第19話

 新しい服を着て外に出ると建物が3階建てになってた。入り口入るとすぐ階段があるけど、どうやらこちらからは2階までしか行けないようだ。皆がわいわいと登っていくのを見届けて、1階でカイトさんを探す。


「こんなもんかな」


 見つけた。壁に付いてる扉を閉めてそんなことを言ってる。なんでそこに扉があるのかわからないけど…。


「カイトさん…また建物変わってるんですけど…」

「お、太陽か。男子は2階、女子は3階で個室作っておいたぞ。女子は男性恐怖症の子がいるかもだから男子側からは近づかないように区切ったぞ」

「ありがとうございます。僕達ホントにカイトさんに会えて良かったです」

「いいんだ、気にするな。それより外で焼肉やるぞ、火熾しておいてくれ、得意だろ?」

「……またイノシシ焼くんですか?」

「甘いな太陽くん。この俺がその程度のものしか出せないとでも?」

「え?まさか…」

「そう!ワイバーン肉だ!」

「あの、ファンタジーものでは夢の食材の?」

「そうだ!わかったら焼肉の準備したまえ!」

「了解です!」


 ついでに男子達に食器や寝具を調達してこさせてくれと金貨をもらった。ワイバーン肉か、皆喜ぶね。これぞ異世界だもんね。聞くところによると男子はパンと水だけがほとんどだったらしく、まともな食事なんて食べたことないらしい。僕達はイノシシ食べてたからまだましだったのかな?


……………………


 薪になりそうな物はとキョロキョロしてたらカイトさんの部下の騎士さんがどうしたと聞いてきてくれて、カイトさんに肉焼くから火の準備しとけと言われたと言うと薪もらってきてやるというのでお願いした。そこで僕は土魔法で焚火台を作ることにした。カイトさんのようにズバーンとはいかないけど、よくキャンプ場にあるバーベキューコーナーみたいなやつを作れた。


「薪はこれくらいで足りるか?」

「十分です、ありがとうございます」


 この騎士さん仕事が早いな…というか足が速いな…びっくりするくらいの速さで薪担いできたよ。カイトさんと同じくらいの歳に見えるけど相当鍛えてるんだね。


「よし、あとは魔法で火を点けてと」

「お、さすが狼の子、太陽」

「カイトさん…フェンリル母さん元気してますかね…」

「神獣様だぞ?元気に決まってる」

「ですよね!」


 フェンリル母さんにまた会いたいな。


「それより、後は金網が欲しいな…」

「カイトさん作れたりは?」

「そんなの無理に決まって――あ、出来た」

「やっぱり何でもありだよこの人」


 魔力で鉄を作り出すのも凄いけど、それを金網状に出すってどうなってるの?


「あとは瑠奈が下拵えしてくれてるからそれが出来たら焼くかと思ったけどまだ調達部隊帰って来てないか」

「大丈夫でしょう。一気に全部焼けないし外に来れない女子の分だけでもやりましょう」

「そうだな。よし、果実酒飲ませてやるからな!」

「お酒…」

「アルコールは甘酒程度に薄めてあるから気にするな」

「それなら頂きます」


 こういう世界だと子供でも果実酒みたいなのを薄めて飲むのが普通なんだっけ?まぁそれでも平民の子は買うお金ないか…。果物が貴重だから、いつか大規模果樹園でも作って安いジュースを作ろうかな?


……………………


「お肉とお野菜持ってきましたよー」

「ありがとう。あれ、その子は大丈夫?」


 瑠奈ともう一人、あの子はさくらちゃんだね。小柄でいまだに小学生っぽい見た目の子だ。さっきカイトさんと遭遇して驚いたことを謝ってるね。細工師で普通にこき使われていただけなので大丈夫ですと言っているので、他の女子みたいに酷い目にはあわなかったらしい。細工師だから女性ばかりの職場だったのかな?というかどう見ても子供にしか見えないってことのほうが…。


