Phase 01 幽霊屋敷
1
6時限目が終わって、放課後。本来なら、授業が終わった後に部活というモノがあるのだけれど、その日は水曜日で、部活がお休みだった。――だから、瀬川杏奈は私を誘ったのか。ちなみに、私は文芸部で、瀬川杏奈は女子バレーボール部である。
豊岡商業高校というのは、山の上に建っていて、麓には畑と住宅街が広がっている。それだけならよくある学校の風景なのだけれど、目の前にある朽ち果てた廃墟だけは、その異質な雰囲気を醸し出している。
瀬川杏奈は話す。
「とにかく、この廃墟の中に何がいるかは分からないけど――おばけなんてぶっ飛ばしてやるわよ」
そういう彼女の言葉に対して、私は冷静にツッコんでいった。
「おばけって、物理的にぶっ飛ばせないと思う……」
どうやら、それは分かっていたらしい。
「――ああ、そうね。おばけって、透明だからぶっ飛ばせないわね。それはともかく、中に入るわよ?」
そう言って、私と瀬川杏奈は廃墟の中へと足を踏み入れた。
*
中はガラスが散乱していて、素足だと怪我をしてしまうという状況だった。そして、妙に臭う。これは私の推測でしかないんだけど、多分――豊岡商業高校の生徒が違法薬物を吸うためにこの廃墟を利用していたのだろう。許せない。
そういうことを思いつつ、リビングと思しき場所へと出た。
「――そうそう。ここが、動画を配信してた生徒が行方不明になった場所なの」
「なるほど。――そういえば、生徒の名前を聞いていなかったわ」
「そうね。――行方不明になった生徒は、2年A組の『
「神崎友美恵か。――知らないわ」
「そっか。――まあ、知らなくて当然よね。彼女、豊岡第2中学校だったからさ」
そもそもの話、私と瀬川杏奈は――豊岡第1中学校の同級生という関係でもある。いくら私が中学2年生の途中で不登校になったと言っても、彼女は私に宿題を届けたり、勉強を教えに来たりしていた。こんないじめられっ子の私に構う暇があったら、もう少し有意義に過ごせば良いのに。でも、彼女は「梓ちゃんにはまた学校に来てほしい」って言っていた。別に私はそんなモノを望んでいないのに。まあ、彼女のお陰で私は高校でも孤立せずに済んでいる部分があるのだけれど。
瀬川杏奈は話を続ける。
「それで、神崎友美恵は――スマホで『儀式』の様子を配信してて、そのまま行方不明になってしまった」
「儀式? どういう儀式なのよ?」
「うーん……。多分、『
「それ、本気でやってたの?」
「動画を見る限り、本気でやってたらしいわ。そして、『白い服の幽霊』が現れて――そのまま彼女は姿を消してしまった」
「でも、ショート動画は拡散されているよね」
「その件に関してなんだけど、儀式の様子はライブ配信で撮影してたらしいのよね。――その証拠に、彼女のスマホがここに残されてる」
そう言って、瀬川杏奈は神崎友美恵のスマホを手に取った。
「でも、充電は切れてるみたいだし、そもそも充電したところで――ロックを解除するための認証コードなんて分からないわ」
「それは、杏奈ちゃんの言う通りだと思う。――2年A組の先生に届けるとか?」
「それが一番確実かもね。とりあえず、私が預かっておくわ」
瀬川杏奈は、神崎友美恵のスマホをカバンの中に入れた。――無事に届けられると良いけど。
*
その後も屋敷の中を調べていたが、これと言って「神崎友美恵が消えた証拠」らしきモノは掴めなかった。私と瀬川杏奈は、ため息を吐いた。
「はぁ……。まったくダメね」
「普通に考えて、ダメだと思う……」
「そうよね……。時間も時間だし、今日は諦めて帰りましょ」
スマホの時計を見ると、時刻は午後6時になろうとしていた。いくらなんでも、門限というモノは守らなければならない。
「梓ちゃんって、門限何時だっけ?」
「えーっと、一応……午後7時だけど。でも、早く帰らないと」
「その通りね。まあ、『降霊術』と『白い服の幽霊』については真面目に調べる必要があるわ。調べられたら、調べといてよ」
「分かったわ。――調べとく」
そう言って、私と瀬川杏奈は廃墟を後にした。流石にこの時期になると、午後6時というのは――すっかり真っ暗である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます