらしい。
「良いわよ。父親に見られて困るようなモノはないし」
そう言いながら、私は父親を部屋に入れた。
*
「それで、話って何なの?」
私は父親に質問した。
父親は、私の質問に対して答えていく。
「実は……幽霊騒ぎに関して『あること』を思い出したんだ。それで、梓に話をしようと思って」
「なるほど。――早速、その話を聞かせてもらえるかしら?」
「ああ、分かっている」
それから、父親は私に「あること」を話した。
「豊岡商業高校の近くに防空壕の跡地があることから分かる通り、高校の近くというのは――軍部の所有地だったんだ。幽霊屋敷はその頃の名残で、かつてはある人物が所有権を保持していたんだ」
「ある人物? 一体、誰なの?」
「それが……僕が勤めている会社の会長なんだ。知っての通り、僕は『貞本商会』という会社で商社マンとして働いているんだけど、会長は――戦時中に軍部の中である研究をしていたんだ」
「なるほど。――どんな研究なの?」
私がそう言うと、父親は――申し訳なさそうな顔で答えていった。
「――死者の蘇生だ。それも、ただ『心臓が止まった人間を生き返らせる』のではなく、『死者を蘇生させたうえで、体を機械化するというもの』だ。言ってしまえば、いわゆる『サイボーグ』のようなモノだと思えば良い」
戦時中、そんな非人道的な実験をあの幽霊屋敷で行っていたのか。そして、実験の過程で亡くなった人間は成仏出来ずに今も屋敷の中を彷徨っている。だから、神崎友美恵は――幽霊にさらわれて(?)姿を消したのだろう。
私は父親が話していたことを聞いてしばらく絶句していたが、流石に何かを話さないとマズい。
そう思った私は、なんとなく父親に対して話す。
「――それ、掃除機で吸える?」
私が考えていたモノは、昔テレビで見た映画の中に出てくる「幽霊退治マシーン」だった。確か、掃除機を改造してビームを発射できるようにして、幽霊を吸っていくとかそんな感じだっただろうか。
そんな私のふざけた考えに対して、父親は――苦笑しつつ真面目な話をした。
「アハハ、『ゴーストバスターズ』か。――でも、あの幽霊屋敷の中にいるモノはそんな甘っちょろいモノではない」
「甘っちょろいモノではない? それって、もしかして……」
父親が言いたいことは、分かっていた。
「ああ、『悪霊』だ。恐らくだが、戦時中の人体実験で多数の死者が出た結果、屋敷の中で怪奇現象が起こるようになった。そして、廃墟と化した現在でも悪霊は成仏できずにいるんだ」
「じゃあ、私が見た黒衣の男性って……」
「僕は自信がなかったけど、彼は陰陽師で間違いない。――ただ、今は令和だ。そんな職業が許されるとは到底思えないけど」
「そうよね。令和の世の中に陰陽師なんて、時代錯誤も
そんな話をしているうちに、時刻は――日付変更線をまたごうとしていた。
「おっと、子供はそろそろ眠る時間だな。明日も朝が早いんだし、今日はもう寝たほうが良い」
「そうね。――おやすみ」
そう言って、父親は私の部屋から出ていった。そして、私だけが残された。
仕方ないので、私は――電気を消して、そのままベッドに入った。
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