第8話 問題ねぇよ。エスケープ

灰色の山肌に囲まれた白い広大なカルデラ、

霧のかかった湖、奇妙なくらいに明るい曇天。

白い日の光が雲を突き抜けて微かに見える。

雄大な自然とも取れるが、見渡す限りに一切の緑が存在しない。荒廃している訳ではないのだが。生物の気配もまた同じくして…


そんなところで、砂浜とは明らかに違う、

白い地面の上で、目を覚ました。


「どこでしょうねー。連続でここまで見覚えのない場所に連れてこられるのは久しぶりですよ。」


「前にあったのかよ。」


「今回以外にも何回か連れ去られたことがありますから。」


「そうですか…大変っすね…」


もう既に時間は正午を回っているようだ。

早めに人里を探してまた食べ物を恵んでもらおうか。折角、人から逃げてきたのに、結局は

頼らないといけなくなるのか…厄介だな。


「まあとりあえず、人のいるとこr」


「あ、人です。」


「都合がいいなぁ!」


「おーーい、そこのひとー」


あ、あれか。

湖の端からこちらに歩いてくる人影だ。

確かに人の形はしているが、その風貌は明らかに異様な雰囲気を醸し出している。

だが、間違いなく人影だ。


「よし、人里に降りようか。」


「え?なんでですか?」


「見るからにアブナそうじゃん。」


その人影はいまだゆっくりとこちらに向かってくる。だが、徐々に速度を上げながら、ついには俺の脳天に刀を振りかぶってくる。

うん、やっぱりアブナかった


「エスケーーープじゃねえかーー!」


「お前だれーーー⁉︎」


「おっと失礼、申し遅れました。お隣の子の兄です。」


「え、マジで?」


「嘘です。めっちゃ嘘でございます。」


「うん、私この人知らない。森の中でお肉くれた人にそっくりだけど。」


「…で、どなた様で?」

死装束のような真っ白な着物に、淡い水色の帯を巻いている黒髪の長髪。後ろ髪を結っている。鋭いが、穏やかな目つきをした少年。

同い年くらいだろうか。


「あははは!ボクの名前は…面倒だな、…

こういうものです。」


名刺⁉︎こんなところで持ち歩いてる人間がいるのかよ。


─────────────────────

リト・ボルカラク (17)

魔術系統 雷、木

固有スキル 「特質転換トゥルー・エクスチェンジ」Lv.7

種族 人間

─────────────────────

ん、ちゃんとしてる。能力が…



「君がエスケープ・チューナーで

お隣の子がヒスイ・マーシャル・クラウド。

であ 合ってるな?」


「なんで俺達の名前を?」


「まーまー、あとで話すから。着いて来な。

よく寝てたけど、まだ疲れてるだろ?」


と、その言葉の後、

世間知らずは明らかに着いて行ってはいけないような人の背中を追って歩いていた。


「にしても、派手に飛んでたな〜2人とも」


「それ、見てたんですか…」


「あの森の中から君たちの馴れ初めからしっかりと観察させてもらってたぜ。」


「馴れ初め言うな。」


「あはは…よし、着いた。」


先ほどいた浜からの向こう岸には、

古びた坑道の入り口があった。

近くにある隣からは、霧を発生させている

煙突があった…

煙突?


「工場を見るのは初めてかな?

ガスを長時間吸うのは健康に良くない。

    ささ、どうぞ入っちゃって。」


そしてまた、2人は言われるままに坑道の中に入っていった。


生活感のある部屋。

まさしく、この人間の住処。といって全く違和感のない感じ。そう、つまり形容し難い。


「いらっしゃいボクの部屋へ。工場の管理は1人でやっているから他に人間は誰もいないよ。安心してくれ。

   そうだ!お茶はいかがかな?」



「あ、お構いなく。お肉もいただいてしまったみたいですし。私としてはありがたい限りです。」


「え?そうなの?」


「ああ、そうだぜ。あの時エスケープも俺の肉食べてたみたいだったな。頭おかしくなってたし。」


「まさしくその通りです…」


「あっ!だからあの後の会話とかを聞いてたん

ですね!」


やれやれ、中には感謝するが、

「盗み聞きはよくないな〜。」


「君がいう事じゃないだろ、エスケープ。

まあ、2人の名前だけ聞いたあとダッシュでここまで来たからその後のことは知らないけど。」


「はい…。ともかくありがとう。」


「はいどうも。」


「………」


話のネタが尽きた…

沈黙が始まった。やめてくれ、初対面の人間との会話である無言の時間。無駄にリアルさを求めるなよ。と、言いたいところだが、住んでいるところの割によく話すリトが質問を投げかけてきた。


「で、このあとお二人はどうするんだい?」


「俺は行くあても無く彷徨うことになりそうなんだが…」

自分で言ってて寂しいな。


「じゃあ私はおにーさんに着いてきますね。」


「何がじゃあなの⁉︎嬉しいけど…何の目標もなく

こんな生活続くだけだよ⁉︎嬉しいけど⁉︎」



「おーそうかそうか。

     じゃあボクも着いてくぜ。」




「……ん?」


「……?」


「だから、じゃあボクも着いてくぜっ、て。

旅は道連れ、迷えば諸共。

人生終了向かってGO!って言うじゃないか。」


「ごめん、そんなやつとは行けないわ。」


「冗談だって!」


「工場だっけ?あれ1人で管理してるって言ってたけど大丈夫なの?」


「問題ねぇよ。電動傀儡エレキ・ゴーレムに全て任せてる。」


「そうか…」

悪人ではないし、恩人だし、変な人だし…


「どする?ヒスイちゃん」


「一緒に死ぬ必要が無いなら全然構いませんよ。」


「そこは考えどころだね…」


「だから冗談だって!」

ここまできて断る理由も無いし、

1人気ままに旅をしようとしていたものの

2人になるくらいなら

3人でも変わらないな…


「うん、いいよ。一緒にアテもお金も特に意義もない旅に出よう!」


「さっきもそんなこと言ってたけど自分で言ってて寂しくならない?」


「寂しいよ!だから一緒に行こう…」


「おにーさんやけに素直ですね。」

言われてみればそうだな。

話しやすいし、

本当にいいやつなのかもしれない。


「あっ、改めてよろしくお願いします。」


「ああ、よろしくな。」


「ん、ヨロシク〜」


とまあ、仲間が無事増えました。




さあ、本当に何処へ向かおうか…

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