第29話

 お城から出てそのまま真っすぐ買い出しに向かった。お茶は色んな種類があったけど、全くわからないので沢山買って味見することにした。カーテンなんかは売ってなくて、布を買って自分で作るものらしい。瑠奈が張り切って布を沢山選んでた。そんなにいるの?って思ったら、ただの布だと思ったけどシーツも沢山入ってた。そして「太陽に毎日襲われちゃうから洗濯間に合わないでしょ」って言うんだよ。毎日交換するにしてもそんなにいらないよね…。


 ソファはやっぱり手作りだから高かった。瑠奈が一目見ただけでこれにしようって決めちゃったけど、黒っぽい革製の落ち着いたデザインのもので応接室には良い感じだった。運搬人手配しましょうかって言われたけど、僕達力持ちなんでって言って断って人気の無い所に行って収納した。


 それからついでに食器や食材なんかも買い出しして事務所に戻ってみると。


「あ!やっと帰ってきた」


 クラスメイトの女子が2人、自宅に上がる用の階段に座り込んでいた。


「あれ?何かあった?」

「ちょっと!私もここで働くんでしょ?」

「あー!そうだったね」


 資材の調達と運搬担当の空間魔術師の子だった。もう一人は?


「こっちは土魔術師なんだけど、街道整備やってみたいんだって」

「なるほど。ちょっとどういう風にやってるのか僕もわからないので、明日街道整備チームが来るからその時にやり方見せてもらってそれから考えよう」

「わかりました」

「二人ともいいところに来たね!カーテン作り手伝って!」

「私の社会人最初の仕事はカーテン作りなの…」

「いいからいいから、ほら行くよ!もうこの4人が会社立ち上げの幹部だからね!逃がさないよ」

「もしかしてここブラックなんじゃ…」


 そんな酷いことにはならないと思うけども…。


「そうだ、事務員ならやってみたいって子いたけど」

「事務員か…必要になるかもね」

「じゃあ雇ってあげて?あの子は妊娠してるから彼氏が2人分稼ぐって言ってるけど、できれば何かしたいって言ってるんだよね」

「そういうことなら雇うしかないね。あとの2人は?」

「一人は料理人だから綾香の下で食事担当になって、もう一人も鍛冶師の彼に養ってもらうけど家事とかやったことないから綾香のもとで手伝いして料理できるようになるって言ってた」


 なるほどね。3人ともちゃんと動き出してるんだね。母は強しなのかな?


……………………


「よし!だいぶ形になったね」

「なんか見てると学園祭のノリだったけど、ちゃんとカーテン作れてすごいね」

「瑠奈に引きずられた時はどうなるかと思ったけど意外と楽しかった」

「うんうん。ついでに私達の部屋のカーテンも作っちゃったし」


 あっ、そうか!それであんなに布買ってたのか!


「女子の分はできたけど、男子の分はお金とるよね」

「そうだね!彼女居る人は作ってもらえばいいし、いない人はしょうがないよね」

「じゃあ次はお茶の飲み比べするよ」


 ここで休憩に合わせてお茶の飲み比べとは瑠奈さんやりますな。


「休憩にお茶が出るということはブラックじゃないね?」

「何言ってるの太陽。うちは真っ黒よ!」

「そうなの?」

「見たでしょ、あの帳簿と予約状況」

「半年先まで予約が埋まってたね」

「そう!そしてうちの技術は唯一無二!更にトップはあのカイトさん!」

「善意の塊のようなカイトさんはこき使ったりしないと思うけど…」

「カイトさんはそんなことしないけど、そんなことで私達はあの人に恩を返せるの?」

「返せない!」


 そうだった!カイトさんにがっかりさせないように頑張らないと!彼の想像以上の成果を上げないとだめだ!


「そうだね。私も大陸全土飛び回る覚悟を決めるよ」

「私は死ぬ気でカイト工業の技術を身に付ける」

「よしよし、わかればよろしい」


 こうやって瑠奈は時々核心を突いてくるんだよね。


「ところで太陽、このお茶どうやって淹れるの?」


 こうやって瑠奈は時々抜けてることもあるんだよね。


「お茶なんて淹れたことないよ…」


 4人で試行錯誤したけど結局よくわからなかった。明日メイドさんがきたら教えてもらおう…。


……………………


 昼食を軽く取ってから、瑠奈は洗濯してくると言って行ってしまった。ちゃんとできるんだろうか…。


「太陽、じゃなくて社長?心配なら見に行ってあげれば?特にまだすることもないし」

「ありがとう。じゃあちょっと見てくるね」


 そうして2階に上がったらカイトさん達が来ていた。そして聞こえるゴウンゴウンという音。


「太陽、さっきはすまなかったね」

「いえ、大丈夫です。それよりこの音は?」

「ああ、洗濯機試作第一号を作ったから持ってきた」

「…やっぱり作れちゃうんだ…」

「瑠奈に試してもらってるんだけど、どっちがいいかなと思ってな」

「どっちとは?」

「んー、じゃあちょっと腕出して」

「はい」


 カイトさんが生み出した泥水みたいなのを腕にかけられた。


「じゃいくぞ、クリーン!」


 なんか魔力がキラキラしたと思ったら泥水で汚れた所が綺麗に元通りになった。え、すごいこれ。


「この魔法を広めるのと洗濯機を広めるのどっちがいい?」


 金儲けで考えたら洗濯機を作って売ったほうがいいんだろうけど、値段が高くなるとカイトさんが広めたい層では手が届かなくなるか。魔法なら…。


「カイトさんは衛生面で不自由しないように魔法を広めたいんですね」

「そうだな。子供達にはボロでも綺麗にした服を着せてやりたい。ついでに言うと掃除に使っても雑菌なんかも消せるから病気の予防にもなるんだよな」

「じゃあ魔法にしましょう」

「そうするか。ちなみにトイレにも座ると発動するようになってるけど気づいたか?」

「全く気付かなかったです」

「そうか…。まだまだ鍛え方が足りないな。もっと魔力を見ろ」

「うっ…。頑張ります」

「もう親しい者が油断して死んだりするのは嫌だからな。フェンリル様の所にブートキャンプに出すか…」


 そうか…。もしそれが罠だったら死ぬかもしれないんだ。もっと普段から魔力を見ないとだめだね。フェンリル母さんにも魔力を感じ取れって言われたんだった。


「フェンリル母さんの所行きたいです」

「瑠奈の洗濯終わったら行くか。翔太と綾香も連れていけないか?」

「たぶん大丈夫です!呼んできます!」


 久しぶりにフェンリル母さんに会える!でもどうして翔太と綾香もなんだろう?

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