第10話

 昨夜は緊張して眠れない…なんてことはなく、1日中走り回ったせいか速攻で寝落ちして朝までぐっすりでした。瑠奈も「すっごおくよく眠れたよ」って言ってたので良かったかな。


「太陽、今日はどうするの?」

「冒険者ギルドに行ってみようかなって思ってるんだけど」

「魔物討伐とかしてたら冒険者に情報が集まりそうだもんね」

「それもあるけど、やっぱり身分証があったほうがいいかなって」

「ということは!登録するんだね!」

「うん。余計なテンプレ展開がないことを祈ろう」

「じゃあ行こう!早く行こう!」


 あ、ちょっと、瑠奈すごい力…。瑠奈ってホントに魔法使いなの?実は違う職だったんじゃないの?


「あれ?ところで冒険者ギルドどこにあるの?」

「……宿を出る前に聞いておけばよかったね…」


 もう、後先考えずにぐいぐい引っ張って行くんだから。昔から変わらないなぁ。


「あ、あのハゲたおっさんに付いて行けばきっとギルドにいきそう!そういう顔してる!」

「……聞こえたぞ。誰が人相の悪いハゲオヤジだ」

「ご、ごめんなさい!うちの瑠奈がすみません」

「……冒険者ギルドに用があるのか?」

「はい。ギルドに登録しようと思いまして」

「……そうか。付いて来い」


 あれ?人相悪いけどいい人なのかな?瑠奈は僕の背中に隠れて無言を貫いている。いつものことだね。


「ここがこの町の冒険者ギルドだ、憶えておけ」

「はい、ありがとうございます」


 中に入りハゲおじさんが受付嬢にこそこそと何かを話してるのを呆然と見ていたら手招きされた。


「登録は奥の部屋でやる。こい」

「は、はい」


 奥の部屋に案内されて中に入るとガチャリと中から鍵を閉められた。困惑していると


「さてと、ここにはもう誰も入ってこない。わけありなんだろ?」


 そんなことを凄みながら言う強面おじさん。


「どうしてですか?」

「俺はこのギルドの支部長だ。こないだ来てった召喚勇者を見た。ちょうどお前達のような顔立ちをしていたな」

「っ!」

「ふむ。やっぱりそうか。……まぁそう身構えるな。俺は元々ギルド本部のある中立都市国家の生まれでな、この国の奴隷の扱いが好きじゃないんだ」

「ってことはやっぱり皆奴隷にされてるんですか?」

「そうだ。皆死んだような目をしてたぜ」

「なんてことだ…」

「お前達見たところ、そっちのお嬢さんなんて身に纏う魔力も洗練されてるし相当鍛えてきたんだろ?」

「良い師に巡り合えて助けてもらいました」


 フェンリル母さんも師ってことでいいよね?最近思い出すんだけど、フェンリル様が父さんじゃなくて母さんだと思うと色々な行動もなんか愛着があって愛しく思えてきてしまう不思議。


「そうかそうか。で、あいつらを助けてやりたいんだろ?」

「はい」

「よしよし、そうしてやれ。今出せる情報は、少し前にここより二つほど東の町へ向かったということくらいだが、その手前のここの隣町に鍛冶師の召喚勇者がいるって話があるな」

「本当ですか!?よし瑠奈行こう!」

「うん、行こう!」

「まぁ待て待て。登録しにきたんだろ?身分証欲しいんじゃないのか?」

「あ…そうでした」

「よし、じゃあ後は登録のために受付嬢呼ぶから余計な事は話すなよ。ここの受付嬢は全員帝国出身だ。帝国の人間は奴隷落ち避ける為にはなんでも売るから油断するなよ」

「わかりました」


 強面ハゲ親父改めギルド支部長が扉を開けて受付嬢を呼んでいた。すぐに来た受付嬢に説明を受けて登録してもらう。扉の前で腕を組んで仁王立ちしてる支部長は、ホントに僕らに味方してくれる気なのかな?この国の奴隷の扱いってそんなに酷いの?


 不安しかないながらも冒険者登録は無事に終わった。瑠奈が支部長に絡んでくれたおかげで助かったね。とりあえず簡単な薬草採取でもいいから一度受けておけと言われたので、今は魔の森方面へ向かってる。


「今回もいい人に巡り合えてよかったね」

「そうだね!あの後頭部にギルドに行くって書いてたんだよね」

「……それは支部長の前では言ってはいけないよ」

「わかった」


 そして規定の薬草5束を採取して町に戻ったんだけど、なんやかんやでもう夕方に近くなっていた。これから隣町に向かうのは無理だね。


 しかし奴隷か…カイトさんと話してた最悪の事態になってそうだね。どうしようか…。


「昨日と同じ宿でいいよね!」

「いいけど、部屋は別々のほうが…」

「大丈夫!私に任せて!」


 あやしい、ホントにあやしい。何か悪だくみしてる時に斜め上見るクセ知ってるんだよ?


「やっぱり今日もこの部屋しか空いてなかった」


 目が泳いでるしセリフも棒読みだしそれで演技できてるの?まったくしょうがない幼馴染だね。


「じゃあしょうがないね、また一緒に寝ようか」

「うん!そうしよう!」


 お風呂は無いのでお湯をもらって体を拭いてから、食堂で晩御飯を食べた。そして二人でベッドに入った。


「それにしても皆が心配だね」

「そうだね。綾香ちゃん大丈夫かなぁ」

「翔太も無事だろうか」

「あの時の嘘のような声に従ってよかったなぁ」

「ん?あの時の声って?」

「なんかね、鑑定の時に『あなたの幼馴染の願いに応えて本当は軽戦士だけど同じ魔法使いにしておいたわ、何があっても彼と離れたらだめよ』って言われた気がしたの。だから太陽が追放される時も無我夢中で飛びついたの」


 それって鑑定の時に瑠奈を守りたいって願った…。


「太陽は何を願ってくれたの?」

「あ、えっとそれは…」

「ふふふ、太陽は私が守ってあげるからね!」

「うん。瑠奈は僕が守る!二人で最強になろう!」

「うん!じゃあ守るためだからこうして寝ないとね!」


 そう言って腕と足を絡めてくる瑠奈。逃げようとしたけど力が強くて身動きが取れなくて、まんまと抱き枕にされてしまった。

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