5
翌日。焼き立てのパンの匂いで、私は目を覚ました。――時刻は、午前6時だった。スマホのアラームが鳴るのは30分後だし、もう少し寝ようかと思ったけど、寝過ごすリスクを考えたらこのまま起きてしまおうか。
色々考えた結果、私はリビングへと向かった。
リビングでは、母親がお皿を洗っていた。父親は、朝のニュースを見ている。
寝起きの私を見たのか、母親は話す。
「あら、梓。早起きじゃないの」
「まあね。――たまには良いでしょ」
「そうね。梓の言うとおりだわ。――そうそう、パンと目玉焼きがあるから」
「ありがと」
私は、テーブルに置いてあったパンと目玉焼きを食べた。ちなみに、目玉焼きは醤油派である。
テレビの朝のニュースは、相変わらず難しいことばかり言っている。国会議員の裏金がどうとか、闇バイトがどうとか、そんな話ばかりだったと思う。
そして、アナウンサーが「次は特集です」と言ったところで――私はその画面を二度見した。
父親も、ニュースの特集を受けて――話す。
「梓、これ――見覚えないか?」
「お父さん、確かに――見覚えがあるわ。コレ、私が通っている学校でしょ」
「ああ、そうだな。アナウンサーは『独占スクープ』なんて言っているけど、もしかしたら――学校でも既に騒ぎになっているかもしれない」
「そうね。――まあ、学校に行ってみなきゃ分からないけど」
そう言いながら、私は学校に行く支度をしていた。
*
校舎がある坂の下には、無数のカメラマンと
そういう群衆をくぐり抜けながら、私は瀬川杏奈を見つけて話す。
「朝のニュース、見た?」
「たまたま見てたけど……ウチの高校が出てきてビックリしたよ」
「そうよ。私でもビックリしたぐらいだし。――どうやら、あの幽霊屋敷……悪い意味で話題になっちゃったみたい。テレビ局が『独占スクープ』と称して戦時中の軍部の人体実験を報道したら、こんなに野次馬が集まってるのよ」
「しばらく、幽霊屋敷には近寄らない方が良いかな」
「そうね。――あんな感じでテレビ局がまくし立てたら、
「――それはオレも思ってるぜ?」
「あら、慶ちゃん。どうしたのよ?」
「杏奈、実は……幽霊屋敷でこんなことが起きているらしいぜ?」
そう言いながら、菅原慶次は私たちに自分のスマホの画面を見せてきた。
「――何よ、コレ」
スマホの画面を見て、瀬川杏奈は――ドン引きしている。
私は、ドン引きする彼女を横目にしつつ、菅原慶次に「スマホの画面を見せてほしい」と頼んだ。
「それ、私にも詳しく見させてもらえないかな?」
「おう、いいぜ」
そう言って、彼は自分のスマホを私に手渡してきた。
スマホの画面には、SNSの投稿画面が映し出されていたのだけれど……どうやら、イニシャルで伏せてあるとはいえ――豊岡商業高校の周りで「何か」が起ころうとしていることだけは明確だった。
私は話す。
「――これが真実だとしたら、幽霊屋敷への野次馬はもっと増えると思う」
「そうだな。オレもそう思うぜ?」
「私も思うわ。――とにかく、今日は授業どころじゃないかもね」
混沌とした状況の中で、私たち3人は教室の中へと入っていった。
――むしろ、2年B組は「いつも通り」だったから、私は却って拍子抜けしたのだけれど。
*
――H県T岡市にあるT岡商業高校は、近辺にある廃墟のせいで「呪われている」らしい。
――この間、ある女子生徒が交通事故で亡くなったのも「廃墟から湧き出た悪霊による呪い」によるものであるとの噂だ。
――戦時中にあんな実験が行われていたら、被験体として死んだ人間も成仏できないと思うから、当然の話だろうな。
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