第7話
「ウルリック様がお亡くなりになりました、至急城にお戻り下さい!」
メイドさんのような恰好…ていうかまんま日本で見たようなミニスカメイドだ。が銀髪のこれまた美人なお姉さんとやってきてカイトさんにそう告げた。
「状況は?」
「国境で大攻勢を受けて敗走、砦まで後退して援軍要請を各地に飛ばしています」
え、もしかして帝国が攻めてきてるってこと?どうしよう、戦争なんて怖くて無理だけど…。
「わかった。至急帰還して徴兵するぞ!」
「承知致しました」
カイトさんの決断が早い!
「さて、フェンリル様ですよね?」
「うむ。やはりバレたか。あの時まで隠しておきたかったが」
え、フェンリル様なの?嘘でしょ?人化は異世界あるあるなのでいいとしても、お父さんだと思ってたよ?あ、ジロリと睨まれた。ごめんなさいフェンリル母さん。
「神竜様と姫様達にカイトは急用で帰ったと伝えておいて欲しいです」
「……乗せて行ってやろうと思ったが、いいのか?」
「はい、奥の手を使うので大丈夫です」
「わかった。こっちのことは任せておけ」
「ありがとうございます」
うわわ、もう話が終わりそう。どうしよう?やっぱり怖いけど行くしかないよね?
「太陽達はどうする?」
「クラスメイトが来てるかもしれないので僕達も連れてってください!」
「太陽、手を。そっちは瑠奈と繋いで。リンはこっち」
「はい」
「いくぞ!転移!」
転移って言った!?すご!カイトさんすごい!
「ここは…お城の…裏庭?うそ…」
「よし!リンは太陽と瑠奈に部屋を用意してやってくれ。その後浴場へ。俺は母上と話してくる」
「承知致しました。タイヨウ様ルナ様こちらへどうぞ」
「は、はい。……カイトさん!今の感覚覚えました、いずれ使えるようになってみせます!」
「うん。期待してるよ」
……………………
「うぁぁ~」
お風呂が気持ちいい!石鹸で体を洗ったんだけど、途中で泡が無くなったから、流してもう一度洗ったよ。まるで今までが嘘のように肌が生き生きとしてる。ん?この石鹸ただの石鹸じゃない?なんか尋常じゃないくらいモチモチスベスベになった気がする。これ日本で売ってもバカ売れ間違いなしだね。
とりあえずなんとか人間の世界に戻ってこれたって気がするけど、この世界のことも何もわからないから色々知らないとね。美少女メイドがいて、こんな大浴場に入れてもらえるカイトさんに付いて行けば間違いなさそうだけど、クラスメイトのことは先にケリつけないとね。
追放されて殺されかけた復讐とかは今の所考えてない。むしろ追放してくれたおかげでカイトさんに会えたし、帝国にいるより良かった気がする。
翔太と綾香はどうしてるんだろう…。仲良しカップル引き裂かれたりしてないよね?
……………………
「それじゃあ行こうか」
メンバーは騎士3人と僕と瑠奈、カイトさんの全部で6人。僕達3人は馬車に乗って、騎士さんたちは騎乗して周囲を護衛している。馬車なんて初めて乗ったけど、すごく乗り心地がよくてこの世界の技術どうなってるのと思ったら、カイトさんが魔法で浮かせているらしい。すごい。
「ところで気になってたんだけどさ、石鹸使ってスッキリしたのはわかるけど、瑠奈の唇ずいぶんツヤツヤプルルンしてない?」
「わかりますか?メイ様がリップを貸してくれました!カイトさんの婚約者さんが新しく作ったらしいですよ?」
「なんだってー!……アリシアも頑張ってるんだな…。絶対に帝国を追い返して生きて帰るからね」
「石鹸作ったのもその人だっていうし、すごいですね!太陽にいっぱい買ってもらいます!」
「瑠奈……」
「太陽も頑張って稼ぐしかないね。貴族のご婦人向けに販売してるから高いよ?」
「が、がんばります!……
「そんな錬金術みたいな魔法あるわけ……あ、できた」
「えぇ…なんでもありかこの人…」
「魔力バカ食いしてこの程度の量だから実用的ではないね」
それでもだよ?カイトさんの頭脳はどうなってるの?もしかして日本でも天才と言われる部類の人だったとか?
