5

 翌日。焼き立てのパンの匂いで、私は目を覚ました。――時刻は、午前6時だった。スマホのアラームが鳴るのは30分後だし、もう少し寝ようかと思ったけど、寝過ごすリスクを考えたらこのまま起きてしまおうか。

 色々考えた結果、私はリビングへと向かった。

 リビングでは、母親がお皿を洗っていた。父親は、朝のニュースを見ている。

 寝起きの私を見たのか、母親は話す。

「あら、梓。早起きじゃないの」

「まあね。――たまには良いでしょ」

「そうね。梓の言うとおりだわ。――そうそう、パンと目玉焼きがあるから」

「ありがと」

 私は、テーブルに置いてあったパンと目玉焼きを食べた。ちなみに、目玉焼きは醤油派である。

 テレビの朝のニュースは、相変わらず難しいことばかり言っている。国会議員の裏金がどうとか、闇バイトがどうとか、そんな話ばかりだったと思う。

 そして、アナウンサーが「次は特集です」と言ったところで――私はその画面を二度見した。

 父親も、ニュースの特集を受けて――話す。

「梓、これ――見覚えないか?」

「お父さん、確かに――見覚えがあるわ。コレ、私が通っている学校でしょ」

「ああ、そうだな。アナウンサーは『独占スクープ』なんて言っているけど、もしかしたら――学校でも既に騒ぎになっているかもしれない」

「そうね。――まあ、学校に行ってみなきゃ分からないけど」

 そう言いながら、私は学校に行く支度をしていた。



 校舎がある坂の下には、無数のカメラマンと野次馬やじうまがいた。やはり、朝のニュースの影響だろうか。

 そういう群衆をくぐり抜けながら、私は瀬川杏奈を見つけて話す。

「朝のニュース、見た?」

「たまたま見てたけど……ウチの高校が出てきてビックリしたよ」

「そうよ。私でもビックリしたぐらいだし。――どうやら、あの幽霊屋敷……悪い意味で話題になっちゃったみたい。テレビ局が『独占スクープ』と称して戦時中の軍部の人体実験を報道したら、こんなに野次馬が集まってるのよ」

「しばらく、幽霊屋敷には近寄らない方が良いかな」

「そうね。――あんな感じでテレビ局がまくし立てたら、迂闊うかつに近寄れないわよ」

「――それはオレも思ってるぜ?」

「あら、慶ちゃん。どうしたのよ?」

「杏奈、実は……幽霊屋敷でこんなことが起きているらしいぜ?」

 そう言いながら、菅原慶次は私たちに自分のスマホの画面を見せてきた。

「――何よ、コレ」

 スマホの画面を見て、瀬川杏奈は――ドン引きしている。

 私は、ドン引きする彼女を横目にしつつ、菅原慶次に「スマホの画面を見せてほしい」と頼んだ。

「それ、私にも詳しく見させてもらえないかな?」

「おう、いいぜ」

 そう言って、彼は自分のスマホを私に手渡してきた。

 スマホの画面には、SNSの投稿画面が映し出されていたのだけれど……どうやら、イニシャルで伏せてあるとはいえ――豊岡商業高校の周りで「何か」が起ころうとしていることだけは明確だった。

 私は話す。

「――これが真実だとしたら、幽霊屋敷への野次馬はもっと増えると思う」

「そうだな。オレもそう思うぜ?」

「私も思うわ。――とにかく、今日は授業どころじゃないかもね」

 混沌とした状況の中で、私たち3人は教室の中へと入っていった。

 ――むしろ、2年B組は「いつも通り」だったから、私は却って拍子抜けしたのだけれど。



 ――H県T岡市にあるT岡商業高校は、近辺にある廃墟のせいで「呪われている」らしい。

 ――この間、ある女子生徒が交通事故で亡くなったのも「廃墟から湧き出た悪霊による呪い」によるものであるとの噂だ。

 ――戦時中にあんな実験が行われていたら、被験体として死んだ人間も成仏できないと思うから、当然の話だろうな。

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