2

 自宅に戻ると、母親が夕食を作って待っていた。

「ただいま」

「おかえり。――部活がない割に、帰りが遅かったじゃないの。どこか遊びに出かけていたの?」

「うーん、遊んでいた訳じゃないんだけど……ちょっと、人助けを頼まれちゃって」

「人助け? それ、詳しく説明してよ」

 厳密に言えば、人助けじゃないのだけれど――多分、そうやって説明するしかないのだろう。そう思った私は、母親に詳しいことを説明した。

「実は、2年A組の生徒が行方不明になっちゃって。私と杏奈ちゃんで彼女を探していたの」

「なるほど。それで、彼女は見つかったの?」

「ううん。見つかってない。――でも、いつかは見つかると思ってる」

「そうね。学校ではその子の行方不明に関して問題になっていないの?」

「まだ問題になっていないけど、一部の生徒の間では『幽霊屋敷で儀式をやったから行方不明になった』なんて言われているの」

「幽霊屋敷? ――それ、お母さんにも詳しく聞かせてもらえないかしら?」

「うーん……。お母さんがそこまで言うんだったら、説明してあげるけど……」

 仕方がないので、私は母親に幽霊屋敷の件を詳しく説明することにした。

 

 *


「――なるほど。高校の下にそんなモノが……」

「そうなの。表札は外れていて、かつて誰が住んでいたかは分からない状態なの」

 それから、母親は私に今の状況を説明してくれた。

「考えられる状況としては、『幽霊屋敷』にはかつて裕福な人間が住んでいたけど、何らかのトラブルに巻き込まれて一家が離散りさんして――屋敷が廃墟になったんだと思う」

「なるほど。――それ、杏奈ちゃんにも説明していいかしら」

「良いわよ? 人助け、がんばってね」

 母親のアドバイスを受けて、私は瀬川杏奈のスマホにメッセージを送信した。

 ――杏奈ちゃん、あれから幽霊屋敷について何か分かったことはない?

 ――一応、私のお母さんは「かつて裕福な家庭が住んでいて、何らかのトラブルで屋敷だけが残されて、廃墟になってしまった」って言っていたわ。

 ――杏奈ちゃん、どう思う?

 メッセージを送ったところで、彼女からの返信はすぐに来た。

 ――なるほど。梓ちゃんのお母さん、中々良い考えを持っているわね。

 ――私も屋敷について調べてるけど、どうも脈ナシでね……。

 ――また、私の方で何か分かったら、梓ちゃんに共有するから。

 ――宿題もやらないとね。

 ああ、忘れていた。今日の宿題は……数学か。

 仕方がないなと思いつつ、私は数学の宿題をやることにした。それにしても、数式が難しいな。三角関数とか、何のために使うんだろうか?


 *


 宿題をしていると、父親が帰ってきた。――スマホの時計を見ると、午後9時になろうとしていた。

 私は、父親の姿を見て話す。

「お父さん、おかえり」

「ただいま。――その様子だと、随分と困ったことがあったようだな」

 見透かされている。――話すか。

「実は、私の友人から『人助けをしてほしい』って頼まれてね。普通の人助けならまだしも、行方不明になった子を捜してほしいっていう頼みだったの」

「なるほど。もう少し詳しく説明してくれないか?」

「良いわよ。――それで、行方不明になった経緯なんだけど……幽霊屋敷で降霊術をやっていたら、『白い服の幽霊』が現れたらしくて、そのまま彼女は消えてしまったの」

「そうなのか。――中々、厄介だな」

「厄介? どういうことなの」

「お父さんも、昔――そういう『イタズラ』に手を染めた結果、あわや友人が命を落とすところだったからね」

「イタズラ? それってもしかして……『降霊術』のこと?」

「まあ、近いかな?」

「近い?」

「お父さん、こう見えて豊岡商業高校の出で、なおかつあの廃墟のことも知っているからね。僕の頃は『口裂け女が現れる』とかそういう感じだったかな? まあ、女の幽霊ということに変わりはないんだけど」

「なるほど。――また、詳しい話を聞かせてね」

「それは分かっている。僕も出来るだけ父親として梓の手助けをしていきたいからね」

「ありがとう」


 *


 私の父親は、豊岡で商社マンとして働いている。こんな田舎町でも、一応商社マンの需要はあるらしい。――まあ、その分出張も多いのだけれど。

 一方、母親はデザイン事務所で働いている。主にスマホ向けサイトのデザインを手掛けていて、会社での評価も高いらしい。

 そんな「完璧」な2人から、こういう出来損ないが生まれてしまった。それは自分でも自覚している。でも、母親も父親もそれで私を責めたりはしていない。それどころか、「休みたかったら休んでも良い」と言ってくれるので、いじめられていた時は助かっていたのだけれど。

 とはいえ、嫌いだったのは「豊岡第1中学校」という存在であって、中学校の中にも瀬川杏奈のように優しい人間だっていた。無論、文字の読み書きは問題ないし、高校での化学の授業は楽しいと思っている。

 数学の宿題をしながら、私は――幽霊屋敷のことを考えていた。お父さんも、あの屋敷について何か思うことがあるのだろうか? 私はもう少し詳しい話を聞きたかったけど、時間はすっかり午後11時になっていた。――寝なければ。

 私は、ベッドに入ってまぶたを閉じた。スマホを触っていたら、いつまで経っても眠れないから。

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