第4話 返事は無いわね。エスケープ
「あ、あなたの名前はエスケープさんと?」
「そうそう、そうだよ!俺は
エスケープ・チューナーだ。
別に全く怪しい者なんかじゃない」
「さいですか。あ、申し遅れました、私は
ヒスイ・マーシャル・クラウドでふ」
あ、噛んだ。そして、少年じゃなかった。
彼女は少年じゃなかった。
大切な事だから二度言った。
俺よりちゃんとした挨拶もしおって。
緑の目に、フードの下から見える白と水色のメッシュの長髪、きめ細かい綺麗な肌に服。幼なさの残る。顔つき…なんでこんな森に一人で?
そして、相変わらずの肉の匂い……
見た目に反してワイルドだな
「で、その、あの肉は食べますか?いらないのなら食べてしまいますが。」
グハァッッ!
エスケープ・チューナーの
プライドに1000のダメージ‼︎
飯テロの恐ろしさを実感。別の事に気を逸らそうとしたというのに……
まあ餓死するわけでも無いが、
ここまで出されたら、相手にはなんの悪意もないのだろうけれど。
腹が減っては戦はできぬ。戦なんかあったら俺は即逃亡するのだが。今はもう、プライドを捨てる時か。
「いただいても、よろしいでしょうか…」
「もちろん、よろしいですよ。お兄さん顔死んでますもん!なんかもう既に2回くらい死んでる感じですよ!」
笑顔に元気はつらつに言われましても、
「ふふ、俺はもう既に2回死んでるんだぜ。
君の予想通りさ。」
と変に格好をつけて返す自分であった。
むしろダサい。うん、恥ずかしい。
あ、ヒスイちゃんの表情が固まった、引かれたか?だが、それとは違い、驚きの表情だ。背景にがくぜん!の文字が浮かぶくらいに、だ。
そして、その表情での次の一言は、
「あの、私って
実は直感の天才だったりします?」
ほぅ、さてはかなりの自信家だな。つか予想通り過ぎての驚きだったのかよ。こっちが怖いよ、驚かせようとしたのに。目の前にいるやつが2回死んだるって言ってるんだよ?もう少し
別の反応があったり、しなさそうだな…
何はともあれ、死人ジョークだ。
「あ、そうだったお肉、どうぞ。冷めないうちに食べちゃってください。」
うわぁ、なんでいい子なんだ、
「あ、ああっありがとう!この御恩は絶対に忘れないよ。」
再会頭に頭に見事な攻撃をヒットさせてくれた
シオンとは違うな…まだ、絶妙に遠くは無いから口に出しては到底言えないけど。
「うん、分かりました。
それだけで十分の恩返しですよ。」
なんて、…神々しい笑みだ…
せっ、聖人なのか⁉︎
そうかそうかつまり君はそんなやつなんだな?
俺が直々に崇め奉らせていただきましょうか?
ああタダ飯はおいしいなぁ…
でも、どうやったら2人で分けられるほどの肉を?少女というよりは少し幼げな子にそこまでの能力があるのか?確かに自然は豊かで動物も決して少なくは無いのだが、捕まえて調理まで出来るとなると話ば別だ、そしてここは夜の森だというのに。お肉を食べたお陰で
頭が少し冷静に戻ってきた。
「ねえ君は、一体…?」
「私は先ほど申し上げました通り、
ただのヒスイですよ。
それ以上、では全く無いです。」
「なぜ1人でこんなところに?」
「それはお互い様ですよー。ははっ」
全くそれはそうなのだが…
う〜ん…
焚き火の炎で顔の輪郭がぼやける。
そのまま消えてしまいそうな程儚げだ。
表情が豊かな子なのだが、歳の割に妙に落ち着いている。精神年齢で言えば俺よりも上かもしれない。それはそれで悲しいな…
「えへへ、はぐらかしたところで時間の無駄ですよね。なによりお兄さんは、いい人そうですし。私なんかのことで良ければ、話してもいいですよ?」
「俺がいい人かはともかくとして、
話してくれるなら、是非。」
すると、彼女はポケットから小さな指輪を取り出した。青緑色の彼女の名前にもある翡翠の宝石だ。細かい金の装飾やに加え、どうやら魔力も帯ているらしく、見つめることすら拒まれる。中心部分に彼岸花が型どられた赤い翡翠がさらに埋め込まれている。材料の希少価値とは別の重厚感を押し付けてくる。ここまでも綺麗なのに、怖い。何か底知れぬ念を感じる。摂理というか業というか。1人の人間には理解しかねる危険な何かを。
「なんだ、これ…」
その指輪に魅入られてるうち、俺たちは背後の存在に気付くことが出来ていなかった。その直後、自分は自身の無力さを改めて感じさせられる事になってしまった。手慣れた手際によって……
「ほいっとぉ。捕まえたわよ。お嬢ちゃん♡」
去年まで平和だったからって、いつまでもそれが続くわけが無かろうに。異世界に行くような事が自分の身に降りかかったというのに自分の身の回りにそれ以上の厄災が降り掛からないとでも?楽しい時がずっと続くとでも?逃げていたからって幸せに成れる事はある。それでも、危機が来なくなるわけじゃない。そうだというのに、エスケープ・チューナーは弱い。だから
唐突にも先刻までの時間は終わりを迎える。
人生の岐路に伏線なんか生易しく貼ってあるわけがない。それこそ救いようの無いくらいに。
逃げることもままならない人間が、人を逃すだなんてこと……
「小僧、あなたは着いてこないわね?
そうよね?」
「………」
「全く返事は無いわね。ならこの娘と指輪は
貰って行くからね」
「
「
「まあ、追ってきてくれたら幾らでも相手はしてあげるんだけどね。」
そう言って派手な衣装とオーラを纏った長身の男はそのまま居なくなった。
さっきまでの空気と時間とそして何より、
ヒスイちゃんを連れ去って。
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