第9話 帝国サイド

――Side闇の魔術師


 戦闘職男子が集められた部屋から移動させられ装備を着けろと渡された杖とローブと首輪。なんで首輪があるでござる?と首輪をじっと見ていたら、騎士に抑え付けられて無理矢理首輪を嵌められた。


「これでお前達は奴隷だ。気分はどうだ?」


 最悪だ。忍法影渡りの術で背後に回り込んで殺してやろうと思ったけど体が動かない。


「よし、あとは俺がやろう」


 さっきの部屋で偉そうに喋ってた奴だ。


「俺達も上級職の魔術師を奴隷にしたくはない。奴隷にすると余計な事言わないように会話は禁止するから魔術の詠唱させられないからな」


 なるほど?


「そこでだ!帝国に忠誠を誓うなら奴隷から解放してやってもいい。役に立つならある程度いい暮らしもさせてやろう」


 誓います!誓います!せっかく忍者になれる世界にきたのに奴隷暮らしなんてごめんだ。


「まぁ1つだけ、帝国に歯向かったり逃げようとしたら苦しんで死ぬ契約魔法はかけるが、どうする?」


 帝国に歯向かわなければいいってだけなら別にいいかな。なんとかやりようはありそうだ。


「よし、首輪を外してやれ」


 よっしゃ!これで自由でござる!


「おっと、魔力を動かしたら容赦なく殺すからな」


 ……やめておこう。


「それで?どうする?」

「帝国に忠誠を誓います」

「俺も誓います」

「俺も」

「よし!じゃあこの契約書に名前を書け」


 こんな怪しげな契約書にサインしないといけないなんて…。クーリングオフあるでござるか?


「じゃあ最初の任務だが、戦闘職の奴らと行動を共にして戦いながら監視してくれ。そして頑張れば俺達のように奴隷から解放されるぞと言いふらしてくれ」


 なるほど。なかなか狡賢いやり方でござるな。そうやって今までも奴隷達を扱ってきたのだろう。


「わかりました。……ちなみに俺達が奴隷に命令することは?」

「それはできない。異世界人はこの世界では異物なのか隷属の首輪に主として認められない。奴隷にはできるんだがな」


 現地人より下の扱いってこと?異世界人は重宝されるんじゃなかったのかよ…。


「他には何かあるか?」

「「「……」」」

「なければこの後メイドに食事を用意させるから食べてから部屋に戻るといい」


 そしてメイドが入って来て一人一人にお盆にのった食事を渡していった。パンとなんかの肉のステーキと野菜の入ったスープだ。思ったよりいいでござる。


「魔術師の女どもは反抗しおったから奴隷のままだ。お前達には期待しているぞ」


 とりあえず、あの契約書をなんとかできるまで忍術の修行をしていくしかないでござるな。


……………………


 奴隷達の監視というか一緒に戦ってるのだが、やはり魔術師は強い。ただ、詠唱しないといけないから単独では厳しいでござるな。剣士の翔太なんかは前衛として役に立ちそうだが…。頑張れば開放されるというのを鵜吞みにして一生懸命頑張ってるよ…。契約書をなんとかできたら、拙者が皇帝どもを暗殺して解放してやるでござるよ。だからそれまで無茶して死んだらいかんでござるよ。学校でも数少ない普通に接してくれた幼馴染カルテットは嫌いじゃないし、綾香と結婚するのでござろう?


 奴隷達を監視する傍ら、近くの国境で戦争してるというので兵士の影に潜んで見に行った。なんか炎の剣を持ったやたら強い爺さんが居たので、忍法影渡りの術で背後に移動して背中から心臓目掛けて闇の波動を打ち込んでやった。それほど強い魔術じゃないんだけど、油断してたのかコロリと逝った。この魔術使えるかもしれない。


 おかげでその戦場では快勝したようで、指揮官にはたいそう喜ばれた。これはチャンスでござるか?一度皇帝のところに行って宝物庫から忍びっぽい褒美もらえないか交渉してみるでござる。


 修行にもなるし、忍びらしく走って帝都に向かうでござるか。おっと、指揮官に一筆書いてもらわねば。


……………………


 体力の限界に挑戦してみようと思って走ってたら思ったよりずっと走れて途中1泊しただけで帝都まできたでござる。1日に50里を走ったとされるあの偉大な忍者に並べるかもしれない。町で1泊したわけだけど、普通の宿だと風呂が無いのが困るでござるな。食事も…米が食いたいでござる。よし、帝都ならあるかもしれないのでここでも1泊して散策してから帝城にいくでござるか。とは言っても、もう夕方でござるが。


 米は無かったけど、武器屋に苦無に似たものがあったでござる。しっかりと購入して懐に忍ばせておいたでござるよ。


 次の日帝城に入って指揮官に書いてもらった手紙を渡すと応接室のような所に通された。皇帝くるのかな?


「よくやってくれた。あのフレアソードには昔から手を焼いていたんだ。其方には暗殺系の才能があるようだな」


 ローブの男だった。こいつで褒美もらえるだろうか?


「そうみたいです。これからも帝国のために働くので、ここは是非宝物庫から褒美を…」

「ふむ。何が欲しい?」

「拙者は忍びの技を極めるのを生きがいにしております。それに関わるような武器や道具があれば」

「そうだな。物次第だな。よし、目録を持ってこさせよう」


 なんだかいけそうな気配でござるな!


「ちなみに皇帝陛下の許可はよろしいのですか?」

「陛下は今忙しいからな。ある程度は任されているから大丈夫だろう」

「それならよかったです」

「お、きたな。この中から選んでみろ」


 ふむふむ。たくさん書いてあるけど、どれもいまいちだな…。お、これは?任意に伸ばしたり縮めたりできる縄?欲しいでござる。


「この縄なんて貰えますか?」

「これならいいだろう」


 やった!これは夢が広がるでござるな!


「また向こうに戻って奴らの監視たのむぞ。今日は客間を用意させるから泊っていくとよかろう」

「ありがとうございます」


 いやぁよかった。言ってみるもんだね。じゃあ今日はせっかくだし久々に風呂に入らせてもらうでござる。


 そして風呂から上がって部屋に戻る時、泣きながらちょっと違和感のある歩き方で使用人用の女湯に入っていく綾香を見てしまった。なんで料理人に隷属の首輪が必要なのでござるか…。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る