第26話
無事に登録が終わってギルドから出てちょっと歩いたら広場が見えて来た。
「なんかカレーの匂いがするんだけど」
「うん、カレーだね」
「あ!太陽!ミース商会だよ!石鹸の!」
この大人数じゃ食堂に入っても迷惑だろうから食堂組と商会組で半分に別れて行動することにした。面白いことに戦闘職系はハラペコさん達なのか食堂へ向かい、生産職系はどんなものが売られてるのか興味津々で商会に向かった。僕達はとりあえず商会の方に来たんだけど…。
「石鹸こんなに高かったんだね…あの石鹸大事に使おう…」
「シャンプーも恐ろしい値段だよ…」
「太陽…リップ…」
「瑠奈…帝国に貰ったお金で買ってあげるよ」
それを聞いて瑠奈は目を輝かせて何色にしようか選んでいたよ。更にその隣では綾香が翔太をじっと見ていた。
「俺も綾香に買ってあげるよ」
「翔太、ありがとう!じゃあ剣は私が買ってあげるね!」
「いいの?」
「うん。ちゃんとした剣が欲しかったんでしょ」
「そうなんだ。綾香を守るためにも戦う力つけないとね」
そうだね、もう理不尽な目に遭わないようにある程度は鍛えないとね。
「いいな…」
僕らのそんなやり取りを羨ましそうに見つめている女子達がいた。彼氏はカレーの匂いに釣られて離れ離れになっちゃった集団だね。可哀想だけど呼んでくるわけにはいかないよね…。
女子達は皆リップに釘付けだけど、さくらちゃんだけは上着のポケットを抑えて視線を彷徨わせていた。そうだね、あの時カイトさんにもらってたもんね。
「決めた!私は買うよ!」
花蓮が自分で買うことに決めたら他の女子達も買うことにしたみたいだね。これからの生活に不安があるかもだけど、カイトさんまた宿舎建ててくれるみたいだし、食べる分くらいならなんとかなるから大丈夫だよ。
ところで、僕の方見ながら瑠奈と綾香は何をこそこそと相談してるのかな?
……………………
入れ替わりで今度は僕達が食堂に来た。なんと今日はカツカレーが食べられるらしい、もちろん注文したよ。
「トンカツじゃなくてイノシシカツらしいけど楽しみだね!」
「イノシシと聞いたらフェンリル母さん思い出すけど、カツはまた別だね!」
「フェンリル母さんって?」
小さい声で言ったけど、同じテーブルの翔太と綾香には聞こえてたみたいで、僕達が追放されて空中に投げ出されたのを助けてもらったことから説明した。
「太陽達も危なかったんだな」
「空中に投げ出されて地面が近づいてきた時はもう死ぬと思ったよ」
「でも最後まで太陽は私を守ろうとしてくれたんだよ」
「さすがいつもトラブル起こす瑠奈を背中に庇ってた太陽だね」
「俺もその点は毎度凄いと思ってた」
もう恥ずかしいからやめて?
「カツカレー4つでーす」
「あ、きたね!食べよう食べよう!」
店員さんがいいタイミングで来てくれて助かった。思えば最初から僕の願いは瑠奈を守ることだけだった。きっと瑠奈も…だから女神様は手を貸してくれたのかな?うん、きっとそうだね。ありがとう女神様。
「食べ終わったら武器屋に行ってみたいな」
翔太は武器が気になってしょうがないみたいだね。剣士だからかな?
「そうだね。広場の向い側にそれっぽい店あったから行ってみようか」
「よっしゃ!早く食べて行こう!」
「ちょっと!せっかくの久しぶりのカツカレーなんだからゆっくり食べようよ」
「そ、そうだね綾香」
久しぶりのカツカレーはとても美味しかった。イノシシカツもフェンリル母さんの所で食べたイノシシと同じものとはとても思えないくらいで、やっぱり血抜きとか処理をちゃんとしないとダメなんだね。暇があればいつか解体方法教わりたいなぁ…。
………………
「おたくの翔太さん、剣を腰に下げたらご機嫌になったねぇ」
「ホントですね瑠奈さん、翔太があんなに剣バカだとは知らなかったよ」
そうなのだ。武器屋に入ったとたん真剣な顔つきで剣を一つ一つ握りだして選ぶのにだいぶ時間がかかったんだよね。最後には「この剣が俺に使えと言っている」とか言い出してそれに決めたんだよね。剣士って剣と会話できるの?