 って考えてたらカイトさんがいつの間にか雇い入れる約束してるね。すごいね。


「瑠奈さんや、カイトさんは流れるようにスカウトしていきますな」

「ホントですな太陽さん。あれがイケメンのなせる技なのでしょうな」

「何を言ってるんだお前達は。ほら、女子の分の肉焼くぞ」

「「はーい」」

「……太陽と瑠奈にこれ渡しておくか」

「え…カイトさん、私は太陽と婚約してるのに…」

「瑠奈!?」

「……突っ込まないぞ。それは指輪型異次元収納だ。指輪はめて食器を持って収納と念じてみたらいい」

「太陽にはめてほしい」

「じゃあ僕も瑠奈に…」

「おい!婚約指輪とかじゃないからな!」

「僕達婚約したけど指輪買えなかったので」

「私も尊敬するカイトさんに貰った指輪だし、これが結婚指輪でもいいよ」

「好きにしてくれ…。せめて細工師の彼女に名前彫ってもらうとか」

「それいいですね!」

「よし、肉が焼けたぞ、太陽ご飯盛って瑠奈はそれに肉野菜盛り付けて収納。女子の分揃ったら持って行ってあげなさい」

「ステーキ皿に盛りつけてナイフとフォークじゃなくてもいいんですか?」

「ばかもの。そのお肉様が何の肉が今一度思い出せ」

「ワイバーン…」

「箸でも切れる」

「うひゃー!」


 というか肉汁も無駄にできないね!これはオンザライスが正しいと思う。っていうか早く食べたい。


「ただいまー」

「お帰り。男子は食器類以外はホールに置いてきて全員ここに集合!」


 男子達が帰って来たと思ったら早速カイトさんに指示を出されてた。その間に僕と瑠奈は第2弾の肉が焼けて盛り付けた。そして女子の分揃ったので瑠奈は女子達の部屋に向かって行った。


 男子達が戻ってきたところでカイトさんが立ち上がり――


「よし!集まったな男子諸君!ここに果実酒の入った樽がある!この世界では16歳で成人だ!今日はお前らでこれを全部飲み尽くせ!」

「うおー!」

「やってやる!」

「帝国のばかやろう!」

「俺の彼女返せ!」

「それで?お前達は明日からどうするんだ?」

「彼女を取り戻しに行く!」

「「俺もだ!」」

「俺も!まだ付き合う一歩手前だったけど…」

「いいだろう。お前達がちょっとしたことで見捨てない男で安心した。俺が手伝ってやろう。帝国から全てを取り戻して、女子達の代わりに復讐してくるぞ!」

「「おお!」」

「彼女達は心に深い傷を負ってるかもしれない!それでも惚れた女なら支えてやれ!」

「もちろんだ!」


 翔太…。うん、翔太ならそうだよね。カイトさんが手伝ってくれるなら成功したも同然だね、絶対に綾香を取り戻そう!


「よし!翔太といったな、最後は決意の籠ったいい声だった。お前が救出チームのリーダーだ」

「え、俺が?」

「見たらわかる。この世界に来てから人一倍努力してきたんだろう」

「確かに、翔太は奴隷から解放されるために頑張ってたな」

「わかりました。リーダーやらせてもらいます!」

「じゃあ明日、女子達には内緒で出立するぞ!」

「え…」


 女子達さっき出てきてカイトさんの演説聞いてたよ…。


「ん?どうした?」

「カイトさん後ろ」

「ちょっと待ったー!」

「私達も復讐に行く!」

「駐屯地の豚ども許さない!」

「空間魔術師の私なら多分、駐屯地と帝城に転移できる!一気に乗り込んでぶち殺す!」


 結局、女子も戦闘職は皆行くことに決まった。本当はカイトさんにお礼を言うために出て来たらしいんだけど、今の話を聞いて復讐の炎が燃え上がったみたい。男女入り乱れて樽を開ける任務に取り掛かったんだけど、途中から気分が良くなって…。


 気づいたら翔太と一緒に同じベッドで寝てたんだ。何もなかったよね?

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