途中カイトさんの家の騎士が護衛する馬車と遭遇して止まったんだけど。
「太陽と瑠奈は馬車から出ないでね」
と言って出て行った。どうやら戦死したカイトさんのおじいさんが乗ってたらしい。戻って来たカイトさんからは優し気な眼差しが消えていた。
……………………
辺境伯領都、カイトさんはここの領主の息子らしい。大都市なんだけど…。それはいいとして、カイトさんの母ではないもう一人の義母に引き留められた。それはそうだよね、中学生くらいの子が祖父を失った戦場に行くと言ってるんだから。
でも結局カイトさんの指示通りこっそり抜け出した。あと少しで外壁の城門を潜るという所で騎士の一団に止められた。どうやらカイトさんのお兄さんみたいで話し合いの結果行かせてくれることになった。騎士30人もお供につけてくれて。いいお兄さんですね?
それから夜通し走り続けた。領都で馬車を置いて馬に乗り換えたので、乗れるか不安だったけど大丈夫だった。いや、お馬さんが僕が落ちないように走ってくれてる気がする。馬車から出てバレるとまずいので領都で灰色のローブを買ってくれてフードを被って帝国の人間に見られないようにしてる。
時折カイトさんが変な方向を向いて指を指すんだけど、何をしてるのかはわからない。聞いてみたいけど喋ると舌を噛みそうでできなかった。そうして進んでいるうちにカイトさんが一旦休憩の指示を出した。ヘトヘトだったので知らないうちに居眠りしてた。
夜が明けてカイトさんがどこから出したのか塩むすびを提供してくれた。
「皆食べながらでいいから聞いてくれ。このまま真っすぐ行ってこちら側に備えてる部隊に突撃をかける」
「皆、覚悟はしてきました」
「うむ。最初は俺が極大魔法を打ち込むから、それが終わったら俺を先頭に突撃する。太陽と瑠奈は部隊中央で敵の遠距離攻撃などから魔法でガードしてほしい」
「わかりました」
「皆も太陽と瑠奈はまだ魔法しか使えないので守ってやってくれ」
「突撃する時の隊列だが、俺の後ろは3列でうちの騎士を付ける。太陽と瑠奈はその後ろ中央。そこから4列で片面だけに集中して2人でサポートしながら当たれ」
「「わかりました」」
「よし!俺の魔法の射程に入るまで静かに進むぞ。あと1キロくらいだ」
「太陽と瑠奈ちょっと」
「どうしましたか?」
「クラスメイトが居たらアレと指さして方向を教えてくれ。たぶん顔見たらわかるよね」
「そうですね。飛びぬけて日本人離れしたのはいなかったので大丈夫だと思います」
「たぶん、俺の周囲2メートルは血の雨が降ると思うけど引かないでね」
「うっ、頑張ります」
布陣している帝国軍と囲まれてる砦が見えてきた。すごい数の帝国軍がいるんですけど…。え、あれに突撃するの?嘘だよね?
「ここで止まれ。合図があるまで待機」
ゴウッ!――ドガガガン!
うわ!なんだあれは!でっかい蒼炎の玉が凄い速さで飛んで行ったと思ったら分裂して着弾、そして燃え上が…いやいや嘘でしょ?あんなことが可能なの?
「よし!突撃するぞ、付いて来い!」
炎の輪の外側の部隊目掛けて突撃するみたいだけど、カイトさんその炎見てます?それ、なんかの再現動画で見た火災旋風じゃ…。
「カイトさん、あれに近づくの怖いんですけど…」
「牛久大仏並みに火柱あがってるんですけど…」
「(え?ホントだな…やりすぎたか)」
「よ、よし、そろそろ消そうか…」
この戦場にいる全員が目にした巨大な火柱は、まるで幻だったかのように一瞬で消えた。なんか小声でやりすぎたかとか言ってませんでした?
「カイト様、燃焼範囲に居た帝国軍が消えました。溶けた鎧らしきものが所々転がってます」
「よ、よし、作戦通りだな。あの右側の部隊に突撃して、そのまま砦側面を包囲してる敵まで突っ切るぞ」
「承知!」
それからの突撃は無我夢中でよく憶えていない。飛んでくる魔法を防いでいたのと、カイトさんの周りにホントに血の雨が降っていたことだけ憶えてる。この人ホントに人間なの?
でも、剣を振るいながら後ろも見ずに危ない所へ蒼炎を飛ばす後ろ姿は、何よりも頼もしかった。
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