「ところで太陽、ホントにこっちでいいの?」
「うん。カイトさんの魔力はこっちにいるよ」
いつの間にかもういい時間になっていたのでカイトさんの魔力を辿って移動していた。晩御飯も串焼きやパンを買って来たからなんとかなるでしょう。
「なんか凄く場違いなマンションみたいなのが建ってるね」
「お、ホントだ」
「え?まだ見えないんだけど」
「私も見えないよ」
瑠奈と翔太は目がいいのかな?悔しいからカイトさんに習った目に魔力を込めてみたら見えた!本当にマンションみたいなのが建ってるね。あそこにカイトさんの魔力があるし間違いないね。ってもう2人魔力が多めな人がいるね、フェンリル母さん程ではないけど、カイトさんに付いてた騎士さん達よりも強そう。
「太陽、私達もあんなの建てれるようになるのかな?」
「無理だと思う。そもそも魔力がもたないよ」
「だよね」
平屋の山小屋みたいなのならできるかもしれない。
「カイトさんの他にも剣の達人の気配があるぞ」
「そういう気配がわかるのも凄いね」
「剣士なら当然だぞ!太陽も剣を持て!剣はいいぞ」
「僕は魔法使いだし遠慮しておくよ」
そんな会話をしながらマンションの前に辿り着いたらカイトさんが出て来た。隣にいるのが幼馴染の奥さんかな?そしてちょっと後ろに控えてるメイドさんは、前にお風呂に案内してもらった人だ。今ならわかるけど、この人もめっちゃ強いね。翔太が冷や汗をかいてメイドさんを見てるからきっとこの人が剣の達人なんだろう。
「太陽、俺達ちょっと用事できて帰らないとだからあとは好きに使ってくれ。一応、1階に食堂と男女の浴場があって2階が男子用、3階が女子用だ。女子用は女子しか入れないからたぶん間違えないと思うが、まぁなんかあってもうまくやってくれ」
「わかりました。カイトさんありがとうございました」
そうして予想通りの奥さんとメイドさんを紹介してくれて、3人は颯爽と帰って行った。
「翔太大丈夫?」
「ああ、会話をするまで気づかなかったけど、メイドさんもだいぶ強いと思ったけど、あのメイドさんより奥さんの方が強いな…恐ろしい夫婦だ」
カイトさんの話だと奥さんも転生者だからね、それがカイトさんと育ったんだから弱いわけがないよね。
「皆もう探検に向かってるよ?早く私達も行こう」
気づいたら周囲には僕達4人しかいなくなっていた。皆早いな。
いつものように瑠奈に手を引かれて入り口に向かったら、僕と翔太だけ弾かれた。
「なんだこれ」
「カイトさんが言ってた女子用は女子しか入れないってこのことかもしれないね」
「そうなんだね。じゃあ一旦お別れだね」
「うん。女子の方で何かあったらすぐ教えてね」
「わかったよ」
そうして翔太と別の入り口から入ったんだけど、1階には全員が1度に食事できるような大きな食堂と大浴場があった。トイレはないんだね。
2階からはロの字のようになっててドアが5つ並んでいてそれが4辺で20部屋なのかな?角部屋人気出るかと思ったら四隅の部屋はちょっと変わっててミーティングルームや応接室になってるみたい。がらんとして棚だけついてる納戸っぽい所もあるね。これなら喧嘩にならなくていいね、さすがカイトさんだね。
そして余ってる個室に入ってみたら、中はワンルームマンションみたいになってて簡易的なキッチンからシャワールームにウォシュレット付き水洗トイレだ!これは嬉しい!なるほど、これは普通の人が立ち入りそうな場所には設置できないね。カイトさん永遠にトイレ作りしないといけなくなるよね、後でみんなに口止めしておこう。
そうして窓を開けて顔を出して外を見ていたら――
「太陽そこなんだ?丁度私の真下だね」
そう言って浮遊魔法を使いながら窓から瑠奈が侵入してきた。
「僕達は仮住まいになりそうだけどね」
「そうだった」
「丁度いいしカイトさんにどんな風に建ててもらうか2人で考えようか」
「うん!事務所兼自宅は譲らないからね?」
「はいはい」
カイトさんがイメージしやすいように外観の絵も書いてみたりしてたけど、気づいたら2人でベッドに入って眠ってたよ。
慌てて指輪に収納してた寝具みんなに配りに行ったんだけど、みんなまだ食堂に集まってワイワイ騒いでた。女子達も復讐が終わったからかわからないけど、表情が元に戻って元気になってて良かったな。
男子は3階に上がれないから女子から夜這いに行くことになるねなんて冗談も飛び出していた。冗談だよね?
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