Phase 03 嵐の前触れ
1
「――そういうことなんです」
貫抜雪衣の話によれば、やはり「幽霊騒ぎ」は学校中で話のタネになっていて、なおかつ廃墟の周辺で黒衣の男性がウロチョロしていることも把握済みだった。
彼女は話を続けた。
「でも、私は……やっぱり、友美恵さんを救ってあげたいというか、見つけ出したいんです。3週間も行方不明になっていると、流石に学校の方も黙っていないと思って」
「それはそうですよね。――校内で騒ぎだけは起こしたくないですし」
仮に、校内で「神崎友美恵が消息不明になった」と知られると、学校の信用失墜にもつながりかねない。下手したら、進路にも影響が及ぶ。
幽霊騒ぎのせいで「ウチの生徒はちょっと……」と言われて立志館大学への進路が絶たれると、何のために勉強してきたか分からなくなる。そうならないためにも、私たちでこの騒ぎは収束させなければ。
そんなことを思いながら、テーブルには大きなサンドイッチが置かれた。――どうやら、貫抜雪衣が頼んだモノらしい。
「どうせ、私だけじゃ食べられないですし……半分食べませんか?」
「良いんですか? じゃあ、いただきます」
そう言って、私はサンドイッチを食べた。そう言えば、朝から何も食べてなかったな。
*
それから、貫抜雪衣から色々と話を聞いていたが、どうやら彼女もそれなりに良い大学を目指しているらしい。確か、同命社大学へと進学すべく勉強しているとか。――彼女の勉強ノート、何が書いてあるかさっぱり分からない。3年生だから当然だろうか。
「これ、3年の勉強なの?」
「そうです。同命社大学に行こうと思ったら、やっぱりこれぐらいは勉強しないと」
彼女のノートには数式がびっしりと書かれている。数式から考えて、
「それって、微分と積分? 私、そういうのってさっぱり分からなくて……」
「そうですよね。――ところで、小田島さんの得意な科目ってなんでしょうか?」
私は答えに困ったけど、とりあえず適当にあしらっておいた。
「えっと……理科かな? 物理学とか地学は苦手だけど、化学と生物学はそれなりに分かります」
「なるほど。――将来、良い大学に進学できるといいですね」
「ありがとうございます。――こう見えて、私……立志館大学という大学を目指して勉強しているんです」
「立志館ですか。――小田島さんの幸運、祈っていますから」
そう言って、貫抜雪衣は親指を立てた。――つまり、私は先輩から期待されているということなのか。
*
「それじゃあ、私はこれで。――また、幽霊について何か分かりましたらいつでも連絡しますから」
貫抜雪衣は、そう言いながらヨネダ珈琲店を後にした。ちなみに、食事代はそれぞれ別々に持って払った。
自転車で幹線道路を進んでいくけど、この景色が「田舎であることの象徴」と分かってからは、なんだかちっぽけに見えてしまう。――一刻も早く立志館大学に合格して、こんな田舎町を捨ててしまわなければ。
幹線道路から少しでも離れると、周りは田んぼしかない。家もまばらである。そんな田んぼ道を進みながら、私は自分の家へと帰っていった。
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