2
家に帰ると、父親がリビングでコーヒーを飲んでいた。――どうやら、出張から帰ってきたらしい。
そして、私の姿を見るなり話しかけてきた。
「梓、ただいま。――これ、お土産だ」
そう言って、父親は生八ツ橋の箱を手渡してきた。
「これって、生八ツ橋? ありがたくもらおうかな」
「ああ、もらってくれ。僕は梓が喜ぶモノを買ってきたつもりだからな」
箱を開けると、中には色とりどりの生八ツ橋が入っていた。私はピンク色の生八ツ橋を食べながら、父親と話す。
「仕事で京都に行っていたのは分かるけど、どうして京都だったの?」
「うーん、急に言われても困るなぁ……。でも、京都のお客さんから『御社の製品を気に入っている』と言っていたのは事実だ。――ほら、僕が勤めている会社って『工業用の部品』を扱っているからね」
「部品かぁ……」
「豊岡って、小さな街に見えて――町工場が多い。僕の会社は、そういう町工場から部品を仕入れて、神戸や大阪、京都で売っている。梓も、将来はそこへ就職すべきだ」
父親はそうやって言うけど、私は――もっとやりたいことがある。
私は、なんとなく父親に反発した。
「そうは言うけど、私は私の道がある。大学に行ったところで、豊岡に戻って来る気は1ミリもないわよ」
「そうか。――まあ、最終的に進路を決めるのは梓自身だからな。僕は梓に干渉しないつもりでいるよ」
そんな話をしていると、母親が生八ツ橋に合わせてお茶を持ってきた。そして、私と父親の話に割って入った。
「私も、梓が言う通りだと思う。最終的に道を決めるのは梓自身だし、あなたもあまり就職を強要しない方がいいわ」
「――ああ、倫子の言う通りだな。反省するよ」
*
私の母親は、「
実際、私は「小田島家」というモノに対して不満は持っていないし、将来的に「両親の介護をする」ということも織り込み済みである。でも、今はまだその時じゃないと思っているし、多分――私が両親の介護をすると決めた時には、すでに豊岡という田舎町にいないという可能性もある。
しかし、高校2年生の半ばということもあって、そろそろ「進路」というモノを真面目に考えないといけないのは事実である。私が行き着く先は、立志館大学なのか、それとも――父親が勤める商社なのか。それを決めるのは、私自身である。
とはいえ、やはり「幽霊騒ぎ」をなんとかしなければ、進路相談にも勉強にも身が入らない。――これは、マズいな。
*
「それで、しばらくは出張の予定はないの?」
私は父親に聞いた。父親の答えは――当たり前のモノだった。
「しばらくはないな。仮に出張があったとしても、日帰りで帰ってこられるような場所ばかりだと思う」
「それはよかった」
そして、私は――話を「幽霊騒ぎ」へと持っていった。
「ところで、京都に出張に行っていたっていうことは……やっぱり、ちょっとした観光もしていたの? 例えば、平安神宮とか……」
「確かに、平安神宮は行ったけど、それがどうしたんだ?」
「平安神宮って、『陰陽師がいた』って言うよね?」
「陰陽師? ――ああ、そういうことか。厳密に言えば、陰陽師は平安神宮じゃなくて『晴明神社』と呼ばれる場所にいたと言われている。梓、なぜその神社が『晴明神社』と言うかは、知っているな?」
「もちろん。『陰陽師』という役職が出来たきっかけである『
「正解だ。今年の大河ドラマを見ていたら、常識問題だったか。――それはともかく、陰陽師というのはもともと『朝廷の
「なるほど。――それで、この男性……見たことある?」
私は、そう言って例の「黒衣の男性」の写真を見せた。――あの時、気になったからこっそりスマホで撮影しておいたのだ。
でも、父親の答えは――私が望むモノではなかった。
「残念だけど、見覚えはないな。――力になれなくてごめん」
「良いのよ。そんなに期待していなかったし」
話はそこで終わるかと思ったが、父親は――私にある話を持ち出してきた。
「ところで、それって例の幽霊屋敷で撮ったモノか?」
「確かに、そうだけど……それがどうしたの?」
「あれから、僕も僕なりに幽霊屋敷について考えていたんだけど……どうやら、その屋敷は『ただの屋敷』ではないかもしれない」
「ただの屋敷ではない? もしかして――『戦時中は軍部の実験施設だった』とか?」
私は自信なく口をすべらせてしまったのだけれど、どうやら――言いたいことは分かっていたらしい。
父親は話す。
「ああ、恐らくだが――高校の近くに
「そうね。――そういうことについて考えても、どうにもならないし」
私は、そこで話を結んだ。――ただ、「幽霊屋敷」に関する手がかりは得られたかもしれない。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます