第1話
「よくぞ参られた勇者達よ!お前達には魔族の脅威に晒されているこのハイドレーン帝国を救ってもらいたい!」
「おいふざけんな!どこだよここ!」
「……今喋ったあいつ、ここから連れ出して殺してしまえ」
「えっ?ちょ、嘘だろ?」
騎士らしき鉄の鎧を着た大男2人に気絶するまで殴られた後に連れ出されてしまった。
「さて、お前達言葉遣いには気を付けるように。この帝国では権力者に逆らうことは許されない」
それまでは不満を持っていた者も多かったが、先ほどの一件もあり皆口を閉ざし怯えてローブの男の話を聞く。
「お前達にはこれから鑑定の儀を受けてもらう。そこのテーブルの前に一列に並べ。乱した者は先ほどの男と同じ道を辿ると思え」
テーブルの近くに居た物から急いで並ぶ。そして鑑定が始まった。
「貴方は鍛冶師ですね」
「生産職の者はこっちだ」
少し離れて立つ騎士がそう言った。
(太陽、どうなってるのこれ)
(わからない。でも逆らったら殺されるかも)
教室がいきなり真っ白になったと思ったらここに居た。まさか異世界召喚というやつかな?それにしても最悪だ。これでは人権なんて無いような扱いではないか。さっきから喋っているローブの男も、奥で玉座のような椅子に座り頬杖ついて冷たい目で眺めてる男も、周りを囲んでいる体格のいい騎士らしき者達も、どのものにも好意的な視線はない。
なんとかして瑠奈だけは守りたい!そう強く願った。
……………………
鑑定の儀が終わった。僕と瑠奈は魔法使いと言われた。
「最下級職の魔法使いの男はそこに立て、女の方は他に使い道ありそうだから残してやろう」
なんか嫌な言葉が聞こえた。最下級職なの?瑠奈の使い道ってどういうこと?
「よし、お前達もよく見ておけ、役立たずは追放だ!やれ」
瞬間、僕に人影が飛びついた。そして景色が変わった。空しか見えない。だけど落下してるというのはわかる。
「っ!瑠奈!」
「太陽!」
「どうして!」
「太陽を一人にしたくなかった!」
瑠奈を見る時に目に入ったが、どうやら森の上空のようだ。もの凄い速度で落下している。
「太陽と一緒なら死ぬのも怖くないよ!」
「瑠奈…」
瑠奈を抱き寄せる。あまり意味はないかもしれないけれど、瑠奈の頭を抱え込むようにする。あと数秒もすれば地上に激突するだろう。
「誰か助けて!」
『いいだろう。女を守ろうとするお主の行動に免じて助けてやる』
「えっ」
猛スピードで落下してきた二人を風がふわりと抱きとめる。徐々にスピードが落ちていき地面にぽふりと降ろされた。
「助かった…?太陽大丈夫?」
「僕は大丈夫――ひっ!?」
目の前に銀色の毛並みの大きな狼がいた。
『……元気そうだな。付いて来い』
「あの、助けてくれたのはあなたですか?」
『そうだ。このフェンリル様に感謝しろよ』
「ありがとうございます」
『うむ。では付いて来い。ここは危険だ。竜が出るぞ』
やばいとこにきちゃったみたい…。
……………………
『さて、お主らなぜあんな所で空から降って来た?竜に落とされたか?』
「いえ、実は――」
命の恩人…恩狼?に隠し事するわけにいかないので全部話した。
『なるほどな。話はわかった。お主らに丁度よさそうなニンゲンがそのうちくるからそれまで面倒みてやろう』
「ありがとうございます!」
『食べ物を獲って来てやるからそこにいろ』
「はい」
良かった。フェンリル様はいい人…じゃなくていい狼みたいだ。でも、これからどうしよう…、この世界で生きていけるのかな…最下級職で。
「太陽、とりあえず生き延びたね」
「そうだね。でもこれからどうしよう?」
「フェンリル様が面倒見てくれるって」
「そうなんだけど、ドラゴンがいるとか、あんな理不尽な権力とかから逃げるには戦う力が必要だよね」
「そっか。私が頑張って太陽守ってあげるよ!」
「じゃあ瑠奈は僕が守るよ!」
『捕まえてきたぞ、食え』
「「えっ…」」
フェンリル様が前足でイノシシを押さえつけてるんだけど、生きてますよ?
『どうした?こうやって食うんだ』
簡単に嚙みちぎってるけど、それ僕らには無理です…。
「あの、フェンリル様…ナイフのようなものってありませんか?」
『ナイフだと?……探してきてやろう』
「よろしくお願いします」
ナイフがあったとしてもイノシシなんてどうやって食べればいいの?
「ちなみに瑠奈さん?イノシシなんて捌いたことは?」
「あるわけないよね…」
「ですよね~」
ああ、どうしよう。なんて過酷な世界なんだろ…。
『ほら、みつけてきたぞ』
前足の指の間にナイフが挟まってた。フェンリル様器用ですね?
「ありがとうございます」
とりあえずこのナイフでフェンリル様が齧ったところから肉を削り出して…
「あの、フェンリル様…火とかありませんかね?」
『ふむ。火なら自分で熾せるだろう?』
「すいません。やったことなくて…」
『手を出せ』
「…?はい」
手を出すと、その手に向かって体から何かが引っ張られる感覚があった。なにこれ?
『今、お主の魔力を引っ張った。同じようにやってみろ』
魔力だったんだ。同じようにってこっちから出すようにすればいいのかな?
『うむ。ではそこに小さい火を念じて魔力を込めろ』
小さい火…小さい火…魔力込める
「あ!火がついた!」
『よし。それが魔法だおぼえておけ』
「はい!ありがとうございます!」
「太陽すごい!」
「やったね!よし、薪を集めて火を熾して肉を焼こう!」
「任せて!」
って言って走って行ったけど、あれ?瑠奈ってそんなに足早かったっけ?
「集めて来たよ!」
「早いね…」
「さっき追放される時に太陽に飛びついた時も思ったけど、なんか体が軽いみたい?」
『魔力で強化して走っておるからだ』
「なるほど。僕も使える?」
『あの程度の魔法なら魔力がある者なら誰でもできるぞ』
「そうなんですね!ありがとうございます!」
「ホントだ!私も火出せた!」
すごいね瑠奈。僕より習得早くない?
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